JIME研究余滴

一般財団法人日本エネルギー経済研究所・中東研究センター研究員によるエッセー、研究ノート…

JIME研究余滴

一般財団法人日本エネルギー経済研究所・中東研究センター研究員によるエッセー、研究ノート、新刊紹介などなど。現在試験運用中です。 HP: https://jime.ieej.or.jp/ Twitter: @JIMECenter

最近の記事

福沢諭吉と渋沢栄一のエジプト

 7月から紙幣のデザインが一新され、たとえば、1万円札の肖像は福沢諭吉から渋沢栄一へと代わるそうです。2人とも幕末から明治の激動期に活躍、実業や教育の分野など日本の近代化に大きな貢献をしたことで知られています。実はもう一つ、幕末に外遊を経験したという共通点が2人にはあります。福沢は1859年に米国、1862年にヨーロッパ、1867年に米国と3度の外遊を行っていますし、渋沢は1867年にフランスを訪問しています。訪問団の目的も、福沢・渋沢の役割もそれぞれ異なっていますが、中東研

    • 新著紹介:柳沢崇文(著)『現代日本の資源外交―国家戦略としての「民間主導」の資源調達―』(芙蓉書房出版、2024年)

      さきの1月に弊所の柳沢崇文(やなぎさわ たかふみ)主任研究員が単著『現代日本の資源外交―国家戦略としての「民間主導」の資源調達―』を出版しました。出版から少し時間が経ってしまいましたが、今回は本書の紹介を行いたいと思います。 著者について柳沢主任研究員は2021年より弊所(日本エネルギー経済研究所)に入所し、国際エネルギー情勢や日本の資源政策に関する研究に取り組んでいます。2021~22年度は中東研究センターに所属していましたが、現在は資源・燃料・エネルギー安全保障ユニット

      • サッカー・アジアカップとマンサフ

        AFC(アジアサッカー連盟)アジアカップ2023が1月中旬よりカタル・ドーハで開催され、日々熱戦が繰り広げられている。カタルでの開催、中東勢の活躍から、日本国内でも中東諸国に関心が向く機会となっていることだろう。大会は総当たりのグループステージが終わり、1月28日より決勝トーナメントに入っている。 そんな中、決勝トーナメント1回戦としてイラク対ヨルダンの一戦が1月29日に行われた。逆転に逆転を重ねる熱戦の末、ヨルダンが3対2でイラクを下した。ヨルダンからしてみれば、直近(2

        • アクサー洪水作戦

           2023年10月7日、パレスチナのガザ地区を実効支配するハマースという組織が突然、宿敵イスラエルを攻撃し、イスラエル国内に多くの被害をもたらしました。それに対してイスラエルもガザに報復攻撃を実施、多数のパレスチナ人が犠牲になりました。  イスラエルは小国ながら、中東最強ともいわれる軍事力を誇るのに対し、ハマースは、その正式名称、「イスラーム抵抗運動(حركة المقاومة الاسلامية‎ Ḥaraka al-Muqāwama al-Islāmīya)」からもわかる

        福沢諭吉と渋沢栄一のエジプト

          万緑叢中紅一点

           9月も末になってようやく暑さがやわらいできました。長かった夏も終わりを告げようとしています。この時期になると、ザクロの実が熟してきます。自宅の近所や勤め先の近くの公園にザクロの木があり、そこを通るたびに、実が大きくなっているのがわかります。とはいえ、その実をもいで取っていくわけにもいかず、ただ見ているだけですが。  一度、自宅そばの公園でザクロを眺めていたら、よほど物欲しげに見えたのか、公園の管理をされているかたが、わざわざザクロの実をもいでくれました。せっかくですので、家

          万緑叢中紅一点

          あるイラン人プロレスラーの死

           6月7日、1970年代から米国を舞台に活躍したプロレスラーのアイアン・シークが亡くなりました。81歳でした。彼の家族が、彼自身の公式ツイッター・アカウントで明らかにしたのですが、死因や亡くなった場所についての言及はありませんでした。  その声明のなかでは、彼の本名が、ホセイン・ホスロー・アリー・ヴァジーリーであると述べられていましたが、彼の出自については触れられていませんでした。実は、彼は1942年、イラン北部セムナーン州のダームガーンで生まれたイラン人です。貧しい家庭に

          あるイラン人プロレスラーの死

          バハレーンのカール

           先日、原宿の駅前にあるWITH HARAJUKUというところにはじめて行ってきました。日本・中東3か国(アラブ首長国連邦・オマーン・バーレーン)外交関係樹立50周年記念文化イベントなる催しがここで行われていたからです。1月に同じ枠組で50周年記念シンポジウムも開催され、こちらのほうには私も登壇して、日本と湾岸3か国の関係について話をしたこともあって、文化イベントにも参加せねばということで、原宿という私にとっては場違い感たっぷりの場所に妻といっしょにいってきました。  会場に

          バハレーンのカール

          2022年中東の重大ニュース

           2022年は中東でもいろいろ大きな事件がありましたし、国際社会の動きでも中東諸国は右往左往しなければなりませんでした。とくにロシアのウクライナ侵攻をめぐっては、油価が上昇したり、仲介外交を展開したり、武器輸出に精を出したりと、さまざまな面で中東諸国も存在感をアピールしました。  さて、サウジアラビア資本の衛星放送アラビーヤ(英語版)で、中東の重大事件、ベスト5という特集をしていました。それによれば、 1.モロッコがワールドカップでベスト4 2.カタルがワールドカップを開

