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わたりどり通信
2024年6月8日 20:45
シイシイは恋をした。 17歳にして初めての恋だった。それは不意に訪れた。ほんの数秒まで彼のことも、ときめきさえ知らなかったのに、恋の矢は閃光のごとくシイシイの胸を貫いた。「これ、誰?」 昼休み、隣の席の男子が広げていたサッカー雑誌のページにシイシイは目を奪われた。そこには異国の選手がゴールを決めた写真があった。青いユニフォームと、後ろにたなびく茶色い髪。瞳を開いたりりしい顔つき。厚
2024年5月15日 19:36
去年の秋から時が止まっている。「もう別れよう」陽人は唐突に告げた。「お前におれは必要ないから」と。 そんなことなかった。大好きでずっと一緒にいたかった。けれども去年私は隣人トラブルや家族の入院でバタバタして疲弊していた。思うように陽人と会えなくなったが、そういう時こそ彼が心の拠り所だったのに、丸1日連絡を返さなかった翌日に別れを切り出された。 私の待ってを待ってくれず、うんと年下の彼女が
2024年4月28日 12:50
好きな人に好きと伝えるより、好きだった人にもう好きじゃないと伝える方が難しい。相手がいい人なら特に。まだこちらを好きだと分かっていればなおのことためらう。 だから、ないだろうか。傷付けずに別れる方法が。即座に感じ取ってもらえる仕草や目線が。それがあれば簡単なのに。こんなに悩まなくてもいいのに…。 沙帆はもうずっとそのことばかり考えていた。朝起きて顔を洗ってる時も、賞味期限を過ぎて固くなった
2024年5月5日 15:57
さっきカーラジオで流れた歌が頭に残ってる。まるで今の私みたいだからだ。けど本心と悟られたくないので、口ずさむのを抑えた。「昔の歌はいいねえ。感情じゃなくて気持ちを歌ってるもんな。最近の曲は我が強くて聞き流しちまうよ。感性重視で心に残らない」 運転席でハンドルを握る広田さんは笑いながら毒づくのがうまい。彼の笑顔は素敵だ。本人もそれを自覚していて、三十四歳になっても衰えない万能の必殺アイテムだっ