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社会と土木の100年ビジョン-第4章 目標とする社会像の実現化方策 4.7 情報

本noteは、土木学会創立100周年にあたって2014(平成26)年11月14日に公表した「社会と土木の100年ビジョン-あらゆる境界をひらき、持続可能な社会の礎を築く-」の本文を転載したものです。記述内容は公表時点の情報に基づくものとなっております。

4.7 情報

4.7.1 目標(結論)

(1) 情報の将来ビジョンの対象
「情報」の持つ意味は多様であるため、はじめに、将来ビジョンで描こうとする「情報」の範囲を整理しておきたい。ここでは、インフラ 注20) の計画・整備・管理に関係する様々なデータを用いて適切に業務を遂行するために必要となる、1) 地理情報システム(GIS)、情報通信ネットワーク、データベース等の「情報基盤」と、2) CALS/EC・CIM、ITS (Intelligent Transport System)、アセットマネジメント等の「情報活用」の2 つの視点から将来ビジョンを描く。

(2) 情報に関わる目標
1)情報基盤の構築
①情報基盤の全体像
情報基盤は、インフラが適切に建設・管理されるよう、また、インフラの状態が施設管理者だけでなく国民も広く知ることができるよう、インフラの状態を収集、蓄積、伝達、可視化する機能を持って、土木施設と一体となって管理運用される 注21) ようになるだろう。また、こうした状態を本来のインフラの姿として、構造物の設計も当初から情報基盤を内包した形でなされ、インフラに関する法制度や施設管理のルールも情報基盤を前提としたものになるだろう。いわば、インフラにおけるサイバー(情報世界)とフィジカル(実世界)が連動する 注22) ハード、ソフト両面からの情報基盤の実現である。これらの情報基盤は、他の様々な情報基盤とつながって全体として整合の取れたアーキテクチャで構築される。

②情報基盤を支える技術、ルール
インフラを支える情報基盤において実際に採用、運用される技術は、インフラが果たしている様々な社会・経済活動の基盤としての位置づけや役割を反映して、その情報基盤における標準化を議論する際に重要な意味を与えるだろう。例えば、地図情報システム(GIS)の分野で国土情報として採用される技術やルール 注23) は、一般的に用いられる技術やルールにも影響を与えつつ、それらと整合したものになるだろう。また、施設管理等で用いられる通信標準、データ標準等 注24)は、当該施設と関係する分野の通信標準、データ標準等と整合をとった形で整備され、社会全体として調和した情報基盤が構築されるだろう。

2)情報活用環境の運営
インフラのライフサイクル-調査、計画、設計、工事、維持管理、更新・廃棄、利用-において発生する「データ」を適切に生成・収集・蓄積・管理・流通・活用できる「情報活用環境」がますます重要になる。
情報の収集・蓄積・管理に関しては、収集・蓄積されたデータの信頼性が重要となるため、インフラの状態等を把握するためのデータ及び取得方法、諸元情報、状態情報、利用情報等データの蓄積・管理方法及びこれらの運用ルールと責任者などが定義され、それらの内容を誰でも参照できる環境を整備する。
こうした情報管理の実現とあわせて、蓄積されたデータ連携を可能とするインターフェイスの定義、データ利用の際のルールなど、分散して蓄積されたデータを流通させ相互に利用可能とする条件が整備される。こうした条件が整うことにより、様々な情報からなるビッグデータ 注25) の利用・分析が可能となり、その結果を業務で活用するための標準的なユーザーインターフェイスやBI(Business Intelligence) 等のツールが各方面から提供されるだろう。また、こうした情報活用環境を運営するため、利用者から利用料を徴収するなどの仕組みが構築されるだろう。

(3) 情報面からみた目指す社会像
1)情報基盤
①国土管理・地域活動・経済活動の活性化を支援する
空間情報では、既に実世界に点在する様々な基準点と情報空間上の基準点が連動 注26) する仕組みがあり、地理情報システム(GIS)が3 次元化される中で、現在の社会・経済活動に係るデータの蓄積とその分析結果をもとに様々な活動を予測し、地域の活性化につながるような地域計画、経済活動支援などが行われる。また、それらの解析に必要な各種のMAP、3 次元計測データ等の空間データが提供されるとともに、これらの標準技術と連動したマイクロジオデータ 注27) 等の政策立案のためのツール、データが提供される。また、衛星や無線等の情報基盤は、通信だけでなく人や物の位置を認識する機能を提供し、空間情報や各種データと組み合わせて国土管理や地域・経済活動の活性化等に活用される。

②日常時、非常時の情報通信ネットワークを確立する
インフラの整備において、神経系である情報通信ネットワークがインフラの一部として内包された形で整備され管理・運営される。ここで整備された情報通信ネットワークはインフラの管理だけでなく、他の目的にも利用可能な状態で運営され、様々な社会・経済活動の基盤として機能する 注28) ことになるだろう。特に、非常時においては、センサー等を通じてインフラの状態を把握する機能として、組織間の連絡では一般回線とは別の情報通信回線として、仮想化の技術などを用いて多目的に利用される。

③データにアクセスし利用できる環境を整備する
インフラに関する情報に関して、必要な人は誰でもデータにアクセスし利用できる環境を整備する。具体的には、データに関する取扱いルール、アクセス可能な環境、データを利用するための条件等をルール化し適切な費用で利用できるオープンデータ 注29) の環境を整備する。個々の主体が保有するインフラに関する各種の情報を管理するデータベースは、一定のルールの下で相互に利用可能な形で運営される。

2)情報活用
①情報を活用して施設管理を高度化する
インフラに関する各種のデータを活用して、施設の状態や利活用の状況を正確に把握することにより、現場層から経営層までデータに基づく合理的な判断を行うことで、インフラの効果を最大限発揮する適切な業務の執行が可能となる。例えば、CALS/EC・CIM 注30) における業務プロセス間のデータ流通による業務改善、アセットマネジメント注31) における資産状態の把握・推定による適切な管理・活用などがある。また、インフラの状態を示す情報を公開することにより、社会的な理解を得つつ適正な水準で整備・管理を行う。こうした情報は、維持管理だけでなく都市計画や交通計画等の政策を議論する際にも有効と思われる。

②適切なサービス水準で利用する
人や物の位置情報を活用して適切な場所・タイミングでインフラの利用状況等を提供することにより、施設利用者が自ら効率的・効果的に施設を利用することが可能となる。施設整備には費用も時間もかかることから、情報提供等のソフト施策により、施設の持つ効用を最大に引き出す。例えば、災害時の状況速報・避難誘導、バスや鉄道等の運行状況の提供、街中の人の流れの可視化、プローブ情報 注32) による道路の渋滞・予測情報の提供等が考えられる。

③オープンデータ化を通じて生活を豊かにする
インフラに関連して得られた各種のデータは、当初の目的以外にも関連する業務に活用できる。例えば、橋梁などの土木構造物の設計時に取得した地盤データ 注33) は、当該地域の宅地開発・都市開発にも利用され、また災害時の避難ルートの検討などにも活用できる。また、車のプローブデータも道路計画だけでなく、商業施設の立地検討なども活用できる。さらに、地域や事業者が持つ情報やサービスは、インフラ関連データとオープンデータ化によって得られる環境情報、利用者情報等の様々な外部情報を組み合わせることで、市民生活を豊かにする新たなサービスが開発されるだろう 注34)

4.7.2 現状認識(20 年程度のレビュー)

(1) 視点
情報に関する技術の進展、環境変化のスピードは速く、長期的な見通しは困難と考えられる。一方、こうした情報の変化が実社会に反映される際には、制度的な受け皿や実際の業務への適用等が不可欠であり、これらの難しさが情報の利活用を規定している面も否定できない。このため、情報に関する技術的な進展を押さえつつ、現実に土木分野で行われてきた20 年程度の動きを総括する観点が必要と考えられる。
ここでは、「情報基盤」については地図情報システム(GIS)、情報通信ネットワーク、データベースを、「情報活用」についてはCALS/EC、ITS を、念頭に置いてレビューを行う。

