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LOTR『力の指輪』の率直な感想(画面の美しさ、ポリコレ、サプライズ)(ロード・オブ・ザ・リング)

第1シーズン最終話まで視聴できたので感想を。

途中からネタバレ強めで語るので閲覧にはご注意ください。最終話にはサプライズが用意されているので、初見時は結末は知らない状態が好ましいと思います。

▼ビジュアル:

非常に美しいと思います。私は4K-HDR環境で観ましたが、見事な撮影でした。このドラマは莫大な予算がかけられたことで話題になりましたが、作品を観た限り、その多くは映像表現のために使われた筈です。CGだけじゃなくて、カメラ、照明、セット、エキストラ、スケジュール、あらゆるものに贅沢にお金を使っているからこの映像が実現しています。4KとHDRは是非とも揃えたい所です。今後ご覧になる方には、視聴環境はよく整えられることを推奨します。

特に絵作りが綺麗だったのはシャーロット・ブランドストーム(Charlotte Brändström)が監督を務めた6話と7話でした。要所でカメラを引いて絵画のような構図で見せるのが上手く効いていたと思います。

残りの監督については「普通にVFXにお金を掛けたファンタジーとしてよく見る綺麗な絵」止まりだったかなと思います。すごいことはすごいんだけど、どこかで観たことがある感覚もまた強くて。

あとはCGを使って作った風景よりも、やはり20年前のピータージャクソン映画の実際にロケで撮影された風景の方が迫力では優ってましたね。幻想的かつ現代的で美しいのは新作の方かもしれないけど、実写の迫力には敵わないという感じでした。

▼ポリコレ:

この作品には大きく2つのポリコレがあります。人種と性別です。

賛成反対に関係なくこの話題が苦手な方は次章までスキップ推奨です。

●人種

メインキャストに占める有色人種の割合が高いです。村民などのエキストラも同様です。これについては以前に別の記事にも書いたのですが、オーク以外のキャラクターにすべての人種を含めないと【オークが有色人種のメタファーである】と指摘されてしまうことへの対策だと思われます。

でもわずか100人未満の集落で複数の人種が混在することに、私は違和感を覚えます。数万人規模の都市ならまだしも、あの人数ではもっと混血が進む筈です。ホビットの移動集落は特に強引だと感じました。アフリカ系からアジア系まで人種の博覧会状態でした。

キャスティングは強引でした。主人公格のノーリ(白人系オーストラリア人)は父親がカナダ系で母親がアボリジニ系であるとか、同じく主人公格のテオ(インドネシア人)の母親ブロンウィンはイラン系であるとか、ニュメノールの女王ミリエル(キューバ系英国人)の父親が白人であるとか、エレンディル(英国人)の息子イシルドールがアルメニア系で娘エマはスロバキア系であるとか、とにかく人種の壁を超越した強引なキャスティングが多いです。

この人達って家族なのに血が繋がってないんですか?それこそ「この世に人種なんてありません、たまたま肌の色や顔の特徴が違うだけですよ」とでも言いたげで、ちょっと思想が強すぎると思いました。

これらは、「褐色肌のエルフを認めるか否か」という問題よりも遥かに重要だと私は思います。血を分けた家族で人種が異なるんですから。

私は褐色肌のエルフにはやんわりと反対の立場です。作るのを禁止する筋合いはないけど、それで作品の説得力が大きく削がれるので採るべきではないと思います。理由は「エルフ」は元々ゲルマン神話に起源を持つ言葉であるため、トールキンも『指輪物語』に登場させた時にエルフの外見には暗黙的にドイツ系白人を想定していたと思うからです。一部の擁護派が用いる「トールキンは『白人だけだ』と明言してないのだからどの人種が演じても構わない」というのは屁理屈でしかありません。法律の穴をついて違法スレスレの準犯罪行為(未成年飲酒とかスピード違反とか不法占拠とか)をするのと心象的にはあまり変わりません。

基本的に指輪物語の舞台ミドルアースは中世ヨーロッパの投影だと思われるので、もっと素直に史実に沿った人種構成で作れば良いのに、と思います。日本の時代劇に白人や黒人が大量に出てきたら違和感があるでしょ。もちろんヨーロッパには当時から有色人種の部族や集落も存在していたでしょうが、一つの村や家族が他民族構成になっているのは、ちょっと違うと思います。特に家族内に至っては現代社会でも養子縁組でもしなければ実現しない組み合わせばかりなので、生物学的に違和感ありまくりでノイズにしかなりません。逆に、一周回ってポリコレ批判なのかもしれないとさえ私は思いましたよ。(もしくはシンプルに炎上商法かも:苦笑)

