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社会と土木の100年ビジョン-第4章 目標とする社会像の実現化方策 4.4 エネルギー

本noteは、土木学会創立100周年にあたって2014(平成26)年11月14日に公表した「社会と土木の100年ビジョン-あらゆる境界をひらき、持続可能な社会の礎を築く-」の本文を転載したものです。記述内容は公表時点の情報に基づくものとなっております。

4.4 エネルギー

4.4.1 目標

(1) 目指すべき目標
有史以来、特に産業革命をきっかけとして人類が消費するエネルギー量は著しい増加の一途をたどり、現在の主要なエネルギー源である化石エネルギーの枯渇が懸念されるとともに、化石エネルギーの大量消費が地球温暖化を引き起こすことが強く懸念されている。今後、その実現までにいかに長期の時間を要しようとも持続可能なエネルギー利用を実現することは、人類と地球にとって必須の課題であり、これをエネルギー分野における最優先かつ究極の目標とすべきである。
この持続可能なエネルギー利用の実現に向かうためには、まずエネルギー利用をできる限り効率的にし、最大限の省エネルギーを行うとともに、エネルギー源を再生可能なものに切り替えていく必要がある。しかし、現状では、省エネルギーにも限界があり、また、発展途上国などの経済発展に伴うエネルギー需要の増大により、エネルギー需要はさらに増加を続けている。また、再生可能エネルギーへの転換は、再生可能エネルギーの賦存密度が低いことや、現状でのエネルギー変換効率の技術的限界などがあり、大量のエネルギーを許容範囲のコストで供給することは一朝一夕に実現することではない。そこで、それに至る移行期間としては、省エネルギーの徹底と再生可能エネルギーの開発に最大限の努力を続けながら、同時に化石エネルギーの効率的利用や非在来型エネルギーの開拓、原子力エネルギーの安全な利用なども加えた適切なエネルギーミックスのもと、多層化・多様化した柔軟なエネルギー需給構造を構築することにより、安全で安定したエネルギー利用の実現を目指していくことが必要である。

(2) 目標とすべき基本的事項
以上のことを勘案すると、将来のエネルギーを考える上で目標とすべき基本的事項としては、長期的観点にたって、

• 持続可能性(Sustainability):再生可能エネルギーを中心に、生産・調達・流通・消費のエネルギーチェーン全体の観点でバランスのとれた循環型の持続的なエネルギーシステムの確立

を最上位の目標事項としつつ、これを実現するための短中期的取組にあたって、以下の4 点(S+3E)のバランスのとれた実現を目標事項としていくことが必要である。

• 安全性(Safety):国民生活および企業活動(生産・調達、流通、消費の各段階)における安全性の確保
• 安定供給(Energy Security):国際情勢を踏まえたエネルギーの供給安定性の確保
• 経済性(Economy):エネルギーコストの社会的受容性、国際競争力、価格変動(高騰)への耐性の確保
• 環境保全(Environmental Conservation):省エネルギーや低炭素エネルギーによる温室効果ガス排出量削減対策への適合性の確保

4.4.2 現状の課題

(1) エネルギー源調達の脆弱性
資源に乏しい我が国は、石油やガスなどのエネルギー源のほぼすべてを海外に依存している。特に中東地域からその多くを輸入しているため、政情不安など発生した場合には、たちまち我が国にその影響が波及するなど、エネルギーの安全保障問題と常に背中合わせである。また、世界の需給バランスでエネルギー価格が決定されることを踏まえれば、今後世界的エネルギー需要の増大が見込まれる中で、エネルギー価格の変動・高騰がたちまち我が国の経済にも直接的に影響する要因となる。このように、我が国はエネルギー供給の脆弱性に係わる様々なリスクを抱えているといえる。
特に東日本大震災後、原子力発電所の運転が停止し、その代替として火力発電所を焚き増ししている現状においては、エネルギーの海外依存度が震災前以上に高まっているだけでなく、費用面においても国内全体で年間数兆円の追加的な燃料費を支出している状況となり、我が国全体の経済に与える影響も無視できない状況にある。
これまで土木技術は、エネルギー関連施設の整備等を通じてエネルギーの安定供給に貢献してきており、土木技術者には今後もその主導的な役割が期待されている。さらに、上記リスク低減のため需要面においても、これまでの研究成果を反映したエネルギー利用の高度化を図る土木技術の適用・展開が求められている。