(2) 情報技術の進展とこの20 年間の評価
インターネットが本格的に広がったのは、1995 年前後、20 年ほど前である 注35)。また、社会全体が生成する情報量もそれに伴って飛躍的に増大しているため、この20 年間を振り返って今後の方向性を考えてみる。
情報技術の進展は急速であり、コンピュータの性能は、1~2 年で約2 倍の速さで向上する 注36)一方、それにかかる費用は毎年低下している。また、携帯電話の通信速度は、ここ20 年で約1 万倍になり、2001 年から2010 年の10 年間でも250 倍以上の伸びを示している。さらに、創出されるデジタルデータは、2006 年に年間161 EByte であったものが2011 年には年間1.8 ZByte にまで拡大し、2020 年には35 ZByte に達すると予想されている 注37)。加えて、スマートフォンの普及と高度化 注38) は、個人の発信能力を飛躍的に高め、これまでにはない様々なサービスを作り出しており、こうした動きは、公共サービスの分野でも数多く表れてきている。注39)

(3) 土木の状況
1)情報基盤
①地理情報システム(GIS)
地理情報システム(GIS)については、国土地理院の進める電子国土や基準点の標準化の取り組みなどが進むとともに、民間事業者の取り組みとしてもジオデータの蓄積 注40) が進められている。
Google 等による民間事業者が提供する高度な地図情報サービスは一般ユーザーとともに行政などもこれを使うなど、市民権を得て定着した感がある。注41)

②情報通信ネットワーク
情報通信ネットワークは、平時にはインターネット及びイントラネット等の通信網が使われ、非常時には専用回線の利用を可能とするなど、有事においても機能する情報通信ネットワークの整備が進められている。あわせて携帯電話網についても非常時を想定したネットワーク化が進められつつある 注42)。また、衛星やWiFi 等の既存の通信網の活用も進みつつある。

③データベース
所管施設に関するデータベース等の整備はこれまで各分野の各主体が独自で構築しているが、笹子トンネルの事故をきっかけに、インフラの状態を正確に把握する観点から共通のデータベースに各種のデータを蓄積する政策 注43) が進んでいる。また、目に見えない地下施設や地盤等のデータも整備が進んでいる。

2)情報活用
① CALS/EC
土木分野における情報システムの活用は、設計におけるCAD や積算システムの導入など、古くから行われているが、これらは業務ごとに独立した形で実施されている。このため、15 年ほど前からCALS/EC の取り組みによって成果物の電子化と蓄積 注44) が試みられているが、CALS/EC の構想にあるような業務プロセス全体として整合のある取り組みとしては十分ではない。最近では、情報モデルに着目したデータ連携の取り組み(CIM : Construction Information Modeling Management)も進められつつあり設計・施工等の場面で効果を発揮しつつある 注45)

② ITS
民間と行政が一体となって推進したITS は、行政部門におけるデジタル道路地図、路車間通信等の情報基盤 注46) を活用して、民間部門におけるカーナビ、プローブ等の取り組みがデータ提供サービスを行っている。インフラが提供する情報基盤、データによって車社会のおける一つの産業分野が生み出された 注47) ことは、土木部門において情報化を進める上で示唆に富むものと言えよう。

③アセットマネジメント
アセットマネジメントの捉え方は様々である注48) ため、ここではデータを活用したインフラ管理の側面から見る。現在、インフラの状況を把握する点検結果等のデータベース化が進められているが、データの蓄積が乏しいため劣化曲線の生成や投資配分の最適化なども参考程度の内容にすぎず、データを活用したマネジメントとは言い難い。他方、世界的には(社会資本の)アセットマネジメントの標準化も進んでおり、2014 年1 月には、国際規格ISO 55000 シリーズが制定されている 注49)

(4) 情報リテラシー
最近では情報システムの処理能力が飛躍的に向上し、ビッグデータと言われる非構造化データの分析などが可能となったものの、こうした技術を業務に使いこなしているとは言い難い。また、住民からの情報発信が施設管理に活用される取り組み 注50) も各地域で始まっており、情報の双方向性を活用した業務のあり方が重要となっている。特に、最近多発する災害時への取り組みは、ハードな対策だけでは限界があり、こうした情報を活用できる基盤と使い方を考える必要がある。さらに、オープンデータ化の中で、管理者が保有する情報も可能な限り公開する方向で進む一方、そのデータを活用した様々なサービスが試行・提案される可能性がある。情報通信技術が急速に進展するなか、インフラ管理者はデータを自ら活用し、または有効なソリューションを選択するなど、情報を有効に活用する能力がより一層求められる。

4.7.3 直ちに取り組む方策(長期に効果を発揮するために今から行うこと)

(1) インフラに関する情報の蓄積と活用
我が国では一昨年、中央自動車道笹子トンネルにおいて天井板落下事故による多数の犠牲者を出した。インフラの適切な管理にとって、正確な状況把握が必要なことは当然であろう。そのため、構造物の諸元情報はもとより、点検結果や補修結果などインフラの状態を正確に把握するための各種情報をデータベースに蓄積しておく必要がある 注51)。また、これらの各種情報をもとに現場で判断した結果や適応例等の経験や知恵について、資料、写真、ビデオなど様々な形式で作り出される情報をできる限り蓄積する。また、こうして蓄積した情報を政府・自治体・企業等の枠を超えて業務に活用する仕組みを構築する 注52)

(2) 情報通信技術を活用した業務の見直し
情報通信技術を活用した業務へと見直すため、短期的に取り組むべき方向は3 つある。第1 はICT を活用した現場業務の効率化・高度化である。点検端末の導入や変状の計測などICT により簡便で正確な情報の把握が可能となる 注53)。第2 は各種の情報を活用した計画、設計、工事、管理等の専門業務の高度化である。これまで紙ベースで蓄積されていた記録や熟達者の暗黙知を前提に行ってきた業務形態から、各種の情報を蓄積・流通・分析して判断に活用する業務形態へと高度化する 注54)。第3 はデータに基づく経営判断、マネジメント手法の導入である。インフラの管理に経営的な視点を取り入れ、サービスと費用とリスクを適切に評価して、インフラを維持管理する仕組みを構築する 注55)。また、これらの情報を指標化して開示することにより、適切な維持管理に対する社会的合意形成が可能となり、更には、維持管理を含めた社会資本の長期利活用のための上位計画へと反映されるだろう。

(3) システムアーキテクチャと戦略的システム構築
各分野で構築された情報システムを整合の取れた形に整理し適切な運用が可能となるよう、個別システムの上位にあたるシステムアーキテクチャ 注56) を作成し、現行システムを考慮しつつ戦略的にシステムを構築する必要がある。その際、技術の標準化やオープン化の動向を踏まえつつ、システム間のデータ連携を実現することで、最小の費用で最大のパフォーマンスを発揮することが可能となる。また、蓄積されたデータが社会全体の中で有効に活用されるよう、オープンデータの方針のもと、蓄積された情報を相互に有効活用できるような外部システムとの連携方策を確立する。

(4) IT ガバナンスの確立と情報リテラシーの育成
上記(1)~(3) を実現するには、IT ガバナンス 注57) の確立と土木技術者に一定の情報リテラシーが求められる。土木分野では情報システムの調達、運用、管理等に接する機会が少ないこともあり、情報システムに関する専門的な能力を有する技術者も少ない。一方、インフラの業務におけるICT に期待する面は大きくなっており、その適切な調達、運用、管理が重要となっている。このため、CIO 注58) の設置などを通じて、情報システムの構築・運用のガバナンスを確立することが求められる。また、インフラに関する情報は既に一定程度は蓄積されているが十分に活用されていないのが現状である。そのため、土木技術者もデータを活用する方法、情報通信技術を活用する方法を身に着けることが求められる。また、個人情報の保護など情報を活用するために必要なデータの取り扱いの基礎知識、今後一般的になると思われる情報通信技術を使った市民との双方向コミュニケーションの方法なども土木にとって必要なスキルとなろう。このため、これらの情報リテラシーの育成方法を確立することも重要である。 