          2022年中東の重大ニュース

          シェイフ・メッシとビシュト

           2022年11月20日に中東のカタル(カタール)で幕を開けたサッカーのFIFAワールドカップ(W杯)・カタル大会は、12月18日、アルゼンチンの優勝で幕を閉じました。単に中東で開催された、はじめてのW杯であっただけでなく、モロッコやサウジアラビアなどアラブ諸国の躍進、番狂わせ、さらにはイランで体制を揺るがす抗議デモが発生しているなか、イラン代表チームによる無言のデモ支持表明などもあり、中東地域ではこれまでにない注目を集めていました。  カタルを含む湾岸地域を専門とする筆者と

          シェイフ・メッシとビシュト

          ターキッシュ・デライト

          ターキッシュ・デライトTurkish Delightをご存じでしょうか。訳せば、「トルコの喜び」です。トルコ語では「ロクム」といい、トルコを代表するお菓子のひとつで、トルコ土産の定番中の定番です。たまたま11月26日から29日まで、事実上1泊4日という強行日程でイスタンブルに行く機会があったので、旧知のジャーナリストと会ったところ、わざわざそのかたからお土産としてルクムをいただいたのです(この場をお借りして、御礼申し上げます)。 ロクムは食感でいうと、ゆべしのようなもので、歯

          ターキッシュ・デライト

          ラマダーン、ファーヌース、ゲルギーアーン

           イスラーム世界では今はラマダーン月です。イスラームではラマダーン月の1か月、人びとが断食するのをご存知かたも多いでしょう。断食といっても、1か月のあいだ一切、食べ物を口にしないというわけではなく、日の出から日の入りまで日中の飲食を断つという意味です。つまり太陽が出ていないときは飲食をしてもいいということになります。  したがって、この期間、イスラーム諸国では昼夜が逆転したような奇妙な雰囲気となります。日没とともに、イフタールという断食明けの食事がはじまり、友人や親戚の家を訪

          ラマダーン、ファーヌース、ゲルギーアーン

          クウェートとウクライナ

           ロシアによるウクライナ侵攻が世界中のメディアで大きく取り上げられています。第一報を聞いて、個人的にまず思い出したのは、自分自身のクウェートでの経験でした。1990年5月ぐらいから、クウェートではイラクがクウェートに侵攻するのではないかとの噂が流れるようになっていました。バグダードで開催されたアラブ・サミットで、イラクのサッダーム・フセイン大統領(当時)がクウェートのジャービル首長(当時)に灰皿をぶん投げたなどといった話がまことしやかに外交団のあいだで語られていました。  こ

          クウェートとウクライナ

          湾岸危機・湾岸戦争の決着

           イラク中央銀行は12月21日、湾岸危機・湾岸戦争でのクウェートへの賠償金(総額524億米ドル)の支払いが完了したと発表しました。イラクにとっても、クウェートにとっても、30年前の悪夢の、少なくとも一つの決着になるでしょう。  1990年8月2日、イラク軍がクウェートに侵攻した当時、わたしはクウェートに住んでいました。その後、クウェートに住んでいた邦人はほとんどイラクに移り、大半がイラク当局に捕まって「戦略的要衝」に連れていかれ、12月に解放されるまで4か月間にわたって、拘

          湾岸危機・湾岸戦争の決着

          まっすぐな国境線2

           中東には遊牧民が多数存在していました。彼らはラクダやヒツジを連れて季節に応じて長距離を移動します。この遊牧を生業とする部族(あるいはその下の単位も含め)がもつ移動範囲(境界領域)をアラビア語で「ディーラ」といいます。このディーラは、やっかいなことに、重層的にできていて、それぞれの部族のもつディーラが別の部族のディーラと縦横斜めいろんなかたちで重なっていることが珍しくありません。  この重層的な領域を二次元の地図上で重ならないよう線を引くことは困難です。ましてやこれにA部族

          まっすぐな国境線2

          まっすぐな国境線1

           中東の地図を見ていると、国境線がまっすぐなことに気づきませんか?たとえば、エジプトの地図を見てみましょう。エジプトは南はスーダン、西はリビアに接していますが、それぞれの国境がほとんど直線であることがわかるでしょう。ご存知のかたも多いと思いますが、実はエジプトとスーダンの国境線は北緯22度の緯線上に引かれており、エジプトとリビアの国境線は東経25度の経線上に引かれています。つまり、西欧列強が地図上の緯線・経線に沿って適当に線を引いたからなわけですね。ところどころグニュグニュと

          まっすぐな国境線1

          ターリバーンを読む

           アフガニスタンで8月15日、武装組織ターリバーンが首都カーブルに入城、アフガニスタンのほぼ全土を掌握しました。すでにこれについてはいろいろ報道されているので、とくに事実関係について追加する気はありません。  実際、私自身、アフガニスタンの専門家ではないですし、そもそもアフガニスタンに行ったことすらありません。とはいえ、ターリバーンに匿われていたアルカイダのような過激組織をずっとフォローしていたので、アフガニスタンやターリバーンには人並以上に関心をもっていました。実際、ずい

          ターリバーンを読む