見出し画像

社会と土木の100年ビジョン-第4章 目標とする社会像の実現化方策 4.14 総括

本noteは、土木学会創立100周年にあたって2014(平成26)年11月14日に公表した「社会と土木の100年ビジョン-あらゆる境界をひらき、持続可能な社会の礎を築く-」の本文を転載したものです。記述内容は公表時点の情報に基づくものとなっております。

4.14 総括

4.14.1 本章の構成の再確認

以上に記した4.1 から4.13 の13 分野において、「目標とする社会像の実現化方策」の各事項が明らかにされたが、それらのうち、「4.1 社会安全」と「4.2 環境」を除く11 分野については、3.3に示した「持続可能な社会の実現に向けて土木が取り組む方向性」としての、「安全」、「環境」、「活力(経済)」、「生活(社会)」の4 つの大きな方向性のそれぞれと、何らかの関連を有することが明らかである。
たとえば、「4.3 交通」は利用者の安全を優先し、環境に配慮し、活力の源を形成し、生活を豊かにすることに貢献してきたが、将来を構想すれば、その方策が引き続きこれら4 つの方向性に関わることは論を待たない。このことは、「4.9 国土利用・保全」、「4.10 まちづくり」等は言うに及ばず、「4.4 エネルギー」、「4.5 水供給・水処理」、「4.8 食糧」等にも強く当てはまる。したがって、4つの方向性は、13 分野の各々で示された方策の総合的な推進によって実現されると考えるべきであり、各分野内の個々の方策についても、複数の方向性に関連することが予想されるため、分野と方向性との関連付けは包括的であると理解することが適当である。
一方、13 分野をその性格から、なかみとしての分野(図中の縦書き)とかたちや条件としての分野(図中の横書き)に大別して理解することが出来る。それは図4.5 のようになる。

図4.5

すなわち、「4.1 社会安全」、「4.2 環境」、「4.11 国際」、「4.12 技術者教育」、「4.13 制度」のそれぞれが横糸のように全体を貫く横断的な分野であり、目標とする社会像を実現するために必要となる前提や条件、あるいはかたちに相当する。これらでは他の多くの分野に共通する課題と方策が示されている。
これに対して残りの4.3 から4.10 は、個別の分野のなかみに対応し、各々において今後目標とする社会像を実現化するために必要となる課題と方策を構成している。特に、「4.9 国土利用・保全」、「4.10 まちづくり」は、他とも関わりの深い総合的な分野であり、「4.6 景観」、「4.7 情報」等は、なかみとしての具体的な施策を重視すべきと考えて縦糸に配置しているが、かたちとして他分野に共通する事項を有することも明らかである。

4.14.2 実現化方策の展開イメージ

3.3 に示した方向性や4.1 から4.13 に示した実現化方策について、それらを総括して具体的な導入・展開のイメージを図示することとした。そのため仮想的な都市を想定して背景となる下図を作成したが、これは現代の都市に現代の施設をイメージして描き込んだものであり、未来の具体的な姿ではないことを付記しておく。未来の都市像を鳥瞰図として示すことは可能であるが、そのことで特定のデザインが偏ったイメージを形成させてしまうことを避けたためである。

(1) 持続可能な社会の実現に向け土木が取り組む方向性に関する展開イメージ
まず、3.3 に示した方向性を改めて要約して図面上に示してみた(図4.6)。

図4.6 持続可能な社会実現に向け土木が取り組む方向性

12 個の箱の中に、安全、環境、活力(経済)、生活(社会)に関わり、持続可能な社会の実現に向けて土木が取り組む方向性が示されている。これらの方向性は4.14.1 に述べたように、次に示す4.1 から4.13 の各分野に対して1 対1 で対応するものではない。

(2) 直ちに取り組む方策の展開イメージ
①かたちとしての横断的な主な方策
次に13 分野のうち、社会安全、環境、国際、技術者教育、制度という横断的な5 分野の短期的な方策のうち、主なものを抜粋して12 個の箱で図4.7 に示した。