4.7.4 長期に取り組む方策 

(1) 国土管理・地域管理の高度化
これまでも交通網や情報通信網の整備によって、国土の姿や地域活動は大きく変容してきた。今後、各種の情報通信基盤が構築されることにより、インフラのスマートメンテナンス化 注59) が進むとともに、位置・時間・状態等のデータを活用して国土や地域の管理もより適切に行われる。また、防災や環境対策のように、市民に対する情報提供を通じて間接的に国土・地域政策に影響を与えることもある。このように情報の持つソフトパワーが、地域活動や地域開発に大きな影響を与える可能性があるため、今後、予算的な制約が厳しくなる中で、そのパワーを有効に活用して国土管理・地域管理を高度化することが求められるだろう。

(2) 国際的な情報・知識交流
情報通信技術は、時間と空間を越えて知識や経験の流通を可能とする。この特徴を活かし、各自が保有する知識や経験を蓄積、編集し、付加価値を付けて流通させる市場を構築することが、土木分野における新たなビジネスとして有望と思われる。特に、発展途上国のインフラの整備・維持管理にとって日本の知識や経験は大きな価値を持つだろう。相手国に対する技術協力や災害が発生した際の日本の貢献は大きなもの 注60) があり、特に被災した国々にとっては、構造物の復旧支援はもとより、その経験を整理・分析した結果は学術的にも実務的にも貴重な資産となるだろう。今後の日本の国際協力において、ハード面に加えソフト面での貢献が一層重要となる中で、情報通信技術による知識や経験を流通させる仕組みは大きな力となるだろう。

(3) 新たな産業分野の創出
これまで人が行ってきた多くの業務は、情報通信技術により代替、補完、支援することが可能である。今後、人が行う業務は、知識や経験に基づく判断や多元的な情報を考慮した経営上の意思決定など、データを活用したより高度な領域に重点を移していく。一方で、単純な業務はその多くが情報通信機器等によって代替されることになる。今後、インフラの老朽化が進み、熟達者がリタイアする 注61) 中で、限られた費用で一定の管理水準を維持するためには、情報通信技術の活用が不可欠であり、土木+ ICT という新たな産業分野が創出されるであろう。さらには、インフラから得た位置・施設・環境等の情報を幅広い用途に活用することで、物流、観光、商業、エネルギー等と融合した新たな事業が創出されるだろう。

(4) 新たなマネジメントスタイル
複数のインフラ事業者が、的確な情報に基づくアセットマネジメントとベンチマークを実施し情報交換する 注62) ことにより、インフラの適正な水準での維持管理を実現する。また、データを用いてインフラの正確な資産評価を行うことで投資リスクの管理が可能となり、民間活力の導入などの新たな経営手法 注63) が実現する。また将来的には、すべての個人が情報発信力を備えた社会を前提として制度設計などを行う必要があるが、このことは、政策への市民参加を容易にし、インフラに関する様々な意思決定やそれを支える法制度などにも影響を与えるだろう。例えば、施設管理者が持つ様々な情報が社会や個人と共有された状況で、施設管理の責任者として適切な意思決定であるか否かを社会に問いかけつつ業務を執行するなど、構造物の物理的な管理方法に加えて、情報管理を含む新たなマネジメントスタイルが出現するだろう。

(5) インフラとICT が一体となった安全確保の仕組み
インフラが内包する情報システムは、利用者の安全な利用を確保するという要求に対する十分な検証を経て実装されなければならない。そのため、現場による試行と検証を繰り返し、安全性、信頼性に対する十分な実績を踏まえて基準化し実業務での運用を行う必要がある。一方、このように構築されたシステムでも、常に最新の技術動向を把握し、最適な手法を採用することが求められる。このため、運用を通じてその結果を評価し改善していく仕組みとともに、インフラの安全基準とそれを支える情報通信の技術基準を一体的に管理するなどのインフラとICT が一体となった安全確保のための仕組みやルールが必要となるだろう。


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脚注

注20) インフラの定義としては、政府のインフラ長寿命化基本計画では、「インフラには、国民生活やあらゆる社会経済活動の基盤であり、道路・鉄道・港湾・空港等の産業基盤や上下水道・公園・学校等の生活基盤、治山治水といった国土保全のための基盤、その他の国土、都市や農山漁村などがある。」とされている[1]。また、国土交通省では、「インフラストラクチャー(インフラ)とは、国や地域が経済活動や社会生活を円滑に維持し、発展させるために必要な基礎的な施設。道路、通信手段、港湾施設、教育・衛生施設などがそれに含まれる。」となっている[2]。
[1] インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議 インフラ長寿命化基本計画2013 pp.1
[2] 国土交通省関東地方整備局 用語集

注21) インフラ管理における各プロセス(収集、蓄積、伝達、可視化等)の個別の機能については、これまでインフラ企業、研究者によって多数研究が進められている。現在のインフラ構造物の点検については、基本的には目視で行われているが、目に見えない損傷を検知できないほか、設計段階での瑕疵による劣化等、想定外の劣化を検知できない。したがって、インフラの状態を観測し一連の機能により目視点検では見つけられない構造物の劣化を見つけ出したり、モニタリングの自動化によって管理コストを低下させることが重要である[3]。最近では、インフラを保有する企業等からスマートメンテナンスといった考え方が提案され、研究に止まらず実業務におけるセンサー活用などの取り組みも進められつつある。
[3] 的場純一、畠中真一、藤野陽三、阿部雅人:センサを活用したインフラモニタリング技術の開発の方向性について、JICE Report, pp. 24-28, 2009.

注22) サイバー(情報世界)とフィジカル(実世界)との連動とは、インフラの維持管理等の実業務で得られる情報を情報処理に実際に活用し、情報処理結果を実世界のモノや業務に活用するといった一連のサイクルを実行することを意味する。これまで、情報処理分野では、実世界との相互作用によって得られる情報を取り込み、処理・学習を行うといった試みは充分に実施されていなかった。インフラ分野では実世界から得られる情報を収集することができるため、こうしたデータを情報処理に活用することは、データ分析等の分野における学術的知見を得る上でも、また実務の改善を図る上でも期待できる[4] [5]。
[4] Hall, W. : Tracking for Asset Management, ESRI, July 2011.
http://www.esri.com/~/media/Files/Pdfs/industries/water/community/presentations/tracking-asset-management.pdf ※リンク切れ
[5] IIJ ウェブサイト「北海道・芽室町農業協同組合」

注23) 地理情報標準は、ISO/TC211(国際標準化機構の地理情報に関する専門委員会)で検討されている項目のうち、空間データの整備等に必要な基本項目について、ISO/TC211 の国際標準(案)を基に、国土地理院と民間企業との官民共同研究により、平成11 年3 月に第1 版、平成14 年3 月に第2 版が作成。平成17 年1 月にはJIS 化された最新の地理情報標準と国際標準に準拠し、内容を実利用に即して絞り体系化した、より実用的な「地理情報標準プロファイル(JPGIS)」が作成された[6]。また、インテリジェント基準点として、測量作業及び基準点維持管理の効率化を目的に測量の基準点へのIC タグの設置が進んでいる。IC タグには、場所情報コード(ucode)、緯度・経度・標高が記録されていることから、位置情報がその場で即座に利用できるばかりでなく、IC タグに対応した測量機器の開発により、簡便な位置決定作業が可能となる[7]。
[6] 国土地理院ウェブサイト「地理情報標準とは」
[7] 国土地理院ウェブサイト「インテリジェント基準点とは」http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/intelli_kijun/  ※リンク切れ

注24) 近年、建設分野で使われるデータ形式としては、道路基盤データ製品仕様書(案)、気象庁防災情報XML フォーマット、統一河川情報システムXML スキーマ定義書Ver.1.1、道路通信標準など、地理空間情報や防災情報のデータ、さらには、ITS プラットフォームにおいて重要な役割を期待されている道路通信標準など、システムに依存しないデータ標準・通信標準を採用・公開する動きが活発化している[8] [9]。
[8] JACIC ウェブサイト「社会基盤情報標準化委員会」
[9] 国土総合政策技術研究所ウェブサイト「道路通信標準」
http://www.rcs.nilim.go.jp/rcs/rcs-j/index.html  ※リンク切れ

