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ターキッシュ・デライト

ターキッシュ・デライトTurkish Delightをご存じでしょうか。訳せば、「トルコの喜び」です。トルコ語では「ロクム」といい、トルコを代表するお菓子のひとつで、トルコ土産の定番中の定番です。たまたま11月26日から29日まで、事実上1泊4日という強行日程でイスタンブルに行く機会があったので、旧知のジャーナリストと会ったところ、わざわざそのかたからお土産としてルクムをいただいたのです(この場をお借りして、御礼申し上げます)。
ロクムは食感でいうと、ゆべしのようなもので、歯が解けそうなほど甘いのが多いトルコのお菓子のなかではまだ甘くないほうでしょう。
妻によれば、C.S.ルイスの有名なファンタジー小説『ナルニア国物語』の邦訳のなかで魔女が主人公の兄弟姉妹の次男、エドマンドに「プリン」を食べさせる場面があったそうです。
ところが、映画版の『ナルニア国物語』を観たら、そこが「ターキッシュ・デライト」となっていて、邦訳に出ていた「プリン」は実はプリンじゃなくて、ターキッシュ・デライト、つまりロクムだったんだと気づいたんだそうです。
おそらく邦訳者は、ターキッシュ・デライトといっても、日本の子どもには理解できないだろうから、馴染みのあるプリンに置き換えたのでしょう。しかし、うちの妻も、よく子どものころに読んだ小説のそんな場面を覚えていたなと思うんですが、妻は絵本の『ピーターラビット』でも料理する場面ばっかり鮮明に記憶しているのを思い出し、納得してしまいました。
さて、ロクムがなぜターキッシュ・デライトと英語で呼ばれるようになったのでしょうか。有名なオックスフォード英語辞典を調べてみたんですが、18世紀ごろには文献に現れており、そのまえはLump of delightと呼ばれていたとありました。つまり、「喜びの塊」ということでしょうか。さらにそのまえは「ラーハト・ロクーム」(Rahat Lokum)とも呼ばれていたそうです。
実はこちらはもともとアラビア語の「ラーハトゥルフルクーム」(Rāḥa al-Ḥulqūm)からきています。この語は「ノドḤulqūmの楽しみRāḥa」とか「ノドの慰め」といった意味になるでしょうか。実はこのアラビア語の名称はトルコ語でも用いられ、トルコ語(正しくはオスマン語)訛りで「ラーハテュルフルクーム」とも呼ばれていました。
となると、もしかしたら、ロクムの起源はトルコではなく、アラブなのかもしれません。実際、ロクムという名前も、アラビア語のルクマ(Luqma)、あるいはルカム(Luqam)といわれています。ルクマは「一口(ひとくち)」という意味で、ルカムはその複数形になります。
ただし、ロクムが今のようなかたちになったのは18世紀、アリ・ムヒーユッディン・ハジ・ベキルという人がイスタンブルのバフチェカプでお菓子屋をはじめてからだといわれています。ちなみにこの店は今もつづいています。

なお、筆者がイスタンブルでお土産にいただいたのは、このハジ・ベキルのものではなく、「コスカ」という店のものでした。こちらも、ハジ・ベキルほどではありませんが、創業は1907年と、長い伝統を誇ります。

なお、コスカのロクムは日本版のアマゾンでも購入可能です。ご関心のあるかたはぜひどうぞ。
さらにいうと、11月11日には東京銀座の松屋銀座に、ロクムと並ぶトルコの銘菓バクラヴァの店がオープンしました。イスタンブルの高級バクラヴァ屋「ナーディル・ギュル」がイスタンブル以外にオープンした初の店舗だそうです(「ナーディル・ギュル」はトルコ語では正しくは「ナーディル・ギュッリュ」(Nadir Güllü)となると思います)。ちなみにこちらの店には日本語の公式オンラインショップもあります。
来年はトルコ共和国建国100周年、再来年は日本との国交樹立100周年です。トルコのお菓子で祝うのも悪くないでしょう。

(保坂修司)


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