…で、こんな思想強めなキャスティングをしたのは誰なんだ?と思ってクレジットを見るとキャスティングディレクターにはTheo Parkと書いてあり、経歴を調べると代表作に『フォースの覚醒』と『最後のジェダイ』がありました。ああ、なんか妙に納得です。(笑)

●性別(ジェンダー)

続いてジェンダーのポリコレについて。こちらの方が厄介な問題です。

とにかく主張が強い女性キャラが多いです。

事実上の主人公であるガラドリエルはまあ当然のこととして、準主役級のキャラクターが揃ってそんな感じなので少々しつこく感じます。ブロンウィンは肩や胸を大きく出してる褐色肌の強気なシングルマザー。ディーサはドワーフの王子を完全に尻に敷くアフリカ系の肝っ玉母ちゃん。といった具合に黒エルフの他にも、なんなら寡黙な黒エルフが霞むくらいに「ポリコレ配慮!」の主張が強いキャラが目立ちます。

ブロンウィンがあの色気で村の男衆からいやらしい目で見られたり襲われたりしないのは不自然です。序盤でガラドリエルが海から筏に上がった時に全身びしょ濡れで体の線が出ていても周囲の男達は欲情一つしない(そういう目線の描写が一切無い)のも不自然です。そういう性的搾取に繋がるバイブスを画面から徹底的に排除しようとしている作り手の意図を感じます。

ガラドリエルとハルブランドが嵐の海で沈んだ時も、そもそもガラドリエルが自分でロープを巻きつけた判断ミスで沈んだのに、それをハルブランドが命懸けで助けに潜ったのに、それでハルブランドに押し上げてもらって筏に上がったくせに、最後はガラドリエルがハルブランドの腕を掴んで引き上げた場面がやたら強調されて、まるでガラドリエルがハルブランドを救ったように描かれていたのも滑稽でした。そんなに女性というのは強い存在であり、弱みを見せてはいけないのですか。なんか厄介ツイフェミの態度とあまり変わらない気がするのですが。(苦笑)

人種よりもジェンダーのポリコレ演出が強めに感じます。男社会の中で意味もなく肩と胸と背中を大きく出してるオバサンブロンウィンと、国王は伝統に縛られた老害だと愚弄する無礼なチビデブ女ディーサと、何かと強気で他人に突っかかるくせに最後は女の涙で男を説得する白人美女ガラドリエル。そして男は全員バカまたは腹黒いのどちらかで描かれます。これが現在の世間で求められている描き方なのでしょうか。(ポリコレをやりたい彼らのグループコミュニティではそうなんでしょうね)

まあ別に作り手の思想が反映されているだけなので私からすれば「勝手にすれば良い」とも思いますが、一部で反感を買うのも仕方ない内容だとは思いました。一部の過激フェミニストの反応が厄介だから皆あまり言及しないだけで、この異常なほどに女性を持ち上げる姿勢は視聴者の多くがなんとなく違和感を抱えてる部分だと思うのですが。

実はブロンウィンが無意味な肩出しをやめて、ショールを羽織っている回もあります。それが6話と7話なのですが、実はこれらのエピソードは唯一の女性監督シャーロット・ブランドストーム(Charlotte Brändström)が担当しているんです。一度だけ病院で治療を受けている時のみショールがないのですが、その時は肩に包帯が巻かれているので脱ぐ必然性があります。つまり普通の女性目線では「肩をむやみに出さない」ということですよ。先述した通り私は特に6話7話の完成度が高いと思ったのですが、こういう常識的で無理のない演出のおかげで減点機会が少ないという考え方も出来そうです。

逆にいうと、男性監督は女性に気を使いすぎていると感じました。

▼ネタバレ感想:

ここから #ネタバレ が多くなります。

●LOTR三部作の前日譚として

私はトールキンの書籍は一切読んでないのですが、楽しめました。

私は映画でLOTR三部作を観ただけのニワカですが、それでも1950年代の原作発表当時のイギリスの社会情勢を踏まえて、物語上の世界地図を意識して、ミドルアースと中世ヨーロッパを重ねて、映画内の出来事と歴史上の出来事(ペルシャ戦争)を関連させながら楽しみました。これは客観的に、そこそこ高い解像度での理解だと思います。

サウスランドってどこなんだろう?LOTR三部作では聞き馴染みのない言葉だなあ(ゴンドールかモルドールの辺りかな)と思っていたら、7話の最後で見慣れた火山が現れて、地名表記がモルドールに変わって、やっぱそうだよねーとウキウキしました。