(2) 原子力発電の安全性に対する懸念
東日本太平洋沖地震とそれによる巨大津波のために、福島第一発電所において送電線倒壊・非常用電源装置損壊によって電力供給用の電源が喪失し原子炉の冷却機能が停止した。その結果として放射性物質の大量放出といった深刻な事故を引き起こすこととなった。
一般的に土木技術は、自然現象・災害に対する安全性確保の観点で、大きく関与・貢献してきたと考えられ、原子力においても断層の活動性や設計津波の研究に長年取り組んできた。しかしながら、東日本大震災以前には、設計で基準とする値を上回る事態に備えての事前・事後の対策に関する研究や現場での取り組みが不足していたといえ 注9)、東日本大震災前まで主張していた原子力発電の安全性に対して、原子力専門家を含む様々な方面からの懸念が高まることとなった。
一方、省エネルギーを徹底的に進めても、なお再生可能エネルギーですべてのエネルギーを賄うまでの道のりは遠いため、原子力発電はその移行期における有力な選択肢のひとつである。
したがって、原子力発電の安全性に対する懸念を解消し、原子力利用への理解を醸成することが土木技術者に課せられた大きな課題である。

(3) 温室効果ガス排出量の増加
気候変動に関する国際連合枠組み条約(UNFCCC)のもと、世界各国が温室効果ガスの抜本的かつ継続的な削減に取り組んでいるところであるが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の作業部会が「CO2 の累積総排出量と世界平均地上気温の応答は、ほぼ比例関係にある」という新知見を2013 年9 月に公表したことをうけ、今後、世界各国にはより一層厳しい削減対策が求められる可能性がある。
我が国の場合、温室効果ガス排出量約13.4 億トンCO2(2012 年度)のうち、一般電気事業者関連の排出量は約4.9 億トンCO2 にのぼり、東日本大震災後の原子力発電所運転停止に伴う火力発電所の焚き増しにより、約1 億トンCO2 増加している状況にある。このため、世界各国に更なる削減対策が求められるようになれば、特に我が国のエネルギー部門においても、温室効果ガス排出量の増加に対してより厳しい対応が求められると考えられる。

(4) 巨大自然災害リスクの増大
エネルギー関連施設は山間部や沿岸に立地する場合が多く、絶えず自然と対峙した環境におかれている。近年において、気候変動の影響とも考えられる極端な気象現象によって豪雨災害が頻発している状況や、また首都直下地震や南海トラフ地震といった巨大地震の発生確率の高まりなど、巨大自然災害リスクが高まっている状況にある。
エネルギー関連施設はライフラインそのものであり、ひとたびその機能を失った場合、国民の貴重な生命に影響を及ぼすだけでなく、場合によっては施設損壊により甚大な公衆災害をもたらす可能性もあることに十分留意する必要があり、それへの対応が必要となっている。

(5) エネルギー分野における成長戦略と国際連携への対応
将来の我が国のエネルギー需要は、省エネルギーの進展に加えて少子化による人口減少等の影響によって、これまでのような増加傾向は長期的には予想しにくい。そのため、技術面を含めたエネルギー業界の成長が停滞するだけでなく、我が国で蓄積してきた省エネルギー技術の適用の機会が限定されるため、十分な効果が発揮されない可能性もある。
一方、海外においては新興国を中心としてさらなるエネルギー需要の高まりが予想されており、またそれに伴う世界的なエネルギー価格の不安定化も懸念されるため、埋蔵量に限りがあるエネルギー資源の有効利用はこれまで以上に求められると考えられる。
ここに我が国で蓄積してきた技術を広く海外に推進・展開することは、我が国の成長に寄与するだけでなく、世界規模での省エネルギーにも貢献することであり、その取り組みにおいてより具体的なアプローチが求められている。

4.4.3 直ちに取り組む方策(既存の枠組みを最大限に活用する方策)