注25) ビッグデータとは、その量的側面について「ビッグデータは、典型的なデータベースソフトウェアが把握し、蓄積し、運用し、分析できる能力を超えたサイズのデータを指す。この定義は、意図的に主観的な定義であり、ビッグデータとされるためにどの程度大きいデータベースである必要があるかについて流動的な定義に立脚している。…中略…ビッグデータは、多くの部門において、数十テラバイトから数ペタバイト(a few dozen terabytes to multiple petabytes)の範囲に及ぶだろう。」との見方がある。その一方で、ビッグデータという用語は、そのデータの利用目的から規定される例もある。例えば、多様なデータを集め分析することでその中に埋没した知見を発見するといったいわゆる「データマイニング」に期待するシーンで多く使われている[10]。また、Michael Stonebraker はCommunications of the ACM において、ビッグデータはバズワードであるとしながら、「大容量(big volume)」、「高速かつリアルタイム(Big velocity)」、「多様(Big variaty)」の3 つのケースに分類できるとしている。また、ビッグデータというワードが使われるチャレンジは、次の4 つのいずれかに該当するものだと述べている[11]。「Big volumes of data, but “small analytics”(大規模なデータに初歩的なDB 操作を実行する場合)」、「Big analytics on big volumes of data(大規模なデータを用い統計分析等の大規模な分析を実行する場合)」、「Big velocity(リアルタイムかつ高速にデータ処理をする場合)」、「Big variaty(様々なソースからのデータを扱う場合)」。
[10] 総務省情報通信白書「ビッグデータとは何か」
[11] Michael Stonebraker : What Does ‘Big Data’ Mean?”, Sept. 21, 2012.

注26) 国土数値情報では、数値化された地形、土地利用、公共施設、道路、鉄道等国土に関する地理的情報をインターネットにより無償提供されている。メッシュ化したデータも多く、人口統計などほかの統計情報と合わせて分析することが可能。このWEB サイトでは、国土情報に関連した様々なサービスを提供しており、大きく分けると、国土数値情報や国土画像情報など各種データのダウンロードサービス、ブラウザ上で地図データを閲覧することができる国土情報ウェブマッピングシステム、オルソ化空中写真ダウンロードシステム、航空写真画像情報所在検索・案内システム、国土情報クリアリングハウスがある[12]。このサービスにより、各種地理情報と自らの施設情報を重畳することが可能となり、施設管理の優先度の検討や危険エリアの把握などへの活用が簡易に行うことができる。
[12] 国土交通省国土政策局ウェブサイト「GIS ホームページへようこそ」
http://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/gis/index.html  

注27) マイクロジオデータとは、近年利用可能になりつつある、住宅地図や電話帳などに代表される空間的精度と網羅性が非常に高い情報のデジタルデータ、携帯電話の基地局情報、GPS ログ情報、パーソントリップデータ、Web から収集できる情報など加工余地が高いミクロスケールの非集計データのこと[13]。既にこれらのデータを地方自治体の都市計画や防災対策等へ活用するための研究が進められるとともに、ミクロスケールの様々な空間データの獲得・普及の可能性について、その知識と技術の共有および産学官の協力体制を構築することを目的として、産官学からなる「マイクロジオデータ研究会」が設置されている。
[13] マイクロジオデータ研究会ウェブサイト「マイクロジオデータとは」http://geodata.csis.u-tokyo.ac.jp/mgd/?page_id=439  ※リンク切れ

注28) 国土交通省では、平成13 年3 月に政府において策定した「e-Japan 重点計画」に掲げられている「世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成」を積極的に支援するため、収容空間等の整備、開放に加え、平成14 年度から国の管理する河川・道路管理用光ファイバについて、施設管理に支障のない範囲内で、電気通信事業者等に開放している[14]。また、東京ガスでは大地震の際の二次災害防止のため、約4 000 箇所の地震計とその情報を収集、必要に応じて遠隔で供給を停止することの出来る“リアルタイム地震防災システム”を導入し、地震発生時の確実・安全・迅速なな供給停止判断のサポートと共に、収集したデータを自社内だけでなく、「地震情報配信サービスjishin.net」としてグループ企業であるティージー情報ネットワークを通じ、有償での情報提供サービスを展開している[15]。
[14] 国土交通省総合政策局ウェブサイト「河川・道路管理用光ファイバの民間事業等による利用について」
[15] 東京ガスウェブサイト「超高密度リアルタイム地震防災システム「SUPREME」」
http://www.tokyo-gas.co.jp/techno/stp3/97c1_j.html  ※リンク切れ

注29) オープンデータとは、「機械判読に適したデータ形式で、二次利用が可能な利用ルールで公開されたデータ」であり「人手を多くかけずにデータの二次利用を可能とするもの」のことを言い、オープンデータの意義・目的として、①透明性・信頼性の向上:公共データが二次利用可能な形で提供されることにより、国民が自ら又は民間のサービスを通じて、政府の政策等に関して十分な分析、判断を行うことが可能となる。②国民参加・官民協働の推進:広範な主体による公共データの活用が進展し、官民の情報共有が図られることにより、官民の協働による公共サービスの提供、さらには行政が提供した情報による民間サービスの創出が促進される。③経済の活性化・行政の効率化:公共データを二次利用可能な形で提供することにより、市場における編集、加工、分析等の各段階を通じて、様々な新ビジネスの創出や企業活動の効率化等が促され、我が国全体の経済活性化が図られる。の3 項目が挙げられている[16]。2013 年6 月に行われたG8 サミットでは、オープンデータ憲章をはじめとするオープンデータ推進に関する様々な合意事項が明記された。オープンデータ憲章の概要は、次の通りである。ⓐ原則としてデータを公開すること、ⓑ高品質なデータをタイムリーに提供すること、ⓒできるだけ多くのデータを、できるだけ多様かつオープンな形式で公開すること、ⓓガバナンス改善のためにデータや基準、プロセスに関する透明性を確保すること、ⓔデータ公開によって次世代イノベーターを育成すること。また、同サミットでの合意に基づき、日本政府は2013 年末までにオープンデータ憲章を実現するための行動計画を策定し、2015 年末までにオープンデータ憲章並びにその技術的な詳細を定めた別添Technical Annex に明記されている項目をすべて実現する必要がある[17] [18]。
[16] 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 電子行政オープンデータ戦略 平成24 年7月4日
[17] Open Knowledge Foundation Japan「G8 再考(1)オープンデータ憲章 2013年8月15日」
http://okfn.jp/2013/08/15/rethink-g8-summit-1/  ※リンク切れ
[18] G8 Open Data Charter and Technical Annex, Policy paper

注30) CALS/EC とは、「公共事業支援統合情報システム:Continuous Acquisition and Life-cycle Support /Electronic Commerce」の略称であり、従来は紙で交換されていた情報を電子化するとともに、ネットワークを活用して各業務プロセスをまたぐ情報の共有・有効活用を図ることにより公共事業の生産性向上やコスト縮減等を実現するための取り組みである[19]。
[19] CALS/EC ポータルサイト「CALS/EC とは」

注31) アセットマネジメント(Asset Management)とは、もともとは、金融分野における預金、株式、債券などの金融資産(Asset)をリスク、収益性などを勘案して適切に運用を図る(Management)ことにより、資産価値を最大化する諸活動を指した。この考え方を社会資本に適用した、社会資本におけるアセットマネジメントは、その運用、管理に必要な費用を小さく抑え、質の高いサービスを提供することにより、資産価値を最大化するための活動として位置付けられる[20]。土木学会においては、「国民の共有財産である社会資本を、国民の利益向上のために、長期的視点に立って、効率的、効果的に管理・運営する体系化された実践活動。」と定義している[21]。また、世界的には(社会資本の)アセットマネジメントの標準化も進んでおり、2014 年1 月には、国際規格ISO55000 シリーズが制定されている。
[20] 小澤一雅「社会資本におけるアセットマネジメントの導入」建設マネジメント技術 2006 年9月号 p8
[21]「アセットマネジメント導入への挑戦」土木学会アセットマネジメント小委員会2005  まえがき

