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社会と土木の100年ビジョン-第3章 目標とする社会像~未来に対する土木からの提案~

本noteは、土木学会創立100周年にあたって2014(平成26)年11月14日に公表した「社会と土木の100年ビジョン-あらゆる境界をひらき、持続可能な社会の礎を築く-」の本文を転載したものです。記述内容は公表時点の情報に基づくものとなっております。

3.1 未来予想

各種機関が予想した将来ビジョンなどの既存資料から、現状の課題を踏まえ、日本の社会・経済や国土に関する未来および土木を取り巻く未来予想を整理する。

3.1.1 社会・経済に関する未来予想

(1) 人口
 ①現状認識
日本の総人口は、2008年の1億2,808万人をピークとして、減少傾向にある。それ以前に、年少人口(0~14歳)、生産年齢人口(15~64歳)は減少に転じており、また65歳以上の高齢化人口率は25%と既に世界第一位となっている(2013年:「人口推計」(総務省統計局))。これらは、日本の社会経済に大きな影響をもたらす。一方、世界人口は急増しており、70億人に達している。
 ②将来予測
国立社会保障・人口問題研究所による「日本の将来推計人口(2012)」によれば、日本の人口は、中位推計で2030年117百万人、2050 年97百万人、2100 年5千万人(2100年は参考推計)、高位推計では、それぞれ、120百万人、104百万人、66百万人、となっている(図3.1 参照)。いずれにしても、今後の大幅な人口減少は避けられない。また、当然ながら生産年齢人口も大幅に減少し、中位推計による高齢化率は、2030年 32%、2050年 39%、2100年 41% に達する(高位推計では、2030年 31%、2050年 37%、2100年 37%)。一方、世界人口は今後も増加し、2050年に96億人、2100年には109億人に達すると予想されている(World Population Prospects The 2012 Revision,国際連合、2013)。

図3.1 日本の将来推計人口.
出典:国立社会保障・人口問題研究所、日本の将来推計人口(中位推計)、2012
図3.2 世界の将来推計人口.出典:World Population 2012.

(2) 経済・産業
 ①現状認識
日本は、バブル崩壊後、長期にわたるデフレに苦しんできた。名目GDPは20 年前と比較して上昇しておらず、「失われた20年」とも呼ばれた。また、財政赤字は常態化しており、政府債務残高は対GDP比で200%を超えた。今後、高齢化の進展とともに、社会保障費は増加する可能性が高く、プライマリーバランスの一層の悪化も懸念され、財政破綻のリスクは深刻度を増している。また、東日本大震災以降、電力の安定供給、化石燃料消費の増加等によるコスト上昇等、エネルギー問題も大きな課題となっている。

 ②将来予測
今後の長期の経済動向予測としては、たとえば2050 年までを対象とした「グローバルJAPAN -2050 年シミュレーションと総合戦略-」(一般社団法人日本経済団体連合会・21世紀政策研究所・グローバルJAPAN 特別委員会、2012)があり、①基本1 シナリオ(生産性上昇率が先進国平均並みに回復)、②基本2 シナリオ(生産性上昇率が「失われた20 年」レベルに停滞)、③悲観シナリオ(財政悪化による成長率下振れ)、④労働力率改善シナリオ(基本1 の生産性上昇率に加え、女性労働力率がスウェーデン並みに向上)、の4 つのシナリオに応じたGDP のシミュレーション結果が示されている。今後のGDP 成長率は、生産性が回復しても、少子高齢化の影響が大きく、2030 年代以降は、どのシナリオにおいてもマイナスとなっている(図3.3 参照)。

図3.3 日本のGDP 成長率.出典:グローバルJAPAN - 2050 年シミュレーションと総合戦略-、 一般社団法人日本経済団体連合会・21 世紀政策研究所・グローバルJAPAN 特別委員会、2012

2050年の日本のGDP は、④労働力率改善シナリオ以外では、2010年のGDP を下回っており、世界の中での日本のGDP 規模の順位は、2010年の米国、中国に次ぐ第3位から、①基本1 シナリオでは、さらにインドに抜かれ第4 位、②基本2 シナリオでは第5 位、③悲観シナリオでは第9位、④労働力率改善シナリオで第4位、となる。なお、どのシナリオでも2050年では世界第一位は中国となっている(表3.1 参照)。

表3.1 世界の2050 年における実質GDP の推計 出典:グローバルJAPAN - 2050 年シミュレーションと総合戦略-、 一般社団法人日本経済団体連合会・21 世紀政策研究所・グローバルJAPAN 特別委員会、2012