エネルギー分野を取り巻く現状の課題に対応するためには、短期的には、現時点で実用レベルの技術が確立されたエネルギー源を対象に、取り組みを進めていかねばならない。土木学会としても、そのような社会の動きに呼応して、過去の技術の蓄積により貢献できる分野、土木がイニシアチブを取って技術開発していくことが最も効率的な分野においては、最大限の活動を実施していくことが求められる。

(1) エネルギー需給構造の変化に向けた取り組み
①再生可能エネルギー 注10) 拡大に向けた取り組み(供給側の取り組み)
2012 年にFIT 制度が始まり、導入コスト面での障壁がある程度取り除かれたことから、再生可能エネルギーの開発拡大が期待される。
我が国の再生可能エネルギーの中でも、資源量で世界第3 位を誇る「地熱」は、発電コストも低く、比較的安定的で大きな出力が期待できることから、土木技術を中心とする既存の開発技術の更なる進展(さらなる開発コスト低減策、環境負荷軽減策、温泉等への影響緩和策など)、規制緩和(国定公園内での開発行為)、アセスの簡素化等が望まれる。
また、「風力」も大規模に開発できれば比較的発電コストが低く、とりわけ「洋上風力」は、周りが海に囲まれている我が国にとっては、陸上の適地が限られるという課題を克服し、大量導入できる可能性があるエネルギー源であるため、実用化に向けた技術開発を推進する必要がある。
「風力」とならんで現在発電容量が大きい再生可能エネルギーが「太陽光」である。低緯度の砂漠や海洋では相対的に大きな日射量があり、さらに太陽光発電の効率が現在もまだ向上していることから、面積規模を拡大することにより、さらなる再生可能エネルギーの増加が必要である。
さらに、国内供給量の1 割を担う「水力」については、安定的で優れたエネルギー源として重要な役割を果たし、一定の開発が進められてきたところであるが、今後は、既存水力施設のリプレース等の出力増強による有効利用を図るとともに、新たな未開発地点が多い中小水力についても、地域の分散型エネルギー源、循環型エネルギー源として更なる活用を進めていく必要がある。
一方、再生可能エネルギーを大量導入する上での課題もある。それらは、1) 出力の不安定さ(太陽光、太陽熱、風力など)、2) 地形・制度上の条件等による設置可能場所の制限(水力、風力、地熱、海洋エネルギーなど)、3) エネルギー資源確保上の制約(バイオマスなど)、4) 電力系統への接続上の制約(需要規模の小さい系統へ接続する上での制約など)などである。したがって、電力貯蔵設備の開発や送電網の構築に係るインフラ整備を並行して進める必要がある。
またエネルギー源の多様化の一つとして、水素社会に向けた製造・輸送・貯蔵・配送等に関するインフラ整備を進める必要がある。

②省エネルギー社会の実現に向けた取り組み(需要側の取り組み)
石油ショック以降40 年の成果として、産業部門の中で特にエネルギー効率の向上に関心の高い製造業では、鉱工業生産指数当りのエネルギー消費原単位は1973 年度比で44.6%(2011 年度)に縮小するなど、省エネルギーの推進に努めてきた。また近年は、民生部門における建築物・住宅の高断熱化や省エネルギー機器の導入、運輸部門における車両や船舶等の省エネルギー化など、今後高い省エネルギー効果が期待される部門での省エネルギー対策が進められている。こうした省エネルギー対策の普及および対象の拡大を今後も進めていく必要がある。
土木技術分野においても、エネルギー効率の高い交通システムの構築、高度道路交通システム(ITS)の開発やスマート・コンパクトシティの形成など、情報通信技術を活用した交通・都市インフラ整備等を通じて、省エネルギー社会の実現に貢献していく必要がある。
更に、省資源/資源の有効活用の観点から、石炭灰の有効利用、コンクリート等の廃材利用、下水汚泥・林地残材等のバイオマス活用などを積極的に推進する必要がある。

