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『破獄』の感想、失敗について

20240529

■本文抜粋

戦前の行刑制度が苛酷な懲罰の思想に基いていたのに比べて、戦後には囚人の未来をめざしての、教育刑の思想が重くみられるようになったといえないでもない。

なにか辛いことはないか、という問いに、佐久間は、
「出所した者が、また罪をおかしてもどってくるでしょう。その連中に、まだいるのか、と言われるのが辛くてね。いっそ、逃げようか、とも思いますよ」
と、ためらいがちに答えた。
「なぜ、逃げんのだね。その気になれば、いつでも逃げられるだろう」
佐久間は、少し首をかしげると、
「もう疲れましたよ」
と、かすかに笑いながら答えた。

この疲労は、脱獄の繰り返しによる人生の疲労ではあったろう。しかし、あえて脱獄におもむくような苛酷な条件が失われ、刑務所生活がそれほど苦痛ではない状態になれば、むしろ挑むべき壁を失ったために、脱獄の意欲をなくしたのかもしれないのである。

脱獄囚は社会的には“悪”の象徴である。しかし、哲学的な観点から、人生そのものを牢獄と考える見方をとるならば、人間は自由を求めつつ、たえず社会秩序という牢獄の中に置かれている。

■感想

刑務所から4回脱走した、昭和の脱獄王こと、白鳥由栄をモチーフにした小説

肉体的にも、超人であるが、人の心理操作にも長けている。
犯罪などに手を染めず、何かの事業を起こせば、ひとかどの人物になったであろう。
それは、4回目の脱走後には、世間から、称賛の声が上がっていることからも伺える。
犯罪も脱獄も、違法だし、悪いことだけれども、誰しも成し得ないような神技ごとき所業には、人々は畏怖しまた感嘆する。

・なぜ4回も脱走したか?
刑務所での境遇に不満を覚えた。それは、刑務官が、規則を守らせることだけに心血を注ぎ、受刑者のことを人道に背いた扱いをしたから。
網走刑務所が、凍えるほど、凍傷になるほど、寒かったから。寒さは、人の気持ちをくじく。

・なぜ一度は自首したのか?
脱走後、以前、他の刑務所内で、自分を人道的に扱ってくれた刑務官の元へ、自首しに行った。

・なぜ一度は自らの正体を明かして捕まったのか?
職質のときに、頭ごなしに詰問するのではなく、会話するような話し方や、タバコを吸うかと勧めるような、人としての接し方に、ほだされて、心が動いた。

・なぜ5回目の脱走をしなかったのか?
府中刑務所という環境は、網走刑務所と違い、寒さに震えることがなかったから。
刑務官の扱いが、人道的であったから。規則を守らせること、脱走させないことに心血を注ぐのではなく、精神的に受刑者に寄り添おうとした。犯罪者としてではなく、1人の人間として接した。
44歳の受刑者に脱走しないのかと尋ねるシーンで、疲れたと言った。逃亡生活は、野外の隠れた場所、暗闇の中で生活し、また、食べるための食糧を盗む日々、そして、何よりも、ずっと孤独の営み。受刑者に脱獄できない監獄などないけれど、刑務所生活と、逃亡生活とを天秤にかけたら、刑務所生活の方がよかったから。

※脱獄の時は、一番ひどい扱いをした刑務官の就業中に、実行している。それは、刑務官への恨みである。受刑者を脱獄をさせてしまったという責任を刑務官に追わせるためである。

法律を守らなければ、法治国家として成り立たないのは、事実であるが、規則は、人の心を殺すということが描かれている。規則でがんじがらめにしていても、人の心は縛れない。規則は前提にあれど、人の気持ちを推し量って、非情な脱獄者としてではなく、人として接することで、人の心はほぐれる。
犯罪者であろうと、脱獄者であろうと、人の子である、やむを得ない理由があって、犯罪を起こし、過酷な環境や非人道的な扱いで、脱獄した。5度目の監獄で、人間扱いされたことで、脱獄を辞めた。強固で逃走困難な監獄や、手枷足枷や、規則では、人は、抑圧されるだけだ。犯罪を肯定するつもりはないけど、人は誰にでも間違いはあるし、それをやり直すために、刑務所や、人生はある。犯罪ではなくとも、人はいろんな失敗を犯す、失敗のない人生などない、失敗を乗り越えて、失敗を元にやり直して、今がある。

社会のルールや、常識は、人を裁くためにあるような現代において、規則は、私たちに、何をもたらすのだろうか。

規則に沿う生き方をしていれば、失敗しないのだろうか。
常識的な生き方は、正しいのだろうか。
社会のルールに従って生きれば、幸せなのだろうか。

離婚していなかったら、世界一周に行けていない。養育はできたかもしれない、パパとして生きれたかもしれない、でも、世界一周には行ってないだろう。常識的に生きていれば世界一周には行っていない。パパとして生きる人生と、世界一周する人生は、どちらが幸福なのか。そんなことは、この人生の終わりにならないと、わからないけれど、社会のルールなんか、どうでもいいって言って、仕事を辞めて旅人になったから、今がある。規則という枠の外でしか、世界一周という夢を叶えることは、できない。

そして、2回目の結婚も失敗して離婚して、次は、どんなことをしてやろうか。どんな幸せが待っているんだろうか。人生はアップダウン、谷があれば、山がある。山の頂上は、常識では、登れない。社会のルールという平坦な道に、そもそも、山はない。規則の外に出たから、谷を見つけたのだ。谷があるから、山があるのだ。山からの景色は、どんな世界が広がっているのだろうか。そもそも、私は、どんな山を登るのだろうか。谷だからこそ見える景色がある。そして、私は、山を登りきる人生なのだ。









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