同文献では、それらのシナリオのシミュレーション結果を踏まえて、今後、日本社会が組むべき課題として、①人材力強化の面から、女性と高齢者の労働促進、グローバル・IT 化に対応するための教育改革、②経済・産業の面から、アジア新興国成長の取り込み、日本の強みを生かした成長フロンティアの改革、エネルギー制約の総合的な解決、③税・財政・社会保障改革の面から、財政健全化、持続可能な社会保障制度の構築、少子化対策の拡充、高齢化に対応した社会システムへの地域主体での変革、④外交・安全保障の面から、ルールに基づいた開かれた秩序の構築、アジアの活力を日本に取り込むためのメガリージョンの構築等、を提言している。
同様に2050年までを対象とした「2050年への構想-グローバル長期予測と日本の3つの未来」(公益社団法人日本経済研究センター、2013)は、①成長シナリオ(市場開放度が先進国平均値まで高まり、女性や高齢者の活用が進展)、②基準(停滞)シナリオ(規制が残り、女性登用も緩やかにしか進まない)、③破綻シナリオ(市場開放度が足元の水準にとどまり、女性や高齢者の労働参加も進まない)、の3 つのシナリオを想定し、2050年の経済状況を予測している。①成長シナリオでは、実質GDP が2010年の1.6倍と増大するものの、②基準(衰退)シナリオでは、図3.2 に示した結果と同様に、2030年代以降は、マイナス成長に陥っており、2050 年のGDPも2010年とほぼ同様の水準(1.06倍)にとどまっている。世界の中では、米国、中国、インド、ブラジルに次ぐ、第5位となる。さらに、③破綻シナリオでは、2050 年のGDPは2010年の84%に減少する。
これらの結果を踏まえ、今後の日本経済成長のためには、①女性・若者・高齢者の活用を阻む、および、正規と非正規を分ける雇用の壁、②国内外からの新規参入を阻む資本・規制の壁、③エネルギーの壁、の3 つの壁を打破すべきと提言している 注1)

(3) 考察
人口減少は、経済成長の将来予測にも影響を及ぼしており、長期予測で女性や高齢者の就業を促すダイバーシティの推進により労働力の確保を図る予測シナリオにおいてもマイナス成長となっている。労働力と言った供給サイドの視点の他に、需要サイドの視点から見ても人口減少は一人当たりの消費が増えない限り日本の総需要の約60%を占める個人消費を低下させるマイナス成長の大きな要因になると考えられる。
このマイナス成長を緩和するには、一人当たりの個人消費を増加させること、またアジア等海外の新興国の経済成長により拡大する海外需要を取り込む輸出の振興を図ることが重要である。前者については福祉や防災などの充実により安心感を覚える社会を築き、より安心して個人が消費をできる環境を整備すること、また後者については輸出振興を目指す加工貿易立国を支える国際競争力基盤を強化することが課題と言えよう。さらに人口減少は図3.1 によると2020年以降急速に進むと予測されているが、そういう状況下でも減少程度を緩和し、一定の人口規模を確保することは国力維持のうえでも重要である。
一方で、少子高齢化は人口構成の高齢化を引き起こし、労働力の担い手である生産年齢人口の減少を招き、将来の労働力不足が危ぶまれ、供給サイドから見ても経済成長の低下要因となる。
また、財政赤字の常態化、膨大な政府債務残高は将来世代の負担を過大なものとし、世代間の受益と負担の不公正をもたらす危惧があり、これらの解消、緩和は急務である。 

3.1.2 国土利用・都市形成に関する未来予想

急速な少子高齢化や人口減少といった社会構造変化を背景とした経済活動の停滞や地域間格差、東日本大震災など多発する自然災害などを喫緊の日本における課題としている。また、温暖化に伴う生態系の変化など地球規模の環境やエネルギー問題を課題としてとりあげている。
そして、これらの課題の解消に向けて、「安全・安心」、「快適」、「健康」、「活力」などが社会に求められているとしている。現状の課題や社会・経済フレームとしての人口や経済の将来予測を踏まえて、いくつかの機関が将来ビジョンとして日本の将来像をまとめている。

(1) 国土利用
 ①人口の地域偏在
我が国の可住地面積は国土の27%であり、しかも小さく分散している。さらに、2050年の1kmメッシュでの人口予想では全国的な平均において約25%減少するとされている。しかし、地域別には現在の半分以下の人口となる地域が6割以上となっている。また、市町村人口規模別の人口予測では、人口規模が小さくなるにつれて人口減少率が高くなる傾向が予測されている。これから生じる人口減少は、国土全体での人口の低密度化と地域的偏在が同時に進行する。その結果、生産年齢人口の減少による日本の国際競争力の低下、自立的に発展できない地域、無居住地域などこれまで経験したことがない新たな現象が進行すると考えられ、そのことにより生じる課題を整理・検討することが必要となる。

 ②国土の有効利用
狭く、分散している可住地の多くが、都市を形成している。その都市は多様な歴史・文化・伝統・産業を有していることから、地域ごとの特徴を活かし、分散している都市を最新の交通ネットワークで結ぶことで、各地の都市機能を維持・強化することが必要である。
また、7割を占める森林においては、国土保全の観点から土砂災害の防止や水源滋養の機能を維持するため営林等による活用・管理が必要である。
一方、我が国の国土面積は世界61 番目の大きさであるが、領海・排他的経済水域は世界第6位、陸地+領海・排他的経済水域面積では世界第9位となっており、レアアース、メタンハイドレートなどの海洋資源を活用したエネルギー政策などが望まれている。また量的に充実している国内の森林資源の有効活用も必要である。
「国土のグランドデザイン2050」 平成26年7月 国土交通省

(2) 安全で安心な生活
安全で安心な生活を確保するために、自然災害や事故に対して備えるとともに、今後増加する老朽インフラストックを適切に維持・更新することが必要である。