(2) 安全性確保を前提とした安定供給確保のための原子力エネルギーの利用
省エネルギーを徹底的に進めても、なお再生可能エネルギーですべてのエネルギーを賄うまでの道のりは遠く、そこまでの移行期のエネルギー利用体制を早急に整える必要がある。その選択肢を広げるためにも、まず優先的にすべきは、失われた原子力発電への信頼を取り戻す努力、すなわち安全性のさらなる向上と透明性のあるわかりやすい説明により、原子力利用における安全の確保について国民の理解を得ることである。その際のキーワードとしては、地震・津波・台風・竜巻・火山現象等に対するロバスト性、信頼度、リスクコミュニケーション、地震津波等の自然現象を扱う地球物理学分野と工学分野間の連携、などが挙げられる。また、今後も原子力利用を進めるためには、放射性廃棄物の最終処分に関わる地点選定に係る課題を解決し、核燃料サイクルを完成させるための道筋についても明らかにする必要がある。
東日本大震災の教訓を得て、当学会の原子力安全土木技術特定テーマ委員会は、新たな提言「原子力発電所の耐震・耐津波性能のあるべき姿に関する提言(土木工学からの視点)」をとりまとめた。そこでは、

• 地震・津波に対する設計の枠組みの見直しと、従来の「安全性」に加えた「危機耐性」の概念の導入。
• 新たな設計およびリスク管理の枠組みを実現するための原子力発電所敷地内での技術。
• 「危機耐性」の概念を原子力発電所敷地外に拡張し、総合的に安全性を確保することの重要性。
• 東日本大震災で被害の拡大防止や影響緩和に成功した例や、その後の緊急安全対策で土木工学が果たしている役割と、これらの継続的な改善のための部門の垣根を越えたコミュニケーションの必要性、および、その他の自然災害に対する同様の取り組みへの期待。

などが述べられている。

一方、現在の原子力規制委員会も、これまでの自然現象・災害に対する設計基準を強化するとともに、設計基準を超える自然外部事象・人為事象によって引き起こされうる重大事故(シビアアクシデント)に備えるための基準を策定した。これは、提言にある「従来の「安全性」に加え、新たに「危機耐性」の概念を導入した設計の枠組み」に通じるものであり、この新たな概念を設計にすみやかに取り入れ、かつ一歩一歩着実に原子力の安全性を向上させ、その内容を丁寧に分かりやすく世の中に発信してゆく必要がある。ここでのキーワードは、地下空洞(高レベル廃棄物処分場、原子力発電所)、耐震や耐津波等の解析評価技術、原子力発電所の免震技術などであろう。
同時に、福島第一原子力発電所における除染、汚染水対策、廃炉等については、土木の総力を挙げて、喫緊の課題として取り組んでいく必要がある。また、汚染廃棄物の中間貯蔵から最終処分、福島第一原子力発電所廃炉措置にともなう放射性廃棄物処理・処分の課題は、今後長期的に取り組んで行く必要があり、課題解決の見通しを早期に示してそれを着実に進展させていくことなくして原子力エネルギー利用への信頼性を取り戻すことはない。引き続き、他学会等とも連携を密にし、オールジャパンでの叡知を結集して持続的な取り組みをしていく中で、総合力を得意とする土木技術は大きな役割を果たしていく必要がある。

(3) 化石燃料の高度利用による温室効果ガス排出量削減への取り組み
化石燃料は、当面一次エネルギーの主力であるため、環境負荷を低減する技術(IGCC 注11)、CCS 注12) 等)の研究・開発・実用化が必要である。特にCCS については、地下貯留に適する地盤の評価や地下空洞構築技術の大半は、土木技術が担うと考えられるため、実用化に向けた研究・開発を促進する必要がある。

