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【今さら現地レポート】「さっぽろレインボープライド2022」

 新通観光プロモーション戦略室の武田です。
 先日、「注目度が高まるSDGs時代の新たな観光プロモーション『LGBTQツーリズム』とは」というタイトルで記事を紹介させて頂きました。その中で、LGBTQツーリズムが注目される理由のひとつとして「経済効果」を挙げましたが、その具体的な事例でLGBTQの祭典である「プライドイベント」やパレードに参加することを目的として、多くの観光客が押し寄せているとお伝えしました

 さて、かなり古い話になってしましますが、「プライドイベント」と「観光」という視点で、事例(体験記)を紹介したいと思います。
 昨年(2022年)のシルバーウィークの3連休期間であった9月17日(土)~18日(日)に北海道の札幌にて「さっぽろレインボープライド2022」が開催されました。
 「さっぽろレインボープライド」とは、LGBTQなどの性的マイノリティの差別解消や権利主張を目的とした当事者と支援者によるイベントおよびパレードで、2022年の時点で26年の歴史を誇ります。
 前年2021年はコロナ禍の影響でオンラインによる開催でしたが、2年ぶりに「リアル」での開催となった今回は、札幌の中心街に「レインボーストリート」と銘打って歩行者天国が設けられ、1日目(9月17日)は企業、団体によるブース出展とステージパフォーマンスが行われ、2日目(9月18日)は大通公園沿いや時計台の前など札幌の中心街を参加者が思い思いの服装・衣装を身にまとい、装飾したトラック(フロート)などと共に約1時間に渡ってパレードが行われました。
 主催者によると、2日間の来場者人数は約1万人、パレードの行進者数は約800人と過去最多の参加人数であったそうです。

テレビ塔を望む大通り公園沿いをパレード

 という事で、東京在住の私、武田と家族(妻と小3の息子)、「さっぽろレインボープライド2022」に参加してきました。
 「LGBTQツーリズム事業に携わる者としての使命感」、「家族に対してイベントやパレードを通じた啓発活動」という高邁な考えもありつつ、やっぱり「札幌旅行を楽しみたい」というのが大きな動機でしょうか・・・(まぁ、これが今回のポイントでもあります)。
 前置きが長くなってしまいましたが、今回は武田家の「さっぽろレインボープライド2022」参加と札幌旅行記にお付き合いいただけると幸いです。


いざ、札幌へ!

 シルバーウィークという事もあり、飛行機も混雑・・・残念ながらフライトの都合上、そして遅延もあり、札幌に到着したのは17日の夕方となり、イベント1日目は参加できずという結果になりました。レインボーストリートでは各ブースとともにキッチンカーも軒を連ね、レインボーカラーのジェラートが売られるなど盛況だったと聞いております(食べたかった)。またステージでは数々のパフォーマンスやトークイベントが行われる中で、サプライズとして映画『エゴイスト』にゲイ役で主演している俳優の鈴木亮平さんが登場。同映画で共演している人気ドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジータさん、札幌のパレードの創設者の一人であるケンタさんとともに公開ラジオ収録のトークショーがあり、大きな話題となりました(もちろん私たちは見れませんでした)。
※参考記事:『PRIDE JAPAN』(2022年9月19日) より     
 
 とは言え、小学3年生の息子にとっては実質初の飛行機を体験(生後5ヶ月くらいの時に乗った経験はあるのですが、当然本人に記憶はありません)にテンションは高く、機内サービスのコンソメスープをお代わり。後は札幌到着後、夜に「すすきの」で晩御飯を食べた以外にこれと言って何もしていない1日目でしたが満足気でした。

札幌観光と、いよいよパレードへ


少年(息子)よ、大志を抱け!本当に頼むぞ!(羊ヶ丘展望台にて)

 2日目(18日)パレードは午後からの開催であったため、今回の旅行では復路のフライト時間の都合上、唯一と言っても良い札幌観光のチャンスとして「羊ヶ丘展望台」を訪れました。「Boys, be ambitious.(少年よ、大志を抱け)」息子の胸に響いてくれたでしょうか・・・
 実はこの札幌旅行で最大の懸念は天気で、大型台風が西日本で猛威を振るい甚大な被害が出ている最中で、遠く離れている札幌は大きな影響は受けなかったものの、結局午前中から雨が本降りとなってしまいました。
 そして羊ヶ丘展望台から、味噌ラーメンのランチというド定番の観光を経て、いよいよパレードへ。雨は益々強くなる中、我々はレインボーグッズを身にまとい、沿道の人に向かって「ハッピー・プライド!」と声を掛けながら行進を開始しました。