 ①自然災害への備え
我が国は世界有数の自然災害の発生国である。特に地震の発生頻度は高く、国土面積では世界のわずか0.25% にしかすぎないが、マグニチュード6.0以上の地震発生(1994~2003年)の約23%を占めている。しかも、我が国の狭い可住地面積の4分の1が軟弱地盤上にあり、かつこのエリア内で高度な社会経済活動が営まれているため、大規模な地震が発生すると被害は深刻なものとなる。その上、中央防災会議によれば、今後30年以内に、東海地震、東南海・南海地震、首都直下地震など、大規模地震の発生する確率は極めて高いことも指摘されている。
また、強風や豪雨による洪水、土砂災害などの気象災害は近年の地球温暖化に伴う気候変動によりますます大規模化、頻発化を強めており、今後の気候変動の増長につれてこの傾向は一層増すものと予想される。
このような状況下でも、日本が安全で豊かな社会を築き、国際的な都市間競争に勝ち抜くためにも、地震、気象災害などの自然災害に対して、安全性・信頼性を高く保持することは必要不可欠な条件である。

 ②老朽化するインフラの維持管理
高度経済成長時代に整備を進めた社会基盤について、高齢化・老朽化がすすみ、更新時期を迎えている。例えば、道路橋については2016(平成28)年には建設後50年を迎える橋梁が全体の約20% に至り、さらに2026(平成38)年には約47%と半数近くに増加する。このような事態に対応するために、構造物の状況(損傷・健全度等)を把握し、ライフサイクルコスト等も考慮した、計画的・戦略的な維持管理が必要である。
また、下水道においては下水管の腐食を検査するテレビカメラなどの検査技術の導入や新素材を使って内面を修復する新たな技術の導入、港湾構造物では海上・海中の厳しい自然環境に対応できる効率的な点検技術の開発等を一層進める必要がある。

(3) 環境
環境省長期ビジョン検討会報告(平成19年10月)では、2050年に実現されることが望ましい我が国の環境像を生活環境、自然環境、物質循環、地球環境の各々で次のとおりとしている。

 ①快適生活環境社会から見た環境像
環境汚染によるリスクの環境監視が適切に行われ、生命、健康、生活環境に悪影響を及ぼすリスクがなくなっている。大都市部の大気汚染、ヒートアイランドが解消され、人々が健康で快適な生活を確保できる水辺環境も回復している。

 ②自然共生社会から見た環境像
農山村が活性化することにより、地域の生活環境である里地里山が適切に管理され、野生鳥獣との共存が図られている。都市周辺においても豊かな生物多様性を育む地域が広く残されている。

 ③循環型社会から見た環境像
資源生産性、循環利用率が大幅に向上し、これに伴って最終処分量が大幅に減少している。バイオマス系の廃棄物の有効利用をはじめとして、廃棄物からの資源・エネルギー回収が徹底して行われている。

 ④低炭素社会から見た環境像
世界全体の温室効果ガスの排出量が大幅に削減され、将来世代にわたり人類及び人類の生存基盤に対して悪影響を与えない水準で温室効果ガスの濃度が安定化する方向に進んでいる。
一方で、地球環境に関しては IPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書に基づく環境省の研究報告書(平成26年3月17日)によると、1986年~2005年を基準とした2081年~2100年における日本の平均地上気温の変化は、RCP2.6 注2) シナリオでは1.0~2.8◦C、RCP8.5 シナリオでは3.5~6.4◦C、海面水位の上昇は、RCP2.6 シナリオでは33~40 cm、RCP8.5 シナリオでは60~63 cmの範囲に入る可能性が高いと予測している。
この報告書では気候変動による影響について、水資源、沿岸・防災、生態系、農業、健康の5分野で地域ごとに予測を行っている。主な項目の21 世紀末の影響は次のとおりである。
・河川流量:降水量の増加に伴い約1.1~1.2倍増加
・洪水被害:適応策なしの場合最大で年間約2416~4809億円増加、2013年頃と比較すると2倍程度に増大
・高潮被害:海面上昇と台風強度の上昇により最大で年間約2526~2692 億円増加
・砂浜・干潟消滅:最大で砂浜の消滅率約83~85%、干潟の消滅率約12%
以上のとおり、望ましい地球環境像に至る道のりは多難で課題が山積している。

(4) エネルギー
今後の人口減少、経済の成長停滞・マイナス成長、さらには省エネルギーの進展などを考えると、日本のエネルギー需要は徐々に減少すると予想される。このようなエネルギー需要の予想の中でエネルギー消費がもたらすCO2 等温室効果ガスの排出による気候変動問題も考慮して、エネルギー供給源は、持続可能性、安全性、安定供給、経済性、環境保全をバランスよく実現することを目標に、確保されることが求められる。
エネルギー自給率が4%と諸外国に比べて著しく低い日本は、長期的にはそれぞれに課題はあるものの再生可能エネルギー、化石燃料、原子力、非在来型エネルギー源などをバランスよく組み合わせるエネルギーベストミックスを抜本的に再構築することが必要である。
風力や太陽光、地熱、バイオマス、中小水力などの再生可能エネルギーはCO2 を排出しない有望な国産エネルギーであるが、技術開発や供給コストにまだ多くの課題を抱えている。化石燃料は現在最大のエネルギー供給源であるが、CO2 排出による気候変動や資源枯渇などの問題を抱えていて長期的にはその依存度を減少させていかざるを得ない。原子力エネルギーはCO2 を排出せず、準国産エネルギーと考えられるが、安全性の確保や燃料廃棄物、廃炉後の処分など大きな課題を抱えている。また、日本の排他的経済水域に豊富に存在するとみられているメタンハイドレートは非在来型エネルギー源として注目されているが、探査・採取技術の開発、コスト低減を図りその実用化に取り組む必要がある。