(4) エネルギー関連設備の強靭化・維持管理への取り組み
エネルギー関連設備の多くは沿岸に立地し、大規模地震等発生時には、地震のみならず津波による被害も受けやすい。また、津波被害では、土木・建築構造物のみならず、電気・電子機器の浸水による損傷により、最低限の機能を確保する応急復旧であっても長期間を要する懸念がある。
一方、東日本大震災においてはエネルギーライフラインのネットワーク機能の有効性が確認されたことから、ガスパイプラインや送電網(国際連系含む)など含めたシステムとして防災対策技術を向上していく必要があり、その際には、エネルギー施設に被害を与えうる気象に関する最新の知見も取り入れ、自然現象・災害に対する耐性を向上させることが必要である。
さらに、土木構造物に関しては、構造物が致命的な破壊に至るまでの過程がわかりにくく、外観上被害が見られなくても内部で被害を受け、その機能を事実上失っている場合もあるため、土木構造物の事後の復旧性、稼働性を診断する技術についても、高度化を図っていく必要がある。
特に、想像を超える災害発生時に大きな社会的影響が懸念される大規模土木構造物等においては、「減災」技術の検討・活用により、コストの適正化と効果の最大化を追求する必要がある。
また、これらと同時に耐用年数を勘案して、エネルギー関連施設の維持・管理も他の施設とともに重要である。

(5) インフラ輸出による国際展開の強化
これまで我が国で蓄積した産業施設整備、建築物・住宅整備にかかる土木技術も含めて、土木分野においても我が国が有する優れた省エネルギー技術を積極的に海外に展開し、地球規模での温室効果ガスの排出削減を図っていく必要がある。
特に、エネルギー需要が増大する途上国のインフラ整備に関して、環境性能の高い我が国のエネルギーインフラ技術をパッケージとして輸出し開発支援を行うことにより、先進国と途上国の技術の二極化の解消を図るべきである。

4.4.4 長期に取り組む方策(将来のあるべき姿の実現に向けた方策)

(1) 省エネルギー技術を通じた地球規模の問題解決に向けた貢献
我が国は、石油危機をはじめ様々な理由による厳しいエネルギー制約の中、技術を向上させることで多くの困難を克服してきた。とりわけエネルギー消費効率の向上、つまり省エネルギー技術が果たした役割は大きく、間接的に温室効果ガスの排出量削減にも貢献している。
今後も省エネルギー技術は、我が国の強みとして、さらなる技術の積み重ねにより新たな課題に対処していくとともに、地球規模の問題解決に貢献していく必要がある。

(2) エネルギーミックスの抜本的再構築(エネルギー自給率の向上、温室効果ガス排出量削減)
①現状の再確認
第一次石油ショックから40 年が経過した今もなお、日本のエネルギー供給構造は、相変わらず脆弱であることが顕在化しており、エネルギーミックスを抜本的に再構築する必要性に直面している。
エネルギー源の多様化が進んだとはいえ、我が国のエネルギー自給率は4% 程度であり、中国91%、アメリカ68%、インド74%、英国65% 等と比べて著しく低い 注13)。したがって、エネルギーを考える上で目標とすべき視点「S+3E」を将来にわたって持続可能なものとするために、我が国は100 年かけてエネルギー自給率を実質的に高めるための抜本的な対策を施す必要がある。

②再生可能エネルギー
再生可能エネルギーは、温室効果ガスを排出しない有望な国産エネルギー源であるが、COP3 から20 年経過した今もなお、エネルギー密度の低さに起因する開発コストの低減化等に係る課題から脱していない。
現時点で実用化途上にある「洋上風力」「海洋エネルギー」並びに今後実用化が期待される「高温岩体発電」、バイオマスエネルギーの大量生産・利用、更には太陽光発電に関する先進的な取り組み(ソーラーセル帆走筏発電システム)等も含め、100 年かけてでも抜本的な課題解決に向けた取組みが必要である。

③原子力エネルギー
原子力エネルギーは、運転時に温室効果ガスを排出せず、供給安定性と経済効率性を同時に満たす、基幹的準国産エネルギー源であるが、安全の確保が大前提となる。国民の理解と信頼を得つつ、エネルギー需給構造の安定性を支える基盤となる重要なベースロード電源として利用を図ることが必要である。
また、日本で最初に原子力エネルギーが使用された1963 年から既に50 年以上が経過しているが、現時点で高レベル放射性廃棄物の最終処分場などに関する解決の目途はたっていない。土木界も参画してできるだけ早期に最終処分場の見通しを示すことなどを含む核燃料サイクルに係る諸課題を解決し、100 年スパンの核燃料サイクル事業展開を安全を前提に着実に進展させていくことにより、原子力エネルギーを国民に受け入れられる持続可能な準国産エネルギーへと成長させる必要がある。