注32) プローブ情報とは、車を探査針(プローブ)とみなし、VICS 車載機やビーコンなどを活用した自動車から得られる情報である[22]。自動車向け情報提供サービス各社は、GPS 搭載車両から収集した走行軌跡情報に基づく渋滞情報などの交通情報やビッグデータ解析に基づくナビゲーションサービス等を提供している。東日本大震災発生後の3 月14 日、本田技研工業とパイオニアが自社会員の匿名かつ統計的に収集した通行実績情報を基に、被災地周辺道路の通行実績情報を公開した[23]。また、配送荷物の効率化、交通渋滞の削減などを目的に、プローブ情報を活用した様々な取り組みが行われている[24]。
[22] VICS プローブ懇談会資料
[23] 平成23 年版 情報通信白書 「第1 部 東日本大震災における情報通信の状況」
[24] 内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT 総合戦略本部)第3 回新戦略推進専門調査会道路交通分科会 資料1  交通データ利活用に係るこれまでの取組と最近の動向について(案)

注33)「国土地盤情報検索サイト」(KuniJiban)では、国土交通省の道路・河川事業等の地質・土質調査成果であるボーリング柱状図や土質試験結果を広く一般に提供している。また、独自に保有する地盤データを公開する地方自治体もあり、これらの情報は、宅地建設予定地の基礎地盤の評価や地震時の被害予測(液状化マップ等)の作製などにも利用されている[25]。
[25] 国土地盤情報検索サイト「KuniJiban」

注34) 防災科学技術研究所では、従来の参加型コミュニティWeb システムを住民や市民グループ等エンドユーザーの視点から見直し、さまざまな利用シーンを想定して、利用者間の相互利用等多様な運営方式にも対応できる統合的なシステムとして新たなシステムを開発している[26]。また、総務省では、地方自治体等が保有している社会資本情報や工事実績情報、入札情報等を組み合わせ、関係業者や地域住民等に対し公共事業に関するマーケティング情報、図面(諸元等)データ情報及び通学路における交通安全情報の提供の実現を図るオープンデータ実証実験を実施している[27]。
[26] e コミュニティ・プラットフォームウェブサイト
[27] 総務省主催「オープンデータ・アプリコンテスト」ウェブサイト
http://www.opendata.gr.jp/2013contest/pdf/api_02.pdf ※リンク切れ

注35) インターネット普及率の推移のデータを見ると、インターネットの世帯普及率が、10% を超えたのは平成10 年(1998 年)である。また、その時点から急速に普及率が伸び、平成14 年末までのわずか4年間で80% を超え、その後平成24 年までの10 年間は、80%~90% を推移している[28]。我が国におけるインターネット普及の背景には、パソコン向けOS のインターネット接続対応、インターネット接続コストの低下、通信速度の向上等が挙げられる。
[28] 総務省情報通信統計データベース「インターネット普及率の推移」データ

注36) インテル社創設者の一人であるゴードン・ムーア博士が1965 年に経験則として提唱したとされる、いわゆるムーアの法則によれば、トランジスタの密度は18~24 ヶ月で倍増すると言われてきた[29]。コンピュータが進化した2000 年代にあっても、指数関数的に向上する半導体性能と鈍化する集積密度との関係から、コンピュータ製造業における性能向上を示す総合的指標として現在でも成立しているとされている。
[29] Mack, C. A. : Fifty years of Moore’s law, Semiconductor Manufacturing, IEEE Transactions, Vol.24, pp. 202-207, 2011.

注37) 総務省の調査によれば、携帯電話の通信スピードは、1993 年頃の第2 世代(PDC, GSM, cdmaOne) で数kbps(2 400~9 600 bps)、2001 年頃の第3 世代で384 kbps (W-CDMA, CDMA2000)、2006 年頃の第3.5 世代(HSPA, EV-DO) で14 Mbps、3.9 世代(LTE) では100 Mbps とされている。さらに、第4 世代のLTE-Advance では、100 Mbps~1 Gbps になると言われている[30]。また、2011 年6 月に発行されたIDC レポートによると、人類によって創出されるデジタルデータは、2006 年には年間で161 EByte(エクサバイト)に、2011 年では年間1.8 ZByte にまで拡大し、2020 年には35 ZByte に達すると予想されている[31]。
[30] 総務省 第4 世代移動通信システムに関する公開ヒアリング「第4 世代移動通信システムについて」平成26 年1 月23 日.
[31] John Gantz and David Reinsel : Extracting Value from Chaos, IDC 2011, june 2011.
http://www.emc.com/collateral/analyst-reports/idc-extracting-value-from-chaos-ar.pdf(Original)※リンク切れhttp://japan.emc.com/collateral/analyst-reports/idc-extracting-value-from-chaos-ar.pdf(日本語)※リンク切れ

注38) 情報通信白書において情報通信端末の世帯保有率の推移を見ると、スマートフォンの普及率は、平成22 年から平成24 年の2 年間で約5 倍に増加し、保有率約50% となっている。この数値は、FAX の保有率41.5% を超え、パソコンの保有率75.8% や固定電話の保有率の79.3% に迫る勢いである。[32]また、スマートフォンは、これまでの携帯電話に比べ、高い情報処理能力と拡張性を有し、ユーザの生活に密着したコンピュータとして高度化が進んでいる。総務省の報告では、スマートフォンの特長について、携帯電話とPC の特長を兼ね備えたものとして次のように記載されている[33]。ⓐ PC に匹敵する高度な情報処理機能を有する、ⓑ電話や電子メールといった通信目的の利用に加え、アプリケーションをダウンロードすることで、多目的に利用できる、ⓒ PC と比較して位置情報やアプリ利用履歴等が蓄積・活用される、ⓓ携帯キャリア、プラットフォーム事業者、アプリケーション開発者、情報収集事業者、収集した情報の二次利用者等が相互に連携して、多様なサービスを提供している。
[32] 総務省平成25 年度版情報通信白書「第2 部 情報通信の現況・政策の動向」
[33] 総務省 スマートフォンを経由した利用者情報の取扱いに関するWG「スマートフォンをめぐる現状と課題」 平成24 年1 月20 日

注39) 緊急地震速報、津波警報や河川予警報等のメール通知サービスを始め、近年では、高詳細な降雨情報についても、ほぼリアルタイムで携帯電話により取得できるようになっている[34]。また、株式会社ウェザーニューズは、全国から募集した「ゲリラ雷雨防衛隊」により、社会生活に様々な被害をもたらすことで知られる“ゲリラ雷雨”を監視し、局地的かつ突発的に発生し、予測が困難とされる“ゲリラ雷雨”を人の“目”と“体感”で監視し、独自に配備している観測機からのデータを解析することで、いち早くその危険性を共有・周知する取り組みを実施している[35]。さらに、東日本大震災の教訓をもとに、Twitter などのSNS の情報をテキストマイニングやクロール技術等を活用して、都市圏での災害に対するSNS の活用方法の検討や実証に関する取り組みが試みられている。
[34] XRAIN ウェブサイト 
[35] Weathernews ニュースリリース「ゲリラ雷雨防衛隊」 2012 年8 月9 日

注40) 民間事業者による主な取り組みとして、独自に取得した住宅地図データや土地情報データ等の基盤となるデータがあげられる。また、独自にレーザスキャンにより取得した高速道路三次元アーカイブデータや、高密度・高精度名三次元空間データを短時間で提供するサービス等も展開されている[36][37] [38]。
[36] ゼンリンウェブサイト「GIS 事業」http://www.zenrin.co.jp/company/business/gis.html ※リンク切れ
[37](株)パスコウェブサイト 報道資料
[38] 国際航業Hp  「3D 空間データ販売(RAMS-e)」
http://www.kk-grp.jp/service/field/spaceinfo/data/index.html#anc02 ※リンク切れ

注41) Yahoo! JAPAN やGoogle では、地方自治体と災害協定を締結し、大規模災害発生時に災害関連情報を集約し、提供するなどのサービスを実施している。東日本大震災の時は、ホンダから提供された通信型カーナビ「インターナビ」のプローブ情報データをもとに自動車通行実績情報をGoogle Map 上に標示するサービスが提供され、被災地の復旧・復興支援に活用された[39] [40]。
[39] Yahoo! JAPAN ウェブサイト「自治体様向け災害協定」
[40] Google ウェブサイト「Google クライシスレスポンス」http://www.google.org/intl/ja/crisisresponse/index.html ※リンク切れ

注42) 国土交通省では、災害・事故等の影響を受けない情報通信回線を確保し、災害時の迅速な被災情報の把握、的確な災害対応を実現するために、災害に強い多重無線通信網及び移動通信網・衛星通信網と高速な通信が可能な光ファイバ通信網を組み合わせた専用の情報通信ネットワークを形成している。また、総務省では、災害時の通信確保のため、移動電源車や移動通信機器の整備・貸出を実施している[41] とともに、災害時に通信負荷増加を防ぎ速やかな安否確認を行えるよう、災害時伝言サービスを活用するよう呼びかけている[42]。そのほか、通信キャリアにおいては、大規模災害発生時に、交換機の処理能力を超えてシステムダウンすることのないよう、警察・消防等の緊急通信や重要通信を確保するため、一般の通話を制御する仕組みを導入している[43] [44] [45] ほか、通信信頼性を向上させるための中継伝送路の多重化も実施している[46]。
[41] 総務省資料“災害時の通信確保等に関する取組”
[42] 災害発生時の安否確認における「災害用伝言サービス」の活用、2011.
[43] “重要通信の確保”、NTT.
http://www.ntt.co.jp/saitai/tsushin.html ※リンク切れ
[44] “災害時の通話制御”、NTT 東日本.
[45] “災害時の通信の集中メカニズムとコントロール(通信規制):災害対策への取り組み”、KDDI.
[46] “災害対策への取り組み”、NTT docomo.