(5) 生活など
今後も続くと予想される「世界的な人口爆発」と経済力の偏在化は、「水や食糧の地域的な不足」を招くと予想させる。食糧自給率の低い我が国も、肥料の調達を含め、戦略的に食糧自給率を高めることが緊急の課題になっている。また、世界水フォーラムにおいても、安全な飲料水と衛生がテーマとなるなど、国際的な水資源の不安定化とともに、特に「衛生的環境の欠如」、「水資源の水質問題」、「水系リスクへの懸念」、「水系伝染病の発生」などが将来大きな課題になるとしている。
さらに我が国では、渇水被害の発生など水資源の深刻化が予想される一方で、雨水浸透や保水能力の低下による「水循環の変化」、大量の生活排水などの流入に起因する「湖沼、内湾、内海などの閉鎖性水域の水質改善の停滞」や水路の暗渠化等による「身近な水辺環境の悪化」等の状況が進行しており、これらの状況が「水辺と地域との関係の希薄化」や「生態系の変化」にも影響を及ぼしているとしている。
また、都市部においては「廃棄物問題の深刻化」、「ヒートアイランド現象の顕在化」、さらには集中豪雨による被害の多発化、特に市街化が進んだ都市での「都市型水害が増大」している。
「下水道ビジョン2100」H17.9  国土交通省都市・地域整備局下水道部 社団法人日本下水道協会

(6) 考察
人口減少は人口規模の小さい地域でより強く現れ、自立できない地域や無居住地域が今後出てくることが懸念され、国土利用の偏在化がますます顕著になってくるであろう。
この人口減少の影響は社会インフラにも現れる。これまで人間の活動に必要な社会インフラとして各種の公共施設が整備されてきて、そのストックは膨大な量に達している。人口減少や今後の老朽化が進む公共施設の維持管理コストの増加を考慮すると、そのストック量を維持し、また住宅、建物、公共施設など人間活動に必要とされる土地利用量を維持することは困難と考えられる。これは、その削減のための調整作業が今後避けられないことを示唆している。

3.1.3 土木を取り巻く未来予想

(1) 土木業界の動向
我が国の建設投資は、平成4年度をピークとして減少傾向にあり、ピーク時に比べ約半分になってきている。その一方で、建設業者数の減少は建設投資ピーク時から約9% の減、建設業就業者数は同約20% 減と、建設投資の減少ほどには縮小していない状況にある。また、就業者の高齢化が特に進んでおり、建設業では3人に1人が55歳以上となっている。
また、東日本大震災の被災地では、復旧・復興を促進する取組みのほか、東アジア等へのパッケージ型インフラ輸出などの国際協力、社会資本ストックの維持更新や低炭素・循環型社会の構築など時代のニーズに対応する取組みが進められている。
国内の社会インフラの現在の整備水準からすると今後は各種施設の維持更新事業のウェイトが高くなると予想される。また人口減少、土地利用量の減少に伴い、市街地等では活力を維持しながら縮小のための再構築事業が必要とされよう。一方、世界的には今後増える新興国のインフラ需要を中心とした国際建設市場は拡大傾向にあると考えられる。
業界内においては、重層的な下請構造による労働条件の改善や公正な競争環境の整備、法令遵守、入札契約適正化、公共工事の品質確保、多様な契約方式の導入などの取組みが進められている。
また、建設コンサルタント業界では、建設コンサルタンツ協会が昨今の社会情勢の急激な変化を踏まえ、これまでのビジョンに新たな視点「自律した建設コンサルタント」を加えたビジョンを2014年4月に作成している。このビジョンでは、倫理、品質、安定経営を基盤として、コア分野・周辺分野における多様な事業環境への対応や技術開発、技術者を主とした組織力、企業としての創意ある経営など業界の目指すべき方向を示している。

(2) 技術者・技能者
土木学会企画委員会(1999 年5 月)の土木系卒業生(工業高等専門学校、短期大学ならびに大学の土木系学科)分布調査によると、土木事業の増大を背景にして、土木教育は拡大を続けてきた。土木系学科数の増大とともに学科の定員も増員され、1999 年時点の一学年の学生定員は12,779人である。教育の内容は建築・都市分野、社会・経済分野、林業・農業分野、海洋分野そして環境・生態分野、情報分野、資源エネルギー分野等周辺分野に拡大している。
土木系の学校の卒業者数は、1995~1999 年では平均8,613 人/年であり、その89% が土木系業務の職域に就職している。主要な就職先は、中央官庁・地方自治体、公社・公団・事業団、建設会社、建設コンサルタント、鉄道・電力・ガス等の民間企業および学校(教員)であった。(土木学会誌、特集岐路に立つ大学教育 Vol.85  2000.05)
また、2008 年度大学土木系学科卒業生への調査によると、進学を除く就職先は建設業(25%)、官公庁(16%)、建設コンサルタント(11%)を合わせて50% 余を占める。残りの50% は、メーカー・プラント(9%)、鉄道(6%)、電力(2%)、金融、IT 関連企業など就職先は多様化している。
さらに、土木系卒業生分布調査で得られた年代別の学校卒業就職者を用いた、わが国の土木系技術者推計によると、公共事業などの事業量と比較して、技術者がこれまでと同様の役割を担うのであるならば技術者の人員余剰となることが予想されている。その対策として、環境など他分野との統合など様々な方法が考えられるが、長期プログラムや年次プログラムを作成するなど、計画的に取り組む必要があるとしている。
次に、1915 年以降の学会会員数の推移では、1950 年、1973 年の急激な減少を除くと、2000 年まで増加傾向を示している。しかし、近年は若干の減少傾向となり、全会員数は35,000 人超となっている。2000 年以降の会員の減少は、学生会員ではなく、正会員の減少による。
一方、建設技能者については今後の建設事業量の見通しに応じて確保され、また省力化や安全性の向上など施工技術の開発による労働生産性の改善を進めて、これらが相まって建設生産力を確保していくことが重要である。

