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"引き継ぎ自体が属人化してしまっている問題"『引き継ぎガチャがもたらす弊害と対策』とは?

弊社が担う外部相談窓口で寄せらせる声の中に、『引き継ぎ後の残業時間が増えた。サポートも少なく心身ともにキツイ…』というような、引き継ぎを原因とする悩みが結構な割合で存在します。
最近でも、『育休で休んでいる人の業務を引き継いだが、業務の全貌が見えず、その業務をやったことがないためどうすればいいか分からない。仕事をしていて、とにかく不安。このままだと会社を辞めるしかない。』という相談を受けたのですが、若くてとても優秀な社員なのに何とももったいないと感じてしまいました。
このように職場全体が疲弊してしまい、優秀な社員を失う要因にもなりかねない「引き継ぎ問題」は、他にも多くの弊害を秘めています。企業としてもこの問題にもっと危機感を感じて向き合うべきだと感じたので、今回は『引き継ぎ』をテーマに弊害と対策についてお話したいと思います。

そもそも、引き継ぎに関する進め方や内容は、担当者レベルに任せているという企業も多いのではないでしょうか。
その方法でスムーズに進められていれば問題ないのですが、実際には引き継ぎが上手い人と下手な人が混在しており、引き継ぎ業務自体が属人化してしまっているのが現状ではないかと思います。
しかし、それによって最も影響を受けるのは引き継ぎを受ける側であり、問題なのはその後任者にとってはまさに『引き継ぎガチャ』状態であることです。引継ぎが下手な人に当たってしまったが最後、あとは手探り状態で業務を進めるしかなく、残業時間も増え、心身共に大きな負担を強いられる事態になってしまいます。

それでは実際に、引き継ぎ不十分だった場合、残された職場ではどのような弊害、起こるでしょうか。


引き継ぎが苦手な人の特徴

  • 業務をタスクに分解した時の粒度が大きい

  • 業務遂行に必要な知識レベル・スキルレベルを絶対的基準で考えられていない

  • 必要な情報とそうでない情報の区別がついていない

などがあります。

例えば、給与計算業務を担当していた人が休職や異動になり引き継ぎをすることになった場合を考えてみます。

『業務をタスクに分解した時にの粒度が大きい』とは?

業務をタスクに分解した際、人によって粒度が異なることがあります。
例えば「勤怠を集計する」という業務の場合、粒度の細かい順に並べると次のようになります。

粒度 小
勤怠管理ソフトに管理者権限でログインをする、など

粒度 中
勤怠管理ソフトで職種別に集計をする、など

粒度 大
勤怠管理ソフトから勤怠データを給与計算ソフトに入れる

粒度が小さいほど一つの業務に対し洗い出す作業が膨大になり、日々多くの業務についても同様にしていると管理が大変になってしまうように感じます。しかし、日々のタスク管理をこの粒度感でやるかどうかは別として、引き継ぎが上手な人はこの細かい粒度で人に引き継ぎます。
なぜなら「勤怠管理ソフトに管理者権限でログインする」という細かさにしたことにより、そのタスクで発生するリスクや裁量権、責任の所在を洗い出すことができるからです。
よくある引き継ぎの失敗例としては、大まかな業務の流れは引き継ぎイメージはできているものの、細かい作業の具体的な権限やリスクが洗い出せていないことにより、業務の進捗が著しく遅くなってしまうということです。
引き継ぎが苦手な人はこの粒度が業務によってバラバラになってしまったり、粒度が粗いことにより作業手順やリスク、裁量権と責任が明確に伝えられていないのです。

『業務遂行に必要な知識レベル・スキルレベルを絶対的基準で考えられていない』とは?

ある業務を遂行するのに必要な知識やスキル要件は絶対的基準になります。引き継ぎ先のBさんは自分よりも知識やスキルが足りていないなどと考えるのは相対的基準で考えていることになります。言い換えれば「人基準」の考え方です。
一方、絶対的基準とは、ある業務を遂行するために必要な要件を人基準ではなく「仕事基準」で考えることです。自分よりも知識が足りていない、経験が浅いなどは客観的な指標ではありません。
引き継ぐ業務を遂行するのに必要な要件を絶対的基準で明示することで、『何が足りていないのか』『どのようにサポートしてそれらを埋めていくのか』をチームで話し合うことができるのです。

『必要な情報とそうでない情報の区別がついていない』とは?

