マガジンのカバー画像

天風の剣

139
右目が金色、左目が黒色という不思議な瞳を持つ青年キアランは、自身の出生の秘密と進むべき道を知るために旅に出た。幼かった自分と一緒に預けられたという「天風の剣」のみを携えて――。 …
運営しているクリエイター

2023年6月の記事一覧

【創作長編小説】天風の剣 第15話

【創作長編小説】天風の剣 第15話

第二章 それは、守るために
― 第15話 黒い森へ ―

「あっ、あそこに食堂があるよ!」

 村に入ってすぐ、食堂の看板が目に入る。
 先ほど果物を食べたばかりだが、遅めの昼食をそこでとることにした。

「この村でも、お医者様にかかったほうがいいんじゃないかなあ?」

 ルーイが心配そうな顔をしながら、キアランに提案する。

「昨日町で診てもらったばかりだし、薬ももらってあるから大丈夫だ」

 

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第16話

【創作長編小説】天風の剣 第16話

第二章 それは、守るために
― 第16話 血 ―

 静かな深い森、わずかに舞い降りる月の光。
 弧を描く鋭い閃光、金属音が響き渡る。

「ははは! いいぞ、いいぞ! キアラン……!」

 魔の者シルガーとキアランが、それぞれの剣をぶつけ合っていた。
 木の根に、草葉に、むき出しの岩に、キアランは足をとられそうになる。
 防戦一方だった。シルガーの炎の剣の勢いに、天風の剣は押されていた。
 金属音

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第17話

【創作長編小説】天風の剣 第17話

第二章 それは、守るために
― 第17話 まっとうな、人間 ―

 虫の声で埋め尽くされた森の中、キアランは抜け殻のように立ち尽くす――。

「キアランッ!」

 ルーイはキアランの姿を認めると、わき目もふらずキアランのもとへ駆けよった。

「ルーイ――」

「キアランさんっ!」

 アマリアとライネは息をのんだ。キアランを間近で見て、なにかを感じ取ったようだった。

「キアラン! あんた――」

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第18話

【創作長編小説】天風の剣 第18話

第二章 それは、守るために
― 第18話 手のひらにある希望 ―

 そんなつもりはなかったのだが、すっかり、眠り込んでしまった。
 夢もない、泥のような眠りだった。

「キアラン! 馬を買うぞ!」

「えっ!」

 キアランは、慌てて飛び起きる。最初、自分がどこにいるのか、よくわからなかった。

「飯、食えるだろ?」

 ライネのいたずらっぽい笑顔が、そこにあった。

「あ、ああ――」

 まだ

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第19話

【創作長編小説】天風の剣 第19話

第三章 新しい仲間、そして……。
― 第19話 縁があれば、繋がるはず ―

 川辺で野営をした翌朝、町に着いた。
 町はまだ、朝もやに包まれていた。
 街道沿いに、色鮮やかな屋根の小さな家々が立ち並ぶ。朝食のよい香りを漂わせている家もあれば、静寂に包まれ、まだ眠りから覚めない家もある。フェリックスたちの蹄の音が、リズミカルな心地よい響きを奏でる。
 角を曲がると、栗毛の馬に乗った男性の姿が見えた

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第20話

【創作長編小説】天風の剣 第20話

第三章 新しい仲間、そして……。
― 第20話 それぞれの事情 ―

 凛とした佇まいの、赤い髪の女剣士。
 魔の者の首を跳ね飛ばしたキアランを見ても動じることなく、むしろ食ってかかってきた。腕に覚えのあるものに違いないと、キアランは思った。
 キアランは、フェリックスの背から降りた。