(3) 考察
土木業界に関する上記のような国内外の建設市場の将来動向に鑑みると、優れた技術力と供給力を有する日本の建設産業が維持更新事業や付加価値の高いインフラ事業、海外展開を推進していくのは世界的にみても有用と考えられる。また、これをより推進するには日本の建設産業はこれまでの資材・労働集約型のコンストラクション産業からより技術集約型のエンジニアリング色の強い産業に変貌することも考える必要がある。このような方向は、土木業界の各分野、各主体が新たなビジネスモデルを構想しつつ、互いに連携し時には一体となって未来像を考えることが重要である。
一方、土木技術者を輩出する教育界、彼らを受け入れる産業界の最近の動向に鑑みるに、今後の事業量の予想からして技術者の余剰を予想する向きもあろうが、建設産業が技術集約型産業を目指すとなると技術者需要は高まると考えられる。
また、土木技術者・技能者の確保、育成に関しては土木技術教育では今後履修分野の拡大、多様な学際教育も視野に入れることが重要であり、これまでとは異なる多様で幅広い知識・技術を学習した技術者が活躍できる産業分野の裾野の広がり、多様化を土木界は目指すことになるであろう。この他にいわゆる3K と言われる労働環境・処遇の改善は、技術者・技能者の土木分野での就業、定着に不可欠であり、土木技術の多様化・総合化と相まって土木の魅力を高めるものであり、これを推進すべきである。