④非在来型エネルギー資源 注14)
我が国の国産エネルギーとして期待の高い、排他的経済水域に豊富に存在すると見られるメタンハイドレート 注15) について、商業ベースで開発が可能となるよう、既存の探査技術や採掘技術のコスト低減及び新技術開発 注16) を踏まえた実用化への取り組みが必要である。

(3) エネルギー施設経年化への対応
水力については、大規模ダムの建設の時代は収束しつつあり、堆砂や高経年化がじわじわと深刻な課題になっている。今後は河川治水及び流域関係者との新たな関係を構築しつつ、これまでエネルギーを支えてきたダム等のエネルギーインフラをどう維持・更新、あるいは、リニューアルさせていくか、建設に携わってきた土木技術者が、しっかりと腰を据えて取り組むべき大きな課題である。同様のことは古い水路や都市部管路にも言えるため、設備保全の観点からも考える必要がある。

(4) さらに先の100 年に向けて
二酸化炭素からエネルギーをつくりだす「人工光合成」や海水中に無尽蔵に含まれる重水からエネルギーをつくりだす「核融合」、更には海洋・宇宙太陽光発電など、これまで述べた以外にも革新的な次世代エネルギーの基礎研究が日夜進められており、可能な限り早期に実用化を図らなければならない。


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注9) 第84 代土木学会会長である松尾稔先生は、震災以前より『「設計の概念」とは、①(対象とする主たる)事象が起こる前の決定(事前の意思決定で、通常、これが設計と呼ばれている)、②事象が発生中の対応、③事象が起こった後の対応、の3 つの段階とそれら3 者の有機的連関を包括したものであり、その前提の上に立って、「設計とは不確実性の下での意思決定問題」』と定義している。またさらに、『②、③の具体的対応策も含めて、事前にすべて意思決定されるのが、「設計」である。この場合、①、②、③の“安全性に対する”「信頼度」が同等であるべきことが最低条件だが、②、③に至るほど「信頼度」を高めておかねば「系」全体としての「信頼度」を保てない問題があることに注意すべきである。』と述べている。

注10) 太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、大気中の熱その他の自然界に存する熱、バイオマス(以上、エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律での定義)+波力・潮力、流水・潮汐など。

注11) 石炭ガス化複合発電(Integrated coal Gasification Combined Cycle)。IGCC は、石炭をガス化し、コンバインドサイクル発電と組み合わせることにより、従来型石炭火力に比べ更なる高効率化を目指した発電システム。

注12) 工場や発電所などから発生するCO2 を大気放散する前に回収し、地中貯留に適した地層まで運び、長期間にわたり安定的に貯留する技術(Carbon dioxide Capture and Storage)。

注13) 資源エネルギー庁によると、2010 年の我が国のエネルギー自給率(エネルギー供給に占める国産エネルギーの割合)は、原子力エネルギーを除いた場合で4.4% であり、原子力エネルギーを含めても19.5% にすぎない(2012 年度は、震災により定期点検に入った原子力発電に代わる発電燃料として化石燃料の輸入が増大したため、エネルギー自給率は6.0% まで減少している)。なお、フランスは原子力エネルギーの開発促進により、実質的なエネルギー自給率を9% から52% 程度まで向上させている。

注14) 代表的な非在来型資源は、石油系では、「オイルサンド」や「シェールオイル」、天然ガス系では、「シェールガス」「タイトサンドガス」「CBM」など。次世代の国産エネルギー資源として脚光を浴びている「メタンハイドレート」も、非在来型の天然ガスの一種とされている。

注15)「砂層型」メタンハイドレートについては、東部南海トラフ海域において、我が国の天然ガス消費量の約10 年分の原始資源が賦存していると推定(http://www.mh21japan.gr.jp/mh/03-2/)されている。

注16) 2005 年以降のシェールガス革命は、「水平坑井(坑当りの生産量拡大)」「水圧破砕(ガスの流れにくさを改善)」「マイクロサイスミック(採取範囲のコントロール)」という3 つの技術の確立により、効率
的かつ経済的な生産が可能となり、一気に進展した。



国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/