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問わず語り

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私の作品集です。見ていただけると、とても嬉しいです。
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#物語

日記の影。【ショートショート】

日記の影。【ショートショート】

noteがサービスを始めて、31年が経った。

noteの1周年の日。父がアカウントを作った。

私が生まれたその日から始められたnoteは、父と母の育児日誌として産声を上げた。

最初の投稿は父の「むすめがうまらた!」だった。テンションがおかしくなった上で誤字をして始まった。

父と母は几帳面な性格で、事細かに私がその日何をしたかの一切を詳細に記事に書き続けた。連続投稿10年の偉業を成し遂げた父

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不届きもの連合。【自信作・ショートショート】

不届きもの連合。【自信作・ショートショート】

やあ。ここに辿り着いたという事は、何か届かぬ思いに手を伸ばす気概溢れる人物だと判断するよ。

君にも何かあるんだね。届けと願う事が。

ようこそ。ここは「不届きもの連合」。

君を歓迎する。

まず連合の説明からしようか。

と、言ってもな。さっき説明した以上の事は無い。

ただ、手を伸ばすもの達の集いさ。手段を選ばずね。

対象は様々だけどね。

しきたりや理をあまりにもみんな無視しているからね

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両替。【ショートショート】

両替。【ショートショート】

え?両替ですか?

はぁ。まあここは確かにお店ですけど。

特別屋とでもいいますか。はい。

なので両替はちょっと難しいかもしれませんな。

10000円を1000円に崩してくれ?

いやぁ、お客様それは難しいですよ。

なにせお客様の10000円と私のお店の1000円とでは価値が違うのです。両替になりません。

例えばこちらの1000円は、財布を落とした方が交番で借りた1000円です。家に帰るま

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自画自賛。【空想親睦会】

自画自賛。【空想親睦会】

知っているか?人は権威に弱い。なにせ箔が付くし、あぁこの人は世間に認められたんだ。という分かりやすいスタンプマークであるので、安心感があるのだ。

その人が努力して辿り着いた局地の到達点でもあるから、当然眩しく映る。生きた証と言えるだろう。

後は…そうだな。肩書も同じだな。その人の生き様をわかりやすくした表現、とでも呼ぼうか。君もそう思うだろう?

あぁ、とても分かるとも。額縁、と表現できるかも

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ダレデモダレカ。【ショートショート】

ダレデモダレカ。【ショートショート】

あーもしもし。もしもし。聴こえますか?

周波数あってる?

この放送誰かに届いてるかな。まぁ別にいいか。届いても届かなくても。届く時は届くし、届かない時は届かない。そんなもんさ。でも届いた方が嬉しいのは確かだね。届いてたらいいなぁ。

まぁ、気にせず始めちゃおう。

誰かの為の誰かを紹介するラジオ番組!!

ダレデモダレカ~!!始まるよー!

この番組は誰かの提供でお送りします。

さぁ、今日は

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お茶会。【空想親睦会】

ティーさん(以下T)「ミルクティーとロイヤルミルクティーの違いって結局の所牛乳に依存するのよね」

T「ロイヤルも牛乳の方に掛かっちゃってるわけよ!ロイヤルティーじゃないの。結局ミルク!!」

ミルクさん(以下M)「もー。いきなり手厳しいなぁ」コーヒーさん(以下C)「あぁ~でもわかるなぁ!」

C「カフェオレもミルクの手柄みたいなとこあるもんね。コーヒーがミルクのおかげでカフェオレに名前変わったよ

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1000の時。【ショートショート】

1000の時。【ショートショート】

「なんですかソレ?」

先輩から発せられた聞きなれない単語に思わず聞き返す。

「1000の時を知っているか?」

先輩は大真面目な顔をして私に繰り返した。私の訝しげな表情で知らない事を察すると、一呼吸置いた後に説明を始めた。

「09月30日から10月01日に変わる瞬間に日記帳を開くと、到達できると言われている時だ」

毎年1度、その瞬間にしかチャンスがない。先輩は重苦しい表情のまま私に続ける。

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閉店場所千秋楽。【ショートショート】

閉店場所千秋楽。【ショートショート】

「のこった!のこったのこった!!」

この相撲が通常と違う点は、土俵から出た方が勝ちで、残っている方が負けという点にある。

負けた者にはレッテルが貼られる。

最初は10と数字の書かれたレッテルは、今や50にまで膨らんでいた。50%offと書かれた、屈辱のラベル。

自分に全く価値がないと言われているようで、全く陰鬱な気分になる。

申し遅れた。私は缶のペンケースだ。

税込56円の缶のペンケー

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蓋もある実の話。【ショートショート】

蓋もある実の話。【ショートショート】

なんのとりとめも無い我らの町に、唯一のランドマークとしてそびえ立つ木があった。

樹齢800年を越えると言われるその木は、町の真ん中にある広場に堂々と生えていて、なにしろ目立つのでよく待ち合わせ場所として活用された。

いつしかその木は、「約束の木」と呼ばれるようになった。

町興しの一環で約束の木をモデルにした「ヤッキー」と名を冠されたゆるキャラが誕生し、その絶妙に間の抜けた顔で一時期だけ人気キ

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旅立ち前のシネマウマ。【ショートショート】

旅立ち前のシネマウマ。【ショートショート】

シネマウマは自分の見た景色を身体に映し出す事ができた。

定期的に行われる池での上映会は、池に住む生物達には大変好評だったが、シネマウマは自分が見た景色を白黒でしか表現できない事が不満だった。

池に住む友達のカメは言う。

「すごいや!世界には僕の知らない綺麗なものがたくさんあるんだね。」

シネマウマは言った。

「だけど色がついた景色はもっと素敵なんだ!」

友達のカメにはまだ言っていなかっ

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