3.2 目標とする社会像

数百万年前に人類の祖先が誕生して以来、これまで人類は地球の様々な環境の中で生活し、社会を築いてきた。水を利用して農耕を行い、鉱物資源を採掘して物を形造り、燃料を使って大きな力を獲得し、くらしを向上させてきた。その中にあって土木工学は、農業、治水、道路・港湾・鉄道、都市整備など、国土利用や防災などに関わる様々な面で社会の基盤を支えてきた。特に我が国の土木の100年を振り返ると、明治維新以来、社会基盤の整備が産業の振興、生活の向上に大きく寄与し、我が国を世界の一流国に押し上げるのを支えてきた。
しかし、近年になって、人類の活動は地球が吸収し影響を打ち消す範囲を超え、地球全体への影響が無視できないレベルに達した。今、私たちは地球の有限性を明確に意識し、その持続性を究極目標として追求することによって、人類の歴史が地球の歴史と共に継続的に展開するようにしなければならない。この人類の重大な岐路において、土木界は重い責務を負っており、無数にある課題の一つ一つに具体的に取り組み、将来の世代の繁栄を可能とするような、持続可能な社会の実現に向けて全力を挙げて進んでいく必要がある。
世界史の流れにおいて、産業革命はそれ以前に比べて生産活動を格段に飛躍させ人類の生活水準を向上させた。それは同時に大量の資源とエネルギーの投入を必要とするために、近年になって資源の枯渇の懸念が表面化している。そして、大量投入の結果として、廃棄物問題や地球温暖化問題が生じている。ローマクラブが成長の限界という警鐘を鳴らしたことがその象徴であると捉えられる。また、コンピュータの発明がもたらした情報革命は、社会の産業・生活構造を革新的に変化させようとしている。しかし、情報処理量の増大は、地球規模の環境との関係において、現在はその影響が限られているものの、コンピュータそのものやデータセンターを含めた使用電力量が有意なレベルに達したことに見られるように、やがてその使用電力量の無制限の増大は許されなくなるであろう。また、世界の中でも先進国から未開発な国々まで、その存在に関わる多様な問題を抱えている。ここでも持続可能システムの構築が重要テーマとなる。
国内にあっては、明治維新以来の殖産興業・富国強兵策は、国民の生活水準を向上させ、日本の世界的地位を引き上げた。第二次世界大戦での敗戦による国土の荒廃からも復興し、高度経済成長を遂げた。過去100 年の土木の歴史をひもとけば、明治初期の鉄道開業に始まる全国の鉄道網の整備により、人と物の移動を格段に容易にし、交流を進化させた。琵琶湖疏水を含む水管理は、単なる水資源利用や治水の枠を超えて、社会全体の発展に寄与してきた。港湾は国内外を結ぶ大量の交通手段を提供し、特に産業の発展を牽引してきた。さらには、道路、上下水道、空港、国土・都市・地域開発など、土木がこれらの基盤づくりに貢献したという事実は、前章に記述された多くの事例を始めとする無数の事例が示している。特に国土総合開発法に代表される国土の基盤づくりは、高度経済成長を支えた。また、洪水対策を始めとする防災事業は、国民の安全確保とともに、産業の順調な成長に寄与した。これらは、古市公威初代会長が主張した土木の総合性が結実させたと言ってよい。しかし、昭和40年代に社会問題化した環境問題は近年は地球規模の問題となっており、また、資源の有限性も地球全体としての問題として顕在化しつつある。今後、問題の解決に向けて一段と高いレベルでの総合性が求められている。
3.1 で紹介した日本の将来に関する予測によれば、人口減少と高齢化が明らかであり、それにしたがって経済活動も後退するとされている。放っておけば社会保障費などの支出増大と生産力の低下が負のスパイラルに入る可能性も考えられる。その中で国土・都市に関して、人口の偏在化にともなう過疎化問題、地球規模の気候変化の問題、巨大災害の問題、インフラの維持管理問題、エネルギー確保の問題、水資源問題などの懸念が前節で述べられているが、同時に海洋資源や再生可能エネルギーの利用可能性も示唆されている。
今、私たちは現世代の繁栄と共に、将来の世代も繁栄できるような、持続可能社会の実現に向かわなければならない。その方向に向かって、環境を保全し、安全を確保し、そして人類の豊かな生活基盤を整備しなくてはならない。しかも、資源に恵まれない我が国においては少子高齢化が進む中で、経済を適切に牽引しながら目的に向かわなければならないという問題を含んでいる。
そこで、まず人口問題に関しては、現状の女性の就業率の増加とともに高齢者の就業可能年齢を引上げることにより、全体としての全人口に対する就労者の割合は一定に保たれる。そのための社会のインフラづくりが重要である。人々の健康の維持に貢献する衛生管理・環境管理を始めとして、高齢者が自由に移動できるような交通システムを整備したり、高齢者が活動しやすい都市・地域づくり、高齢者が働きやすい職場環境の整備など、土木の貢献の余地は大きい。また、エネルギーに関しては、現在の全世界で使用される一次エネルギーは太陽から地球に放射される太陽エネルギーに比べればわずかなレベルであり、それを何らかの手段で再生可能エネルギーに置き換えることが持続可能な最終目標となる。そのために、現在実用化されている水力・風力・太陽光を始めとする再生可能エネルギーの利用を拡大するとともに、メタンハイドレートなどの新たなエネルギーの開発を進めなければならない。そして、利用可能な再生可能エネルギーの余剰分が確保できるようになれば、鉱物資源などを再利用することに投入し、持続可能にすることができる。
しかし、これらは短期間で達成されるものではない。したがって、現在を持続可能社会への移行期間と捉え、最終目標に近づくための最大限の努力をしていくことが重要である。土木界は、このような方向性に沿って、具体的な課題解決に総合的に貢献すべきであり、なすべきことは無数にある。このとき、目標達成のためには、土木は従来の技術に拘泥することなく、他分野を含む新たな技術をも取り込み消化する必要がある。土木はその総合性の故に、常にその中味は変わるものでなければならない。
人類の生活を豊かにするためには、必要な水、食糧、資源、エネルギーを確保するとともに、人や物の移動を支える交通、都市・地域の計画などのために、社会基盤施設を整備しなければならない。その際に子孫に負担をかけない形での持続性を確保しなければならない。水循環を正確に理解し賢く利用すること、食糧生産や輸送のための基盤を整備すること、資源として限られたエネルギーの利用を最小限に節約しながら再生可能エネルギーに代替していくこと、だれでも行きたいところへ速く移動できる交通システムを整えること、それによって緊急医療を始めとする様々なサービスを受けられるようにすること、高齢者が無理なく社会貢献できる環境を整えることなど、これまで以上に土木工学の貢献の場が広がっている。持続可能な開発を実現しなければならない。
2011 年東北地方太平洋沖地震津波の被災地の復興は急を要するものであり、土木工学は他の分野との協力体制により全力を尽くしている。また、近未来に危惧されている南海トラフ巨大地震や、地球温暖化によって激化する洪水などの気象災害などに対して、今からできる限りの備えをしておく必要がある。さらに、強風、火山噴火、土砂災害などの災害全般に対し、まずは人命が失われることなくするとともに、被害を最小限に食い止め、受けた被害からも迅速に復旧・復興ができるような、危機管理体制を構築し、強靱な社会づくりを進めなければならない。持続可能な防災システムを実現しなければならない。
環境は人類の生存の基盤であり、地球環境や地域環境に関わる様々な問題に対して、対症療法的に対応するだけでなく、予防的に保全する必要がある。このために、水、大気、地盤、生息場・生態系の質の悪化を抑え、改善していく努力が必要である。河川・湖沼・閉鎖性内湾の水質・生態系の改善、大気中への有害ガス放出の抑制、土木工事からのごみの発生抑制・適正処理、生物生息場の創造、地形の保全など、環境の維持・向上を図る努力をすべきである。持続可能な環境保全を実現しなければならない。
目標とする持続可能な社会とは、ある場所、ある水準にとどまるというものではない。社会が本性的に有するダイナミックな動きの中で、終局的な破滅を回避し、持続性が実現されなければならない。そこでは、地球上の多様なすべての国々の独立性と連携の中で、人々の自由と平等に基づいて、個人が社会の発展を支え、社会が個人の生存と成長を保証する。その実現のために、土木は、あらゆる境界を開き、持続可能な社会の礎を築くのである。