注43) 国土交通省では、維持管理・更新に関係する情報のうち、多数の関係者間で共有化することがふさわしい情報や、様々な目的のために活用できる情報については、オープンデータ化も視野に入れ、幅広いデータの活用を可能とする利用方法も考慮したデータベース化の検討を推進し、社会資本とその維持管理に係る情報を統一的に扱う「社会資本情報プラットフォーム」を構築する。社会資本情報プラットフォームとは、設計時、施工時、維持管理時、モニタリング時など、それぞれの分野、段階で整備・収集された、インフラに関するデータを一元的に扱うためのルールを策定し、社会資本全体の維持管理に係る状況を把握するための情報基盤である[47]。
[47] 社会資本整備審議会・交通政策審議会 今後の社会資本の維持管理・更新のあり方について 答申 平成25 年12 月、p. 15, 16  

注44) 国土交通省では、公共事業の各事業段階で利用している資料を電子化し、共有・再利用化し、事業執行の効率化、品質の向上、ペーパーレス、省スペース化を図る電子納品の取組を始めた。2001 年度から取組を開始し、2004 年度から業務(調査・設計)及び、工事等の国土交通省が発注する公共事業は、すべての事業が対象となっている[48]。また、国土交通省CALS/EC アクションプログラム2008 では、電子納品の課題と対策を次のように記載している[49]。課題:①工事・業務終了時に電子納品しているが、次の工事や業務に有効に使われていない。②納品仕様が徹底されていないために様々な仕様のCAD データが納品されている。③ 3 次元データも、2 次元形式の図面に変換して電子納品している。④既に一部工事では3 次元データによる施工管理が行われているものの、公共工事では活用事例がない。⑤ CAD データから数量算出は可能であるが、活用されていない。対策:① CAD データ仕様の普及状況を踏まえた納品時の仕様の徹底 及び、設計、積算、施工への活用による業務の効率化、②成果品の納品のうちライフサイクルに必要なデータ等について、完全電子納品化するとともにこれらの流通が図れるような仕組みの構築、③設計・施工の基礎となる地質、測量データの一元化、④維持管理に必要なデータベースの高度化
[48] 国土交通省ウェブサイト「電子納品に関する要領・基準」
[49] 国土交通省CALS/EC 推進本部「国土交通省CALS/EC アクションプログラム2008」平成21 年3月

注45) 国土交通省では、2012 年度から公共事業の一連の過程においてICT を駆使して、設計・施工・協議・維持管理等に係る各情報の一元化及び業務改善による一層の効果・効率向上を図ること、公共事業の品質確保や環境性能の向上及びトータルコストの縮減を目的に、CIM(Construction Information Modeling/Management)の導入について検討を開始している。なお、CIM とは、調査・計画~設計~施工~維持管理の各段階において、3 次元モデルを一元的に共有・活用、発展させることにより建設生産プロセスの過程において、より上流におけるリスク管理を実現するとともに、各段階での業務の効率化を図るものである[50]。
[50] 日本建設情報総合センターウェブサイト「Construction Information Modeling/Management」

注46) デジタル道路地図とは、カーナビや道路管理用のコンピュータが道路や交差点を認識するために、位置などを数値化したデジタルデータで表現される道路地図のことである[51]。デジタル道路地図は、ナビゲーションシステムや道路管理の高度化をはじめ、ITS の多くの分野で基盤としての役割を果たしている。路車間通信は、進行方向にある停止車両や低速車両、および歩行者の有無、路面状態など、時々刻々と変化する交通情報を、道路沿いや交差点などに配置される路側機から車に無線で提供する役割を果たす。この通信機能の中心となるのは、ISO(国際標準化機構)やITU(国際電気通信連合)国際標準化された高速で大容量の双方向通信を可能とする5.8 GHz 帯DSRC(Dedicated Short Range Communication:スポット通信)で、これまでETC に用いられてきた通信を効率的に活用する。2011から全国で道路に設置された「ITS スポット」とクルマ側の「ITS スポット対応カーナビ」との間で高速・大容量通信を行う「ITS スポットサービス(DSRC)」開始し、広域な道路交通情報や画像も提供されるなど、様々なサービスを実現している[52]。
[51] 一般財団法人デジタル道路地図協会ウェブサイト「紙地図とデジタル道路地図」
http://www.drm.jp/map/index.html  ※リンク切れ
[52] 国土交通省道路局ウェブサイト「ITS スポットサービス(DSRC)」

注47) 最先端のICT を活用して人・道路・車を一体のシステムとして構築する高度道路交通システム(ITS)は、高度な道路利用、ドライバーや歩行者の安全性、輸送効率及び快適性の飛躍的向上の実現とともに、交通事故や渋滞、環境問題、エネルギー問題等の様々な社会問題の解決を図り、自動車産業、情報通信産業等の関連分野における新たな市場形成の創出につながっている[53]。日本のITS 関係の市場規模は、2015 年で70 兆円、2020 年で100 兆円と試算され、カーナビの出荷台数は、2013 年9 月で5 828 万台、ETC のセットアップ件数は2014 年1 月で5 885 万台となっている[54]。
[53] 国土交通白書2013  第II 部 国土交通行政の動向 第10 章 ICT の利活用及び技術研究開発の推進 第1 節 ICT の利活用による国土交通分野のイノベーションの推進1. ITS の推進
[54] 国土交通省道路局高度道路交通システムウェブサイト
ITS 市場規模:次世代のITS(国土交通省)2010.11
カーナビ出荷台数
・ETC セットアップ
http://www.orse.or.jp/news/setup/wnews_140131.pdf  ※リンク切れ

注48) 社会資本のアセットマネジメントは、多くの自治体やインフラ企業において導入や試行がなされているが、自治体などで導入が図られてきているシステムの多くは、インフラの維持管理に要する費用(ライフサイクルコスト:Life Cycle Cost(LCC))の低減を達成しうる望ましいインフラの維持補修計画や、サービス水準を維持するために必要となる維持補修予算を求めることを目標とするものが多く、これらはLCC 型のマネジメントシステムと捉えられる。一方、公共経営(NPM:New Public Management)型アセットマネジメントは、管理と運用の両側面が含まれており、利潤(価値とコストの差)を大きくするためのシステムとして捉えることから、その資産価値増加量と投資(費用)との関係を分析し、利潤を最大化させる最適な施策を検討するためのシミュレーションを行うことが求められる。NPM 型アセットマネジメントは、既存のインフラの維持管理だけでなく、新設計画を含めて、インフラ資産から提供される公共サービスの価値を評価し、運用の側面を含めたアセットマネジメントに発展することが期待される[55]。
[55] 小澤一雅:社会資本におけるアセットマネジメントの導入、建設マネジメント技術、2006 年9 月号、p. 8