図4.7 社会安全、環境、国際、技術者、制度の直ちに取り組む方策

これらのうち、4.1 の「安全に関して、全体の俯瞰能力のある技術者の育成」、4.12 の「土木技術者のキャリアパスの拡大、多様な人材活用の展開」、同じく4.12 の「産官学の連携教等による高等教育のカリキュラム改変」などは人材の育成に関わり、4.1 の「事前復旧・事前復興制度の確立」、4.11 の「国際貢献とインフラ整備システムの国際展開のための仕組みづくり」、同じく4.11 の「国際展開を目指した国内インフラ事業システムの再構築」、4.13 の「信頼回復のため、安全、契約、管理等の継続的な制度検討」、「未来への想像力を高めるための地域計画や持続性アセス制度の検討」、「社会的決定に至る適正な手続きの制度検討」などは社会の仕組みづくりや制度の設計に関わる方策である。
また、4.1 の「インフラでは守りきれないレベル2 思想の地震・津波以外への適用」、4.2 の「地球環境問題に対して、適応策を組織的・総合的に遂行」や「資源循環、環境汚染、生物多様性に対する取り組みの強化」などは仕組み作りにも関わるものの、速やかな実行によって効果をもたらす横断的で重大な方策と考えている。

②なかみとしての展開イメージ
なかみである8 分野、すなわち、交通、エネルギー、水供給・水処理、景観、情報、食糧、国土利用・保全、まちづくりについて、それらの短期的方策のうち主なものを21 個の箱で図4.8 に示す。

図4.8 交通、エネルギー、水供給・水処理、景観、情報、食糧、国土利用・保全、まちづくりの直ちに取り組む方策

これらはすべて速やかな実行・実現によって効果をもたらす方策であり、人材の育成や技術の開発、あるいは社会の制度の設計などにも関連すると考えられるが、直ちに実現すべき方策として、特に国や地域における政策、計画、事業等の速やかな実行を先導することが必要となる。そのための方策を同時に検討する必要もある。
なお、これらの短期的方策については、相互に関連する方策が少なくないことから、先の4 つの方向性に照らして不整合を生じさせないように十分留意し、それらの総合的な取り組みが最も優れた効果をもたらすように実行するべきであり、かたちに関わる計画や評価の方策等も駆使して、常に効果と影響を含む進捗状況の管理を怠らないことが必要になる。

(3) 長期に取り組む方策の展開イメージ
最後に長期に取り組む主な方策を4.1 から4.13 の13 分野で図4.9 に示しておく。

図4.9 13 分野の長期に取り組む方策

これらは各々が安全、環境、活力、生活のすべてに関わる方策である。詳細は各分野の記述内容に譲るが、ここでは特に強調すべき点を取りまとめている。土木としてこれらの長期的な展開を継続することによって、持続可能な社会の礎を構築できると考えている。

図中の各項を改めて列挙すれば以下の通りである。

4.1 社会安全のため広域ネットワーク、都市構造や土地利用改変による対策の推進
4.2 適応策の推進、資源循環・環境汚染への革新的対応、生物多様性への対応強化
4.3 新技術を先取りした交通システムと土地利用の誘導、実現への制度化
4.4 エネルギー自給率の抜本的向上と炭素中立社会への対策推進
4.5 治水・利水・環境の一体化による水の横断的管理とその制度化
4.6 地域の自治力の向上と景観形成、防災と景観の一体的な思考
4.7 情報による国土管理・地域管理の高度化、インフラとICT の一体化による安全確保
4.8 国土保全と豊かな暮らしのための農業・漁業と土木との連携強化、産業強化
4.9 人口減少下の経済発展のための活動・交流・市場展開、国土強靱化、国境線保全
4.10 コンパクトシティへの行程管理、環境・エネルギー技術の実装、高齢健康都市の実現
4.11 国際市場で通用する人材の戦略的育成、国際的共同研究の体制強化
4.12 将来を先取りした教育体制の確立、教養教育や基礎研究を重視した体制づくり
4.13 長期の目標達成のための制度維持、社会が適切な選択を行える制度構築への貢献


← 第4章 目標とする社会像の実現化方策 4.13 制度

第5章 次の100年に向けた土木技術者の役割 →




国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/