「すまない。魔の者に襲われ、困っていると思ったから――」

「あなた……! その目……!」

 女剣士は、間近

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第21話

【創作長編小説】天風の剣 第21話

第三章 新しい仲間、そして……。
― 第21話 笑う、金の瞳 ―

「修道院へ、行ってみましょう」

 亜麻色の長い巻き髪をなびかせ、アマリアが愛馬バームスの背にまたがる。

「ソフィアさんとは離れてしまいましたが、私たちのできることをしましょう」

「修道院っていったって、各地に色々ある。他の国の可能性だってある。目星は付いているのか?」

 ライネが尋ねた。

「ええ。きっと、百年前の『空の窓

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第22話

【創作長編小説】天風の剣 第22話

第三章 新しい仲間、そして……。
― 第22話 挨拶と礼 ―

 太陽を背にし、空に立つ、異形の者。
 背には、大きな四枚の漆黒の翼――。
 空のキャンバスに描かれた不吉な影、圧倒的な存在感だった。

 あの男が、私の――。

 キアランは、自分の本当の両親についてなにも知らない。
 しかし、シルガーの言葉や自分の右目の金色、そして魔の者に対する感覚――キアランにとって、さほど強くない魔の者相手な

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第23話

【創作長編小説】天風の剣 第23話

第三章 新しい仲間、そして……。
― 第23話 ただ借りを返したかっただけ ―

「さすがに、眠いな。力を使い過ぎた」

 シルガーは、けだるそうに長く息を吐き出すと、大地に体を横たわらせた。

「ふふ。倒すなら今だぞ。キアラン」

 シルガーは、銀の瞳を閉じた。まったくの無防備な姿だった。

「……いったん体の回復の助けをしておいて、改めて殺すやつがいるか」

 キアランはそう答えつつ、ほんとに

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第24話

【創作長編小説】天風の剣 第24話

第三章 新しい仲間、そして……。
― 第24話 訪問者 ―

 たき火の炎が、揺れる。

「四天王とは、魔の者の中でも突出して力の強い、特別な存在です。その特徴としては――」

 アマリアは、ゆっくりと語り始めた。皆、耳を傾ける。
 
「四枚の漆黒の翼を持つ、と言われています」

「四天王と呼ばれるものは皆、あのような四枚の黒い翼を持つのか」

 アマリアの言葉に、思わずキアランは尋ねていた。

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第25話

【創作長編小説】天風の剣 第25話

第四章 四聖と四天王
― 第25話 おにーちゃんも、一緒に ―

 ルーイは、夢を見ていた。
 白壁の家々に囲まれた、細い路地。住民の気配はなく、ひっそりと静まり返っている。
 夕日の強い日差し。ルーイの後ろには、長い影法師ができていた。

 ここは、どこなんだろう。

 ルーイは思わず自分の胸の辺りに、小さな拳をあてていた。
 知らない町。半分開いた、家の窓をそっと覗く。
 テーブルに乗っている

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第26話

【創作長編小説】天風の剣 第26話

第四章 四聖と四天王
― 第26話 湖に映る月 ―

 キアランたちは山を越え、川を渡り、ひたすら馬を走らせる。
 旅人が通る安全な道ではなく、道なき道を進む。村や集落、人のいる場所も避けた。
 四天王の襲撃を警戒してのことだった。
 そして、四天王に遭遇してから四日目の晩。美しい月夜だった。
 魔の者が入り込みにくい、清浄な森で、キアランたちは体を休める。
 月が高く昇るころ、キアランの隣でルー

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第27話

【創作長編小説】天風の剣 第27話

第四章 四聖と四天王
― 第27話 不吉な鐘 ―

 夜の風に、ざわざわと木々が揺れる。
 真っ暗な湖を見つめ、立ち尽くす。

 これでは、ますます眠れそうにないな。
 
 そう思うキアランだったが、いつなんどき戦いに巻き込まれるかわからない現在、一睡もしないのはさすがに無謀だと考える。

 気になることだらけだが、体を整えることが先決だ。

 キアランは、皆のいるテントに向かって歩き出す。眠れな

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第28話

【創作長編小説】天風の剣 第28話

第四章 四聖と四天王
― 第28話 呪われたこの身の、祝福 ―

  見ちゃだめだ……!

 ルーイの本能が、そう告げていた。
 目の前に立つ、赤いリボンをつけた小さな女の子。吸い寄せられるように、その子から目が離せない。
 青空が、どこかよそよそしかった。流れる雲でさえ、現実らしさを装った、ただの作り物のように見えた。

 これは、悪い夢の続きなのだろうか……?

 妖しい光を宿す、紫の瞳をした

もっとみる