注49) 米国、英国、オーストラリアなどでは、「荒廃するアメリカ」「サッチャリズム」「ニューパブリックマネジメント」などに端を発して1980 年前後からアセットマネジメントの取組みが拡大した。英国規格協会(BSI)が発行したPAS55 はあらゆる物理的アセットに適用可能なアセットマネジメント規格として世界各国に浸透した。2009 年7 月に英国がISO 作成の新規提案を提出し、翌年9 月に規格案を作成するプロジェクト委員会PC251 の設立の設立と規格原案の作成を経て、2014 年1 月9 日にISO規格(ISO 55000(アセットマネジメントの概要、原理、用語)、ISO 55001(マネジメントシステムの要求事項)、ISO 55002(マネジメントシステムの適用の指針))として発行された[56] [57]。
[56] 国土交通省下水道分野におけるISO 55001 適用ガイドライン検討委員会―第1 回資料
[57] JSA Web Store(日本規格化協会HP:1 月発行規格)「ISO 最新発行」

注50) 住民が情報を提供する取り組みとしては、長崎の道守養成ユニット[58]、東京の東京ブリッジサポーター制度[59] のほか、千葉市のちば市民協働レポート実証実験(ちばレポ)[60] 等、多くの地域で取り組みが始まっている。海外でも、市民からの通報への対応状況を行政・市民が共有し、インフラの管理や住民サービスの向上に役立てている例が見られる[61]。
[58] 長崎大学ウェブサイト「道守養成ユニット」
[59] 公益財団法人東京都道路整備保全公社ウェブサイト「東京ブリッジサポーター制度」
[60] 千葉市ウェブサイト「ちば市民協働レポート実証実験」http://www.city.chiba.jp/shimin/shimin/kocho/chibarepo.html ※リンク切れ[61] ボストン市ウェブサイトCitizens Connect

注51) 国土交通省では、維持管理・更新を着実に行うための第一歩として、施設に関する情報を正しく把握し、これをスタートラインとして維持管理・更新に係る施策を進めていく方針である。このため、維持管理・更新にあたって必要な情報を確実に記録し対策履歴も含めて蓄積するとともに、カルテとしての整理・活用をはじめ、様々な目的に活用する取組みを推進する[62]。また、地方公共団体では財政負担を軽減・平準化するとともに公共施設等の最適な配置を実現することが必要となっていることから、総務省から各地方公共団体に対し、公共施設等総合管理計画の策定に取り組むよう要請がなされている[63]。
[62] 社会資本整備審議会・交通政策審議会 今後の社会資本の維持管理・更新のあり方について 答申、平成25 年12 月、p. 14
[63] 総務省自治財政局財務調査課「公共施設等総合管理計画の策定にあたっての指針(案)の概要について(事務連絡)」平成26 年1 月24 日

注52) 組織を超えた情報交換の取り組みが始まっている。例えば、東北大学と国土交通省東北地方整備局とは、「東北大学と東北地方整備局との連携・協力に関する協定」を締結し、社会資本の維持管理や資源循環に関する広範囲な教育・研究面の向上及び地域社会の持続的発展に寄与することを目的に、地域のインフラの維持管理に関して行政と大学が連携する体制を構築した[64]。また、東北地域における産学官の連携を一層推進するため、社会資本の長寿命化に資するための維持管理技術や更新技術に関する情報交流の拠点として東北大学大学院工学研究科インフラマネジメント研究センターを設立した[65]。こうした産学官が連携した活動は長崎や岐阜など他の地域でも始まっている[66] [67]。
[64]「東北大学と東北地方整備局との連携・協力に関する協定」プレス資料、2013 年12 月16 日、東北大学
[65] 東北大学大学院工学研究科インフラマネジメント研究センターウェブサイト
[66] 長崎大学大学院工学研究科インフラ長寿命化センターウェブサイト
[67] 岐阜大学社会資本アセットマネジメント技術研究センターウェブサイト

注53) 国土交通省では、インフラの維持管理のために、非破壊検査技術やICT をベースとしたロボット等による高度な点検・診断技術、モニタリング技術、データベース技術及びコンクリート舗装等耐久性の高い素材の採用など、ICT や材料等に関する分野横断的な技術について、技術開発や現場での試行を積極的に実施するとともに、技術が確立されたものから、それらの積極的な採用・普及を図る。特に我が国の成長分野として期待されているICT 技術については特に重点的に取り組むことにより、維持管理・更新の水準の向上を推進するともに、世界最高水準のIT 社会の実現に寄与する[68]。こうした取り組みは現場でも既に行われており、例えば国土交通省東京国道事務所では、各橋梁に歪みゲージ、変位計、光系センサ、温度計を設置し、橋梁モニタリングシステムの適用性検討を実施している[69]。
[68] 社会資本整備審議会・交通政策審議会 今後の社会資本の維持管理・更新のあり方について 答申、平成25 年12 月、p. 21
[69] 社会インフラのモニタリング技術活用推進検討委員会(第1 回)、資料3「モニタリング技術の現状と課題」平成25 年10 月18 日、p. 8

注54) これまでは、施設管理のための資料やデータベース、点検結果を記録するための資料やデータベース、補修履歴などを記録するための資料・データベースなど、それぞれの業務ごとに様々な形式で情報が記録されていたため、データを活用した横断的な分析、活用が難しく、現場では分散する情報を熟達者の知識で結び付けて利用してきた。今後は、データウェアハウス等の機能を使って、分散するデータを業務場面に合った形で総合的に分析することにより、データに基づいて素早く的確な判断を支援する仕組みが構築される。例えば、東日本高速道路株式会社では、画像データ、テキストデータ等を活用した損傷レベルの判断支援の仕組みを開発している。[70]
[70] NEXCO 東日本 プレスリリース 平成26 年1 月15 日

注55) 今後、老朽化するインフラを適切に維持管理するためには、施設の規模・構造、利用状況、対策費用等を踏まえて、いつどのように補修・更新・廃棄等を行うのか的確に判断する必要がある。また、これらに必要となる資金の確保についても、公的資金だけではなく民間活力の導入など幅広い手法を検討することが必要となるだろう。一方、こうした取り組みを実現するには、判断の前提となる各種の情報を正確に把握できることが必要不可欠である。今後は、現在保有するインフラ資産の状態は健全か、将来発生する維持管理にかかる費用はいくらか等を推定するための情報が、施設管理者だけでなく利用者や納税者、資金を供給する主体などに提供され、サービスと費用とリスクを適切に評価して維持管理を行う仕組みが構築されるだろう。

注56) システムアーキテクチャの明確な定義はなく、下記に示すOPF 等の各種団体が様々な定義を与えているが、本文では、インフラに関する情報システムの全体像を対象として、これを構成している個別のシステムの関係性を示した設計図という意味で用いている。システムアーキテクチャにより、インフラに関連する既存または新規の個別システムを整合のとれた形で設計し、計画的・効率的に実装することが可能となる。例えば、OPEN-Process-Framework では、システムアーキテクチャの主な内容として以下を挙げている[71]。
◦Architectural style and patterns, ◦Logical architecture in terms of its major classes, processes, and functions, 
◦Physical architecture in terms of its major blackbox components, their responsibilities, and the relationships between them, ◦Major architectural mechanisms, ◦Major technology and associated vendor selections.
[71] OPEN-Process-Framework「Architecture」

注57) IT ガバナンスとは、組織体・共同体が、IT を導入・活用するに当たり、目的と戦略を適切に設定し、その効果やリスクを測定・評価して、理想とするIT 活用を実現するメカニズムをその組織の中に確立すること。具体的には、経営戦略とIT 戦略との整合性、IT の投資効果、組織の在り方や人員・体制、リスクに関連する事項等に関する評価のフレームワークを適用し、常にフィードバックしながら目指す方向へとコントロールする組織的能力を備えることである[72]。IT 管理のベストプラクティスを体系化したCOBIT4(Control Objectives for information and related technology)では、「IT ガバナンスは取締役会および経営陣の責任である。それは企業ガバナンスの不可欠な部分で、リーダーシップおよび組織的な構造、および組織のIT がその組織の戦略および目的を保持し拡張することを保証するプロセスから成る」と定義している。また、COBIT4 を拡張し、事業体のIT に関するガバナンスとマネジメントのためのフレームワークを提供するCOBIT5 では、ガバナンスを次のように定義している[73]。Governance ensures that stakeholder needs, conditions and options are evaluated to determine balanced, agreed-on enterprise objectives to be achieved; setting direction through prioritisation and decision making; and monitoring performance and compliance against agreed-on direction and objectives.
[72] 情報マネジメント用語辞典「IT ガバナンス」
[73] IT Governance Institute ウェブサイト「About Governance of Enterprise IT (GEIT)」
http://www.itgi.org/About-Governance-of-Enterprise-IT.html  ※リンク切れ

