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ショートショート集

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蕪木オリジナルのショートショートをまとめました! お題は「#毎週ショートショートnote」参加のものが多いです。
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記事一覧

 【ショートショート】てるてる坊主のラブレター(417文字)

【ショートショート】てるてる坊主のラブレター(417文字)

やあ、随分と久しぶりだね。
元気かな?

うーん、やっぱり元気じゃないかな。
君は、今日も憂鬱そうな顔をしているね。

それもそうか。
明日の天気予報が雨なんだから。

きっとやれるだけのことはやって、もう神頼みするしかないって状況だ。
だから、僕の出番なんだね。

ようし、分かった。
だいすきな君の頼みだから、僕はうんとがんばっちゃうよ。

でもね、僕だって絶対の約束はできないんだ。
もしも雨が

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 【ショートショート】記憶冷凍(391文字)

【ショートショート】記憶冷凍(391文字)

僕は何か大事なことを忘れている。
でも、それが何かは、思い出せない。

そんな状態が、もう何十年も続いていた。
始めの頃は周囲の人に「思い出した?」と何度も聞かれたから、必死で思い出そうとしていた。

でも、最近はもう聞かれることもなくなった。
きっとそんなに大事なことでもなかったのだろう。
いつしか僕はそう思うようになっていた。

忘れた記憶があることすら忘れていたある日のこと。
僕の前に、彼が

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 【ショートショート】放課後ランプ(413文字)

【ショートショート】放課後ランプ(413文字)

成績トップの高梨夢乃さんは、近寄りがたい。
必要最低限のことしか話さないし、誰とも群れない。
おまけに笑顔を見せないから、孤高の存在だ。
ただ、それが格好良いと、男女ともに人気があった。

高梨さんははるか上の段にいて、すべてが並の僕の段からじゃ、目視できない。
それほどに高梨さんと僕の間には段差があったのだが……

「わっ!」
「ご、ごめんなさい。うちのポンタがご迷惑を……」
「ふふふ、可愛いワ

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【ショートショート】トラネキサム酸笑顔(395文字)

【ショートショート】トラネキサム酸笑顔(395文字)

同じクラスの虎根木さんは、今日も笑顔を絶やさない。

今日も今日とて、角くんにはこんなことを言っていた。

「角くん、今日も格好良いのね。惚れ惚れしちゃうわ」

一方、野原くんにも色目を使っているようだ。

「野原くん、今日も色っぽいわよ。あなたにしかない魅力ね」

その様子が気になっていた私は、何でもよく知っている学子に聞いてみた。

「あれは八方美人ってやつじゃないの?」

「違うのよ。あれは

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【ショートショートではなく詩】春ギター(428文字)

【ショートショートではなく詩】春ギター(428文字)

いつだって 迷路のような毎日だ
地図がなくても 君の旅路は続くから
進んでは 行き止まりを見つけて
見えない ゴールを ただ羨んで

それでもなお 背広を着て 行かなくちゃ
朝は来るから 目を開けずとも 眠くとも
満員電車 押し込まれる そんな日を
何度も 何度も ただ繰り返してる

目新しいことなんて 何もないんだよ
君も 周りも 変わりはしないんだろう
それでも 緑の小鳥の声が そう
やけに 

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【ショートショート】オバケレインコート(417文字)

【ショートショート】オバケレインコート(417文字)

梅雨になると、オバケレインコートの噂が聞こえてくる。
なんでも雨の日に限って姿を隠し、見つけたと思えば驚かし、いざ着ようとすると暴れまわるのだとか。

「新しく買ったレインコートがないわ。お出かけは止めにしようかしら」

遠くでママの声が聞こえたけど、まこちゃんには関係ない。
まこちゃんは雨が大好きな上に、レインコートがどこにあるのか知っていたから。

「ばぁぁっ!」

レインコートはまこちゃんの

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【ショートショート】深煎り入学式(456文字)

【ショートショート】深煎り入学式(456文字)

やばい、やばい、やばい!
もう生徒たちが来る時間じゃないっ!