引き継ぐほどの情報ではない」と判断する根拠はどこから導き出されるのでしょうか?引き継ぐ業務の概要や進捗、担当者情報などだけでは不十分なことがあります。
例えば営業であれば、先方の担当者が意思決定をした経緯も必要になってきます。これまでのコミュニケーションの中で大事とする価値観なども、引き継ぎ時に漏れてしまいがちですが、そのような情報も本来とても重要です。
ではなぜこれらの情報が抜け落ちてしまうのでしょうか。それは業務の分析をした際、『リスク要素を洗い出せていない』ことが原因です。
引き継ぎ上手な人は意識的・無意識的にこれらのリスク要素を洗い出し伝えることが出来ますが、そうでない場合は後任者がまた一から情報を収集していかなければなりません。

以上のような背景から、前任者の引き継ぎレベルによって後任者の負担レベルが変わってしまう、『引き継ぎ業務の属人化』が発生しているのです。

引き継ぎが不十分だった場合に起こる職場の弊害

引き継ぎが不十分だった場合、残された職場では様々な弊害が起こります。
実際に企業から受けた相談事例をいくつか挙げてみると、

  • 引き継いだ人が業務過多になり疲弊している。結果メンタルヘルス不調になり休職、または退職となる。

  • 誰も詳細を把握していないため、何が正解か分からない状態で業務を進めなくてはならない。管理者も正解が分からないので、管理コストが爆増する。

  • 職場全体が疲弊してしまいフォローがし合えず、ギスギスする。結果、ハラスメントが起こる気運を醸成してしまう。

  • サービスに不具合や品質低下が発生し顧客を失う、または損害賠償問題に発展することもある。

『そのうちこうなるかも』『これに近い状態かも…』と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際にこのような問題に直面している組織が数えきれないほど存在するのではないかと想像します。

逆に、十分な状態で引き継いだ場合には上記のような問題は起こらず、職場のサポート体制にも余白があるため職場の一体感も出てきます。管理職も余裕を持った管理をすることができ、十分なフォローが出来ます。後任者も、これまでの業務から出来ることが増えてキャリア形成に繋がります。

どの職場でもどの従業員でも起こり得る引き継ぎ問題ですが、誰から引き継がれるかによって職業人生を左右しかねないほど大きな影響を受けてしまいます。
会社にとっても大きな損害にも繋がりかねませんが、この引き継ぎ問題に対して力を入れている企業は少ないのではないでしょうか。

引き継ぎを現場任せにして大丈夫?

引き継ぎが円滑にできるかどうかは、従業員個人の職業人生に大きく影響するばかりではなく、会社にとっても大きな影響が出ることを指摘しました。
しかし、実際は引き継ぎは担当者レベルに任されており、引き継ぎのスケジュール管理から内容に至るまで管理職側で細かいチェックが行われているとは言えません。
なぜなら、日頃から業務が可視化されておらず、業務の全体像が管理側でさえも把握することが困難になっているからです。
しかし、労働力不足が問題となっている今、そろそろこの引き継ぎ問題に本腰を入れるべき時期ではないかと感じています。

上手く引き継ぐための対策とは?

では引き継ぎ業務自体を属人化させないために、どのような対策ができるでしょうか。
引き継ぎを個人の責任にさせないために必要なのは『業務の分析』です。
ではどのような角度で分析を行えばいいのか。

業務分析の方法

業務の分析をする際には次の事柄を明確にしていきます。

  1. 業務の粒度を最小単位に分解する

  2. 1で分解された単位の作業に対し、作業の流れを意識して順番に記載する

  3. 必要とされる知識レベル・能力レベルを決めていく

  4. 遂行上のリスクを洗い出す

上記の分析を行う過程で、不要な作業があぶり出されます。またリスクを洗い出すことでリスクを最小にするための対策が立ち、PDCAを回していくことにも繋がっていきます。
作業に必要とされる知識レベル・能力レベルを明確にすることで、感覚でやっていた業務のレベル感が可視化されていきます。

タレントマネジメントにおいて、最近『スキルマップを可視化するシステム』をよく見かけますが、スキルマップを可視化すると同時に、業務に必要なスキルも可視化させなければ、システムをフル活用することは難しいのではないかと感じます。

業務分析でマニュアルを作成すればよい」という意見もたまに聞かれますが、マニュアルには必要とされる知識レベルや能力レベル、遂行上のリスクの分析が不十分なことがあるため、Juvenalisでは業務分析をコンサルティングしています。業務分析を行うことでマニュアルも作成できます。

現在、引き継ぎ業務が属人化してしまい悩んでいる組織が予想以上に多くあるのではないかと思います。
これから男性育休や介護休業が増えていく中で、引き継ぎによって職場が疲弊しないように、また従業員の負担が少しでも減るように、今からでも業務分析を行ってみてはいかがでしょうか。


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代表取締役 一木 信輔
社会保険労務士/精神保健福祉士/人事コンサルタント/Notionアンバサダー
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