注58) Chief Information Officer の略。組織において経営理念・経営計画に合わせて情報化戦略を立案、実行する責任者のこと。企業経営陣においては、CEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)、COO(最高執行責任者)などと並んで重要な役割を持つ。CIO に求められる機能は、経営戦略の一部としての情報化戦略を立案・実行すること、逆に情報技術に基づいた形で企業に適切な経営戦略を提案すること、部門間や外部との調整を行い業務組織や業務プロセスを改革して情報システムに適合させること、そして情報部門を含めて全社のIT 資産(人材、ハードウェア、ソフトウェアなど)の保持や調達を最適化することなどである[74]。2013 年5 月24 日に政府CIO 法(内閣法等の一部を改正する法律)が成立し、5 月31 日に公布・施行されたことで、2013 年6 月に、電子行政推進の司令塔となる内閣情報通信政策監(政府CIO)が設置された。これにより、日本政府全体として、制度・業務プロセス、改革の推進に資する電子行政の合理化・効率高度の取組を情報通信技術(IT)政策担当大臣と共に推進することを目指す[75]。
[74] 情報マネジメント用語辞典「CIO」
[75] 政府CIO ポータル

注59) ICT 等の技術を用いてインフラの維持管理を効率的かつ安全に行おうという取り組みが始まっている。
鉄道分野では、東日本旅客鉄道株式会社(JR 東日本)が、近年急速に発達しているICT を活用してメンテナンス等の業務革新に向けた研究開発を進めている。JR 東日本のメンテナンス部門では対象とする設備を「資産」と考えて、そのパフォーマンスを最大限に発揮できるスマートメンテナンス構想を掲げ、「個々の状態に応じた予防保全」、「データに基づくアセットマネジメント」、「エキスパートシステムの構築」の実現に向け研究開発に取り組んでいる[76]。各取組の内容は、「個々の状態に応じた予防保全」として、画一的なルールに基づき実施している検査とその検査結果に基づくTime Based Maintenance (TBM) から個々の状態から意思決定支援システムを活用して修繕を実施するCondition Based Maintenance (CBM) への考え方の変更により、見つけて(find)修繕する(repair)という概念から、予測(predict)をしながら予防する(prevent)という概念の変更、すなわち単純な検査周期の変更ではなく、意思決定の根拠が変えることを目指している。「データに基づくアセットマネジメント」としては、メンテナンスにかかるコストとその設備の機能として発揮するレベルとの関係を明確にし、将来どうなるかの予測のアウトプットを活用することで、長期にわたって設備レベルと修繕コストの見える化を実現し、的確な経営戦略とライフサイクルコストの最適化することを目指している。「エキスパートシステムの構築」として、現場技術者の設備故障や気象などの外部要因への対応などの非計画的な業務における意思決定を、過去の事例や検査履歴の蓄積とベテラン技術者の意思決定アルゴリズムなどによる情報システムでサポートできないかという研究を実施している[77]。具体的取組としては、2013 年5 月より京浜東北線大宮~大船間にて、「線路設備モニタリング装置」を搭載した営業用車両の走行試験を開始している[78]。
道路分野では、東日本高速道路株式会社(NEXCO 東日本)が、道路メンテナンスの高度化の推進として「スマートメンテナンスハイウェイ(SMH:Smart Maintenance Highway)」構想の検討を実施している。SMH 構想では、現場のインフラ管理における諸課題に密着した検討を推進し、長期的な道路インフラの安全・安心の確保に向け、点検・計測においてICT 技術の導入や機械化等を行い、これらが技術者と融合した総合的なメンテナンス体制を構築し、維持管理・更新の効率化や高度化、着実化を目指すもので、2020 年度(平成32 年度)を目標として、新たに、道路交通管制センターと連動した「インフラ管理センター(仮称)」の導入を目指すものである[79]。
[76] JR 東日本ホームページ 研究開発 
[77] 横山淳 第19 回R&D シンポジウム講演「ICT を活用したメンテナンス業務の革新について」JR東日本テクニカルレビュー、42 号、pp. 26–39
[78]「線路設備モニタリング装置」京浜東北線営業列車による走行試験について 2013.5.8 プレスリリース
[79] NEXCO 東日本 定例記者会見資料(平成25 年7 月31 日 トピックス)

注60) 外務省では、平成23 年度には、2 国間協力として、独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じて、防災体制・能力の向上等を目的として研修員受入872 名、専門家派遣913 名等の技術協力を実施した[80]。現地での災害支援活動も積極的に行っている。例えば、平成23 年10~11 月には、タイで発生した大洪水に対し、国土交通省は、洪水被害を受けたタイへの排水支援の一環として、排水能力が高く機動性に優れた国土交通省所有の排水ポンプ車10 台を派遣(初の海外派遣)。国土交通省地方整備局、外務省、JICA、民間企業による官民連携の国際緊急援助隊専門家チーム(排水ポンプ車チーム)計51 名(のべ880 人・日)により排水作業を実施した[81]。
[80] 平成25 年版 防災白書
[81] 国土交通省 水管理・国土保全局ウェブサイト「タイの洪水被害に対する国土交通省の取り組み」

注61) 政府のインフラ長寿命化基本計画では、今後、インフラ老朽化が進んでいく中、維持管理の担い手となる地域の建設産業が疲弊しており、若年入職者の減少もあり、ノウハウや技術の継承に支障が生じ、将来の施工力の低下が懸念されている[82]。国土交通省の資料によると、建設業就業者がピーク時の平成9 年の685 万人から現在では499 万人と約3 割減少しており、今後も減少していくと想定される[83]。また、建設業就業者の高齢化も課題となっており、55 歳以上が約34%、29 歳以下が約1 割と高齢化が進行し、次世代の技術承継が大きな課題となっている。
[82] インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議 インフラ長寿命化基本計画 平成25 年11 月
[83] 第23 回経済財政諮問会議 資料3  太田臨時議員提出資料 平成25 年11 月20 日 p10

注62) アセットマネジメントシステムでは、マネジメント目標にもとづき設備保全計画や保全作業計画を策定し、組織の役割・権限や人的資源の配置、設備計画、予算等と調整しながら各PDCAサイクルを回して目標達成と継続的改善を実現する。各PDCAサイクルの監視や調整にはKPI(Key Performance Indicators:重要業績指標)のような管理指標が必須といえる。欧米などの製造業では、欧州規格(EN15341 : 2007  Maintenance—Maintenance Key Performance Indicators)のKPI 例を参考に、設備や保全作業だけではなく組織や人材等を含めたシステム全体のKPI の選択が行われている。なお、欧米では様々な業種、業務に対応したKPI を紹介するインターネットサービスが多数存在しており、これらを活用してKPI を選択することも可能となっており、企業間の比較も容易となっている[84]。
[84] 榎本吉秀(アビームコンサルティング) インフライノベーション研究会 第14 回講演会「経営と設備管理の現場をつなぐKPI の活用」 平成25 年12 月20 日

注63) 民間活力の導入方法にはPFI(Private Finance Initiative)、PPP(Public Private Partnership)等の手法があり、既に、道路事業、駐車場事業等に導入されている。PPP は「公共サービスの提供に民間が参画する手法を幅広く捉えた概念で、民間資本や民間のノウハウを活用し、効率化や公共サービスの向上を目指す手法。」であり、とPFI は「公共施設等の建設、維持管理、運営等に民間に民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用することで、効率化やサービスの向上を図る公共事業の手法。」である。
平成25 年1 月1 日時点で、国土交通省所管事業において、直轄事業では庁舎、空港、河川関連施設、気象衛星の運用、駐車場など27 件実施され、地方公共団体では公営住宅、駐車場、公園、港湾、下水道など83 件実施されている[85]。
[85] 国土交通省ウェブサイト 官民連携政策課におけるPPP/PFI 支援の取組み 平成26 年3 月4 日


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