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恋慕歌~妙から市之進への手紙

遠き日に 池のはたにて 手を引かれ 
兄人せうとのごとく 思ひしが
江戸へ発ちたる 広き背を
送らむとせば 沈みけり
思ひ及ぶは我が心 君欲するや 我が華を
咲かしてみせむ にはのなでしこ

とこしへの 比翼連理ひよくれんりを誓へども 
諸行無常の 砲の
安達野あだちの揺らし 焼け果てたり
君が形見の 雛鳥ひなどりは 秋水しゅうすいに身を 震はせて
もののふなりと なほ君のごと

<現代語訳>
子供の頃に池のほとりで手を引かれたときから、貴方様を兄のように思っていましたが、
江戸へ出発する貴方様の広い背中を見送ろうとして、泣きたくなりました。
そして気づいたのです、自分の心に。
貴方様は、私を娶りたいと思ってくださいますでしょうか。
(それならば)咲かしてみましょう。庭の撫子を。

永遠に夫婦であろうと誓いましたが、 
私達の日常を変えてしまった砲の音は
安達野を揺らし、二本松は焼け果ててしまいました。
(ですが)貴方様の形見である息子は、
秋の水に身を震わせて
「武士として生きる」と誓ったのです。やはり貴方様のように。


タイトルは「れんぼか」と読みます。

実は、笠間様(「白露」の主人公のご子孫)から「白露をイメージした曲の作詞をしませんか」とのオファーがありました。

音楽経験は私もそこそこありますが、「作詞」は未経験。
というわけで、一度はお断りしたのです。ですが、笠間家で見つかった新たな資料を読み進めるうちに、私の心境もどんどん変化していきました。

やはり、これは市之進様夫婦のお導きだったと感じ、つらつらと黙考。
そこでふと「五・七調の歌詞であれば、四拍子の曲のリズムと合いそう」(音数の関係です)と閃いて、試しに「長歌ちょうか」を作ってみた次第です。

もっとも、「短歌」を作ったことはあっても、「長歌」となると、ほとんど作る人はいないのではないでしょうか。
明治期~大正時代にかけて活躍した旧二本松藩士、安部井あべい磐根いわねの頃ですら、「長歌」を作れる人はほとんどいなかったというのですから……。

安部井磐根様に教えを乞いたい!と思いつつ、何とかそれっぽく仕上げてみました。
※磐根様は、短歌だけなく「長歌」の作品も残されています。

新たな資料から、「市之進様と妙様は幼馴染だったらしい」ということがわかり、さらに市之進様は、江戸に出府していたこともあったようです。
それらの情報から、

  • 前半(1番でも):結婚前に、江戸に旅立つ市之進を見送る

  • 後半:夫婦となった二人が慶応4年7月27日を迎え、その後の思いについて

というテーマで、長歌にしてみました。

俳句・短歌ともに私の作品の多くは「文語調」なのですが、今回はやや長いことから、現代語訳をつけてみました。

ところどころ、「和歌」の技法も織り交ぜてありますので、気になる方は探してみてください(笑)。

生まれて初めて「長歌」を作ってみた次第ですが、これは俳句や短歌を作った経験があっても、難しい💦
磐根様などは、これよりも遥かに長い歌を詠まれていますから、本当に尊敬の念しかありません。

それにしても、切ないながらも気丈であり「似たもの同士」であったろう笠間夫妻。新たな史実の登場により、ますます憧れが募るばかりです。

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