3.3 持続可能な社会の実現に向け土木が取り組む方向性

以上に示したように、今世紀末までの長期を見据えた目指すべき姿として、持続可能な社会を目標に定めたが、その実現のために土木が今から取り組むべき様々な課題のうち、特に強調すべき方向性を、安全、環境、活力(経済)、生活(社会)の4 つの視点から改めて示す。本ビジョンの副題にある「あらゆる境界をひらき」は、土木があらゆる他の主体と、また、あらゆる技術や事業等の面で、連携や協力を推し進めることを意味しており、そのことで社会と土木との関係が一層強化でき、社会の持続可能なシステムの基盤を構築することもできるとしている。長期に亘り、様々な課題に丁寧に取り組み、それを継続することで、持続可能な社会の実現に向けて前進できると考えるが、そのような考え方は、2000年の仙台宣言(土木技術者の決意)で既に示された、土木技術者が「自然を尊重し、現在のみならず将来世代の安全、福祉、健康を増進することを最優先し、人類の持続的発展を目指して自然・地球環境の保全と活用の調和を図る」と記された理念を発展させるものである。その点を具体的な方向性として以下に示す。

まず、安全という点では、
(1) 社会基盤システムの計画的な利活用と人々の生活上の工夫で、自然災害等の被害を減らし、安全な都市・社会の構築に貢献するとともに、社会基盤システムの安全保障を継続的に強化して、社会基盤施設が原因の事故で犠牲者を出さないことにあらゆる境界をひらき取り組む。
「安全」については、社会基盤施設の計画的な利活用の重要性を示すとともに、それだけでは安全確保に限界があることから、地域に暮らす人々の住む場所や住まい方を含む生活上の工夫との両者が必要である。社会基盤システムの安全保障については、それを継続的に強化することで、自然災害から社会基盤施設を守ることの重要性に加え、重大事故の影響を最小限に留めることや、テロや犯罪等への対策を継続的に強化すること等、通常時から社会基盤システムの安全保障を高め強化することも必要である。昨今の高速道路トンネル天井板の落下事故や、鉄道脱線事故などのように、何ら落ち度のない利用者が社会基盤施設によって傷つき命を落とすことが決して起こらないようにすることは、土木として責任を持って取り組むとしている。

環境という点では、
(2) 自然を尊重し、生物多様性の保全と循環型社会の構築、炭素中立社会の実現を早めることに貢献するとともに、社会基盤システムに起因する環境問題を解消し、新たな環境の創造にあらゆる境界をひらき取り組む。
「環境」については、自然を尊重して生物多様性や循環型社会の構築に貢献すること、そして将来は新たな温室効果ガスを大気中に排出しない炭素中立社会の実現を早めることに、土木として出来る限りの力を持って貢献する。その上で、社会基盤システムの整備や維持管理、使用停止以降に発生する環境問題を解消することと、新たに環境創造を果たすことが、土木の責務になっていることを改めて明らかにする。過去には、公害問題等も含め、我が国では多数の環境問題が発生し、その後解決あるいは緩和されてきたが、開発途上国等では社会基盤整備によって発生する環境問題が今後も増すと予想され、我が国においても老朽化した社会基盤施設の撤去やその存置や放置に伴う環境問題等の増加も予想される。これら環境問題を軽減し解消するための技術開発や財源措置、総合的な計画段階からの取り組み等が一層求められることから、その解消を強調し方向性としている。そのうえで、将来に亘って、新たな環境創造のために様々な技術開発や創意工夫を継続し、持続可能な環境を産み出すことを方向性として示している。

活力という点では、
(3) 社会基盤システムの利活用等によって交流・交易を促進し、我が国が世界経済の発展に継続的に貢献するとともに、土木から新しい産業を創造して社会に役立てることにあらゆる境界をひらき取り組む。
「活力」については、社会基盤システムを常に適切な状態に維持し活用することで、我が国が世界経済の発展に継続的に役割を果たせるとし、少なくとも社会基盤施設の問題がその役割上障害とならないよう、土木として貢献することを示している。土木から積極的に、我が国をはじめ先進諸国や開発途上国のそれぞれに適した新しい産業を創造して、それらを必要とされる限り普及させることで、国際社会に貢献する方向性としている。土木から新しい産業を創造し役立てることについても、既に環境、安全、生活、食糧等に関わる様々な起業が試みられ、新しい産業の芽も生まれつつあると考えられることから、国際市場を視野にそれらを展開し社会に役立てることを将来の方向とする。

