ニートでなぜ悪い 5話
はじめに
この物語はフィクションであり、実在の人物・組織・団体とは一切関係ありません。
本編
頭痛と共に目が覚めて、枕元の時計を見る。
目覚ましをかけるのははいつも6:30だ。
小学生のころも、中学生のころも、大学に入ってもきっかり6:30。
夏のまだ暑くなるかならないかの時間帯、冬の寒さのお陰で湯気のたつお茶がうまい時間帯。
ちなみ今は14:48だ。
寝過ごしたどころの騒ぎではない。学生なら遅刻とかどうでもいいなと諦める時間だ。
窓から差す日差しが、天井を一筋だけ照らしている。
スマートフォンで連絡を確認すると、4件のメッセージが入っていた。
「昨日は飲みすぎたなw、ちゃんと水飲めよw」
木村からのどうでもいい連絡で、自分の喉の乾きに気づいた。
台所に行って水を飲む。
コップの底が照明を反射して光っている。
「何かしなければいけない。」昨日の帰りの電車でも俺の頭を占領したその言葉に引っ張られるように、俺は首をもたげた。
コップに映っていた照明が、今は眼前にある。
何をしろというのだろう。かの立川談志は言った。人間とは食って寝てやっておわりだと。
では食って寝てるだけのおれは2/3人間として成立しているわけである。
この現代社会でそれ以上なにを望むというのだろうか?努力せずとも三つ手に入る現代において、そのほかの幸福はいわばオマケに過ぎないのである。
例えるなら牛乳を飲んだ後のベルマーク集めのようなもので、牛乳の本質はあくまでも牛乳そのものなのである。
俺は牛乳だけで満足だった。
やらないための理由はいくらでもある。やるための理由はなかなか見つからない。
そもそも何をするか決まってない俺は理由を探す理由もなかった。
あるのはただ呪詛のように渦巻く木村の声だけだった。
そして俺も実のところ、何かしなければならないと思っていることだった。
なにをしたらいいのだろう?27の宙ぶらりんな男に、何ができるのだろう?思春期に立ち返ったような疑問を繰り返すうちに、俺は眠っていた。
・・・
今までの睡眠不足を取り返したかのような目覚めの良さに、少し驚きつつ布団を抜け出した。
空腹を感じて、コンビニを目指すべくサンダルを履いた。
道中、河川敷で二本ほど煙草を吸い、空腹と覚醒後のヤニクラの気持ち悪さを存分に体感しつつ、俺は自動ドアをくぐり、冷気のカーテンへと突っ込んだ。
お目当てのチャーハン弁当を見つけ、レジに向かう頃には眠る前の悩みなど忘れていた。
レジを通ってそのままの勢いで外に出ると、自分のうかつさを思い出した。
先頃顔を合わせてしまった、かつての知り合いらしき奴がいた。
「おー、また来たの。」
奴は背中にギターを背負っていた。
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