雨の中の「ハッピー・プライド!」

 雨の中で靴にも水が浸み込み、特に小学生の息子にとっては決して楽なパレードではなかったと思いますが、フロートから流れる大音量の音楽や、カラフルな衣装で車道(の端)を練り歩くことは非日常な体験として、妻も息子も楽しく歩いてくれたのは幸いでした。「さっぽろレインボープライド」のパレードでは大通公園沿いを歩きテレビ塔を目の当たりにしながら、時計台の前も通るので、歩くだけで通常とは違った形での観光体験ができるのも特徴でもあり、そうしたことも要因だったかもしれません。
 しばらくすると奇跡的に雨が上がり、参加者の盛り上がりも最高潮に、とは言いながらも長い道のりを歩いてきて疲労も溜まってきた・・・そんな頃に、前日のステージでトークショーに参加していた鈴木亮平さんが沿道でパレードを応援している姿を発見し、妻は興奮状態に。確かに、マスク越しではありましたが、すらっとした長身とそのオーラは流石スターの貫禄、物凄く格好良かったです。気さくに手を振って応えてくれ、とても嬉しいサプライズとなりました。

札幌の観光名所・時計台の前をパレード

 こうして約3㎞、1時間のパレードは無事終了。達成感と満足感に浸りながらも、歩いた疲労感もどっと出て、残念ながらフィナーレのシャボン玉飛ばしまでは参加できる体力が残っておらず、ホテルに戻ってまいりました(夜、時計台がレインボーにライトアップされたのですが、こちらはホテルの部屋から見ました)。とは言え、家族ともども非常に貴重で楽しい時間を過ごしたことは間違いありません。4月に東京で開催されたプライドイベント「TOKYO RAINBOW PRIDE 2022」でも、家族でイベントとパレードに参加しましたが、比較すると規模は小さくなってしまうものの、それとは違った「ならでは」の魅力がこの「さっぽろレインボープライド」にはあり、また是非家族で参加したいと思っております。

イベントの締めくくりは色とりどりの「シャボン玉飛ばし」

 3日目は帰京日で、ホテルでの朝食後、すぐに新千歳空港へ。往路同様、息子は機内でコンソメスープをお代わりし、窓の外に広がる景色を楽しみながら無事に帰宅いたしました。

「プライドイベント」と誘客の可能性

 長くなりましたが、本稿でお伝えしたかった事は、「LGBTQツーリズム」という視点で、日本における、こうした「プライドイベント」を通じた誘客の可能性についてです。
 今回の「さっぽろレインボープライド」においても、私のように東京からであったり、その他全国各地から多くの方がイベントやパレードに参加されました。目的はそれぞれであると思いますが、その多くは、プライドイベントへの参加を目的としつつも、札幌ならではの「食」を楽しむために友人やパートナーあるいは家族と飲食店を訪れたり、周辺や道内の観光地を訪れたり、私たち家族同様「旅行」も楽しんでいると推察されます。
 また、「さっぽろレインボープライド」に合わせた啓発イベントやナイトイベントも数多く開催されており、具体的な数字は不明ですが、人が動くことによる「経済効果」が地域で得られていることは間違いないでしょう。  「さっぽろレインボープライド」を地域におけるひとつの観光コンテンツとして捉えて誘客戦略を立てていく事は、海外における事例を見ても非常に有効ではないかと考えられます。

 しかしながら、安易に経済効果という側面でこうしたプライドイベントを活用するという考えは、LGBTQなどの性的マイノリティの差別解消や権利主張を目的としたイベントの趣旨、そして当事者の切なる思いを踏みにじる行為として誤解され、大きな反発を招きかねません。イベントの主催者や当事者に寄り添い、しっかりとお互いの合意形成を行った上で進めていく事が必要不可欠です。

 そうしたことを前提としつつ、敢えて誤解を恐れずに言うと、プライドイベントを通じた誘客施策は経済効果だけではなく、

  1. LGBTQの当事者はイベントやパレードに参加するとともに、その地域が安心して旅行ができる「LGBTQフレンドリー」な環境であることを知る機会となる事。

  2. LGBTQに関して少なからず関心があるストレート層にとっても、旅行をしながらイベントやパレードに参加することができ、結果的に啓発につながる事(私たち家族の札幌旅行はまさにこれにあたります)。

  3. LGBTQの啓発を目的とした教育旅行や、ダイバーシティ施策を推進あるいは検討している企業・団体による「ワーケーション」などで活用でき、経済的効果とともに、社会全体の変容につながる可能性がある事。

につながり、差別解消や権利主張とともに重要となる「LGBTQなどの性的マイノリティの存在や問題を社会に広く認知させ理解促進につなげる」という点において、プライドイベントの趣旨や目的に叶うものであると考えられます。
 「LGBTQツーリズム」を通じ、経済的な恩恵のみならず、あらゆる人々が多様性を認め合う「共生社会」が実現し、誰もが自分らしく幸せと感じる未来が築き上げられることを願うばかりです。

 ちなみに「さっぽろレインボープライド」ですが、今年2023年は9月16日(土)~17日(日)に開催が決定しております。是非この機会に、札幌・北海道旅行も兼ねつつ、パレードに参加してみてはいかがでしょうか?



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