生活という点では、
(4) 百年単位で近代化を回顧し、先人が培ってきた地域の風土、文化、伝統を継承し、我が国やアジア固有の価値を十分踏まえた風格ある都市や地域の再興と発展に貢献するとともに、地域の個性が発揮され各世代が生きがいを持てる社会の礎を構築することにあらゆる境界をひらき取り組む。
「生活」については、土木として都市や地域の再興と発展に貢献する方向性を示し、そこに暮らす人々が誇りと生きがいを持てる社会の基盤形成を、土木の独断に陥ることなく、そこに暮らす人々と共に取り組む姿を示している。2000 年の仙台宣言では「歴史的遺産、地域固有の文化・風土、伝統を尊重するとともに、新たな文化・文明の創造に努める」としており、土木技術者が新たな文化・文明の創造に努めるとされている。本宣言では土木の領分として、具体的に都市や地域の再興、持続可能な社会の礎の構築に照準を定めて貢献するとしている。また、「我が国やアジア固有の価値」については、西欧の文化・文明を近代化の過程で受け入れてきた歴史にはアジア各国で違いがあるものの、自国の文化や風土を大切にする傾向が歴史的にも強い。一方、我が国は積極的に西欧文化・文明を受け入れてきた歴史もあり、今後、アジアの一員として協働的に地域再興を図る上では、アジア固有の価値への配慮、我が国地域の伝統的な価値の復興等に一層目を向ける必要がある。
さらに、「風格ある都市や地域の再興と発展」については、我が国だけではなく、各国の地域で街並みの画一化が進み複製都市と称されるように、どこも似たような店舗の立ち並ぶ風景がみられる。今後、各国各地の文化や伝統に根差した都市の再興が求められ、巨大化する自然災害等から如何に都市を守り続けるかが重大な課題になると考えられる。持続可能な社会のありかたを、そこで暮らす人々の観点からみると、地域の個性を発揮できることが、その地域に住む人々の誇りや愛着を取り戻す原動力となり、また高齢者から若年層まで各世代が生きがいを持てるような生活や就労の環境が人口の維持や増加にもつながると考えられ、持続可能な社会の必要条件であると考えられる。それを支えるハード、ソフト、様々な基盤の整備を地域に合わせて計画的に進める必要がある。 

土木は目標とする社会の実現のため、土木の総合性を発揮しつつ、安全、環境、活力(経済)、生活(社会)に関わる様々な具体的施策を推し進めるが、それらは、社会安全、環境、交通、エネルギー、水供給・水処理、景観、情報、食糧、国土利用・保全、まちづくり、国際、技術者教育、制度の各分野に対応し、それらの短期的施策、長期的施策の実現に向けた取り組みを継続する必要がある。これら13 項目の施策を早期に実現するためには、国や地域(自治体に加え、コミュニティ、NPO 等を含む)における政策、計画、事業によらなければ実現しないことも多く、上位段階の政策や計画への位置づけ、事業化へのプロセスなど、実現のために構想されなければならない事項も多い。これらを先導する強い意志を土木として持つべきである。以下の第4章の各セクションでは、以上に示した13分野のそれぞれの具体的な目標、現状の課題、短期的施策、長期的施策を順次明らかにする。なお、第4章の各セクションは安全、環境、活力、生活のそれぞれに個々に対応するものではないが、関連する幾つかのセクションでこれら4つの視点が重点的に論じられる。特に、4.1 の社会安全、4.2 の環境に続く、4.3 から4.10 で活力および生活に強く関わる分野が順次記述され、4.11 から4.13 では以上の目標を実現する上で必要となる国際、教育、制度という横断的条件が示されることになる。


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目次

第4章 目標とする社会像の実現化方策 4.1 社会安全 →


注1)  日本政府は、「日本再興戦略- JAPAN is BACK」にて今後の成長戦略を提示しており、本将来ビジョンとも関連する様々な戦略が示されている。失われた20 年間で生じた構造的な澱みを解消するために直ちに取り組むべき必達計画である「日本産業再興プラン」では、「立地競争力の更なる強化」が掲げられており、空港・港湾など産業インフラの整備や、老朽化した建築物の更新等による都市環境や生活環境の向上、良好な治安の確保、防災力の向上等を通じた、都市の国際競争力の向上が重要、とされている。また、高齢化社会等の様々な課題先進国として、これを世界に先駆けて解決することで新たな成長分野を切り開こうとする「戦略市場創造プラン」では2030 年のあるべき姿が記述されており、高齢化社会に対応するものとして、医療産業の活性化等に加え、安心して歩いて暮らせるまちづくりのための高齢者向け住宅の建設や生活拠点の集約化、コンパクトシティの実現等が記されている。

注2) 気象庁;RCP(代表的濃度経路)シナリオ気候変動の予測を行うためには、放射強制力(地球温暖化を引き起こす効果)をもらたらす大気中の温室効果ガス濃度やエーロゾルの量がどのように変化するか仮定(シナリオ)を用意する必要がある。政策的な温室効果ガスの緩和策を全体として、将来の温室効果ガス安定化レベルとそこに至るまでの経路のうち代表的なものを選んだシナリオをRCP (Representative Concentration Pathways) という。IPCC 第5 次評価報告書のこのRCP シナリオに基づいて機構の予測や影響評価を行うこととした。RCP シナリオでは、シナリオ相互の放射強制力が明確に離れていることをなどを考慮して、2100 年以降も放射強制力の上昇が続く「高位参照シナリオ」(RCP8.5)、2100 年までにピークを迎えその後減少する「低位安定化シナリオ」(RCP2.6)、これらの間に位置して2100 年以降に安定化する「高位安定化シナリオ」(RCP6.0)と「中位安定化シナリオ」(RCP4.5)の4 シナリオが選択された。“RCP”に続く数値が大きいほど2100 年における放射強制力が大きい。



国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/