初めての高校で、新入生を任されたから張り切って白のスーツとパンプスを新調したのに。

満開の桜も早々に濡れ落ちてしまいそうな大雨。せめて足元を濡らさないように、と長靴で車に乗ったのが裏目に出てしまった。肝心のパンプスを忘れてとんぼ返りだ。

どうして13階建てマンションの12階を選んでしまったのか。
どうしてマンションの入り口から1番

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【ショートショート】カミングアウトコンビニ

【ショートショート】カミングアウトコンビニ

カミングアウトコンビニなんて看板が出ていたから気になって入店したが、一見普通のコンビニのようだった。
レジの男性店員に声をかける。

「あの、カミングアウトというのは?」
「ああ、1番奥の部屋ですよ。トイレの反対側にあります」

彼が指差した方には、確かに立派な取手のついた扉が見える。

ノックすると「どうぞ」と声がした。
中は拘置所の面会室のようだったが、向こうの口元しか見えないようになっていた

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【ショートショート】涙鉛筆

【ショートショート】涙鉛筆

「特別な鉛筆をあげる。これで手紙書いてね」

いまどき手紙かよ。
それにしてもボールペンで書くし。
そもそも住所教えてもらってないから。

今ならそう思うけど、その時は必死で、素直に受け取ってしまった。
そして別れた3日後には、言われた通りその鉛筆で手紙を書くことにした。
届けるつもりはなかったが、君への気持ちを吐き出さないと頭がおかしくなりそうだった。

その鉛筆は軸が水色で「SLOHINVE」

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 【ショートショート】ショートショート王様

【ショートショート】ショートショート王様

「ショートショート王」

「何だね、隣国の王子、マーガリン・ロングン。いいや、マーロン王子よ」

「ショートショート王は、通名についてどのようにお考えですか」

「どういう意味だ、我が名はショートニング・ショートン。国民は親しみを込めてショートショート王と呼んでおるが」

「言い伝えがあるのです。この辺りの王族は思い込みの強くなる呪いがかけられており、通名の通りの人生を歩むことになると」

「なる

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【ショートショート】動かないボーナス

【ショートショート】動かないボーナス

裕二が貸してくれたゲームもこれで4本目だった。
早速電源を入れ、1人用のモードを始める。

ステージを開始すると、画面右上に経過時間、左上に残機と集めたチップ数が表示されている。
スーパーマリオブラザーズのような2Dアクションゲームみたいだ。
初めてだったが、直感的な操作のみで最初のステージをクリアした。

大体分かったぞ。
ステージ内にあるチップを拾うか、ステージをなるべく速くクリアできれば、チ

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【ショートショート】消しゴム顔

【ショートショート】消しゴム顔

僕は、他人とは目の付け所が違うと自負している。
顔が可愛いとかイケメンとか、そんなことに興味はない。

僕が真っ先に確認するのは、消しゴムだ。
消しゴムは扱いが難しい。
消す力が強いと欠けるし、小さくなると転がって落としやすいし、カバーの扱いに悩むし。
消しゴムがだらしないやつは、きっとろくでもないんだ。
イチローだって、自分の道具を大切にするよう言っている。

僕は早速、休憩時間に転校生の消しゴ

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【ショートショート】君に贈るランキング

【ショートショート】君に贈るランキング

「ゆうたはパパとママ、どっちが好き?」

最近ようやく意味のある言葉を話すようになった息子にそう聞くと、8割は「まんまぁ!」と言ってくれる。
因みに、残りの2割は「ぱっぱぁ!」ではない。
聞こえていないフリ、『ノーコメント』である。

「じゃあ、ママとぞうさん、どっちが好き?」
「ぱおーん!」

ああ、所詮、母親なんてこんなものだ。
『ぱおーん』には誰もが知る童謡があって、その名をよく聞かされてい

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