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異語り〜コトガタリ〜

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【現代怪談】 日常に紛れ込んだ微かな異の物語を綴っていきます。(毎週木曜日更新)
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#記憶

異語り 082 辻占

異語り 082 辻占

コトガタリ 082 ツジウラ

昼間の観光地はとにかく人が多かった。
土産物屋が並ぶメインストリートなのだから当たり前なのだけど、浮かれている人が多いせいか、道の端に立っているだけなのに何度も人にぶつかっている。

「あっ、すいません」
「……いえ」

既に定型になりつつある受け答えが、自分の周りからも聞こえてくる。

ふうっと息をつき改めて自分の周囲を確認する。
ごった返す土産物屋。
その出入り

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異語り 047 迎えに来たモノ

異語り 047 迎えに来たモノ

コトガタリ 047 ムカエニキタモノ

先週に続いて雨の日の思い出をもう一つ

小学校の頃、住んでいたマンションに西向きの出窓があった。
リビングに直角三角形に突き出た窓。
膝上くらいの高さがあり、大人が腰掛けるのにちょうどいいくらいの奥行きも合った。
でも、結構キツイ西日が入るので何かを飾ることはなく。いつもすっきりしていた。
小学生の頃はよくそこに座って(子供には程よい広さだったので)外を眺め

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異語り 036 入学式

コトガタリ 036 ニュウガクシキ

小学校低学年の記憶はほとんどが断片的でおぼろげなものばかりだ。
けれどもなぜか入学式の記憶だけは鮮明に覚えている。

その日は珍しく父もいて、私は朝からはしゃいでいた。
新しいピンクのワンピースに白いボレロを着て、ピカピカの真っ赤なランドセルを背負って小学校へ行った。

教室の机には自分の名前が書いてあるシールが貼ってあり、新品の教科書が積んである。
6年生の

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異語り 023 扉

異語り 023 扉

コトガタリ 023 トビラ

最近になって唐突に思い出した景色がある。
今まで忘れていたというか、知っていたけど意識に上らなかったような。
そんな気にならなかったものが、強烈な違和感とともに強く記憶を揺さぶってくる。

高校を卒業し進学のために上京した。
最初に住んだアパートはちっとも東京っぽくないのどかな所にあった。
普通列車しか止まらない最寄り駅は歩いて5分。
急行の止まる駅までは自転車で十分

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