補足)この場面で私はTwitterで「オークは南から来た(少なくとも指輪物語では)」と言ったのを揚げ足取った人に向けて、ほら見たことか、やっぱりオークは南の土地から来たってことになるじゃないか、と勝利の拳を握りました。(笑)

●ミスリルは原子力のオマージュ

この予想は半分はずれたと言うべきかもしれません。

指輪の材料になったのは的中しましたけど。

私は2話の終盤でドワーフが宝箱の中で青白く光るものを見つめている場面で、「これはチェレンコフ光だ。この禁じられた技術が他所の国(エルフ)に運ばれることで、強大な発展が得られるが、その代償として多大な損害を被るであろう」と予想したのですが、実際には8話の最後でようやくエルフの3つの指輪を作るに留まったので、その代償までは語られませんでした。

なんかもっと「鉱毒にやられる」「流行病が起きる」みたいな厄災の描写がある方が令和の時代に作る物語として有意義だと予測していたのですが、外れました。(笑)

補足)もう少し踏み込むと、ドワーフ族の背が低いことや、怒りっぽい性格であることは、鉱毒による病気を示唆してるのではないかと、私は思うんですよね。どちらも人間社会で(本音では)忌み嫌われる属性なので。

●サウロンと見せかけて

隕石男は、最初からサウロンなのかガンダルフなのかどちらかなーと思いながら観ていたのですが、結局はイスタル(魔法使い)の一人という紹介でした。指輪物語でホビット族と親交を深めている様子からも、このイスタルはガンダルフである線が濃厚だと思います。ついでに言えばノーリはビルボ・バキンズの祖先かもしれないですね。

追手の女達の服装がやけにバストを強調してると感じたのですけど、彼女らが登場する3話〜5話、8話の監督はウェイン・チェ・イップ(Wayne Che Yip)という中国系の男性で、名前で画像検索するとわかりますがモデル体型の女性がお好きみたいでツーショット写真が多く出てきます。監督の役得で撮ってる感じです。つまりブロンウィンの肩出しファッションやガラドリエルの涙も、全てこのエロ男が演出していたものだったんですね。欧米人から日本人も同じように見られそうで嫌になります。

●では誰がサウロンなのかと

そして、まさかのホルブランドの正体がサウロンでした。

なぜ彼があんな面倒臭いこと(海で遭難したり、人間の王を演じたり)をしていたのか、いまいち理解には苦しみますが。ただウィキペディアで調べたら「サウロンが金属精錬の技術を伝えたことでエルフや人間は指輪を作流ことができた」とあったので、まあ金属加工職人として世界を回るのは正しいのか、と思い直しました。(笑)

思い返せばニュメノールでも鍛冶屋に自分を売り込んでいましたね。いやはや、あれも全部伏線だったんですね。お見事です。

ホルブランドの行動にはいまいち理解できない不自然な点や煮え切らない点が多かったのですが、サウロンが変装していたのだと言われれば、なんとなく理解できそうな気がします。

普通に考えると、今後のシーズンでドワーフと人間にもそれぞれの指輪を作らせる物語を描く余地がありますね。(笑)

●案外エルフって野蛮なのね

これはシンプルに感想ですが、ガラドリエルをはじめエルフってすごく野蛮だったり姑息に立ち回る人達なんですね。なんとなく森の奥で羽衣をまといし優しき民、もしくは弓矢で遠くから静かに撃つイメージがあったので、馬に乗って大剣を振り回すガラドリエル姐さんの気性の荒さや、エルフ王の悪どい感じが印象に残りました。

特にガラドリエルの最終8話でのサウロンとの心理戦のドアップの表情は良かったなあ。あの鬼の形相のやつ。一応あれでサウロンを追い払ったということになるのよね?いや、正確にはやられたけれどエルロンドが見つけてくれて九死に一生を得たという所だったのかしら。

シーズン2以降はどうするのかしら。重要なギミックはほとんど使い果たしてしまったような気がするけれど。なんせサウロンが誰か判明してしまったので。

ニュメノールで王様の寝室の奥でエマが見たものが何だったのか、というのが最大のクリフハンガーですかね。

あとは7話のラストで一瞬だけ顔を見せたバルログですよね。あいつがドワーフの民を全滅させるシーンが第二期で書かれるのでしょうか。(なんせ原作を読んでないので何も知らない)

無知こそが我らの武器だ。(Tenet, 2020)

了。

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