新著紹介:柳沢崇文(著)『現代日本の資源外交―国家戦略としての「民間主導」の資源調達―』(芙蓉書房出版、2024年)

さきの1月に弊所の柳沢崇文(やなぎさわ たかふみ)主任研究員が単著『現代日本の資源外交―国家戦略としての「民間主導」の資源調達―』を出版しました。出版から少し時間が経ってしまいましたが、今回は本書の紹介を行いたいと思います。

著者について

柳沢主任研究員は2021年より弊所(日本エネルギー経済研究所)に入所し、国際エネルギー情勢や日本の資源政策に関する研究に取り組んでいます。2021~22年度は中東研究センターに所属していましたが、現在は資源・燃料・エネルギー安全保障ユニットのガスグループに移りました。前職にてLNG、ウラン、石炭事業に取り組まれていたことも合わせ、エネルギー全般に目の利く新進気鋭の研究者として、活躍の場を広げています。
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柳沢主任研究員はさらに、業務に取り組む傍ら、東京大学大学院総合文化研究科の博士課程での研究も進め、2022年に博士(学術)を取得されました。本書はその博士論文に基づく一冊ということで、幅広い経歴に基づく多角的な視点から現代日本の資源外交が論じられています。資源外交やエネルギー政策の研究者はもちろん、日本外交研究、安全保障研究の研究者、さらにはエネルギー調達に携わる実務家の皆さんにとっても手に取りやすい一冊ではないかと思います。

しかも、タイミングが良いのか悪いのか、博士論文提出直前の2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻が発生、にわかに国際エネルギー情勢の緊張が強まったことを受け、本書の執筆にあたってはロシアのウクライナ侵攻以降のエネルギー情勢変動を受けた加筆、再構成も行ったとのことです。加筆、再構成のご苦労は図り難いものであるものの、読者の目線に立ってみれば、目下の関心に応える、より親しみやすい一冊となったと言えるでしょう。

弊所関連文献コーナー

本書の概要


タイトルの通り、本書は現代日本の資源外交を題材とする一冊です。現代日本の資源外交には様々な側面があり、様々な角度から研究されてきましたが、本書が注目するのは、石油危機以降に日本が「民間主導」という、独特な資源調達の形態を維持してきたという事実です

石油危機はエネルギーが地政学リスクを持つ商品であることを人々に知らしめ、その安定供給の確保は国家的な重要性を持つ課題であるという認識が各国で共有されるきっかけとなりました。このような国家的課題に対し、欧州先進国では政府が強く関与する形での石油業界の再編や政府による〔資源開発プロジェクトへの〕支援強化が進められたのに対し、日本ではエネルギー業界の国営化や政府関与による業界再編は行われず、民間主導でのエネルギー調達の形が維持されたのです。

なぜこのような独特な形態が維持されることとなったのか。本書は日本が石油危機以降にイラン・ソ連(ロシア)で進めた3つの資源開発プロジェクトの事例分析を中心にこの問いに取り組んでいきます。

本書がこの問いを解く鍵として主張するのはアメリカとの関係です。石油危機によってエネルギー安全保障を重大な課題として認識した日本は、中東産原油に依存したエネルギー調達戦略を見直し、エネルギー源・調達先の多様化を図ることとなりますが、これは米国の経済的利益、安全保障政策との間に緊張関係を生むものでした。なぜなら、日本への中東産原油は欧米の石油メジャーがその多くを供給するものであり、中東産原油への依存度の低下は、石油メジャーへの依存度の低下も意味するものでした。しかも、新たなエネルギー調達のために行われた資源開発プロジェクトには、1979年以降米国と大きく対立することとなるイランも含まれました。

本書はこのような米国との緊張関係を「軍事的・エネルギー安全保障間のジレンマ」として捉え、この「ジレンマ」こそが「民間主導」という日本の独特な資源調達の在り方をもたらしたと喝破します。もちろん、石油危機以降の日本はエネルギー安全保障を国家的な課題として捉えており、単に民間企業だけで資源調達が行われるのではなく日本政府と企業は密接に協議しながら資源調達を進めていました。しかし、このような日本政府の姿勢が米国の軍事安全保障に反するとして圧力が加えられると、それをかわすために、政府関与は表に出さず「民間主導」という形をとるようになったというのです。

本書はこの「ジレンマ」が強まる中で「民間主導」の姿勢も強くなる、というプロセスを、日本における複数の事例のほか、ドイツ、イタリアの例とも比較することで、多角的に実証しています。どのように実証を試みているのか、「民間主導」の資源外交とは実際にどのようなものなのか、どの程度「民間主導」の資源外交は有効なのか・・・など、気になる点はたくさんあるかと思いますので、是非本書をお手に取って見て頂ければと思います。

書誌情報

柳沢崇文(著)『現代日本の資源外交―国家戦略としての「民間主導」の資源調達―』芙蓉書房出版、2024年(ISBN: 9784829508725)
http://www.fuyoshobo.co.jp/book/b638849.html

(渡邊 駿)


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