見出し画像

【本人の発言を分析】ガル・ガドットのワンダーウーマン復帰はもう無さそうだと見なせる理由

ガル・ガドットがワンダーウーマンとして帰ってくる!と先日Twitterで話題になりました。これにはカムバックを素直に喜ぶ声から、ヘンリー・カヴィルを切っておいてよくそんなことができるな!という新体制の批判まで、多種多様なリアクションがありました。

しかし、どうやらガル・ガドット自身はワンダーウーマンを演じる気持ちが無さそうだと判明したので、それを解説したいと思います。


▼報道内容の確認:

まず事実確認として、Twitterトレンドの原因になったメディア記事を2つほど引用しておきます。

ガル・ガドット主演のDC映画『ワンダーウーマン』には、ユニバース刷新後も改めて『ワンダーウーマン3』が製作される意向があることがわかった。シリーズ主演のガドットが、全米映画俳優組合ストライキ開始前に収録された米Comicbook.comでのインタビューで語った。
ガドットはインタビューで「ワンダーウーマンを演じるのは大好きです。とても身近で、大切な存在」と語り、「ジェームズ(・ガン)とピーター(・サフラン)から聞いたところによると、一緒に『ワンダーウーマン3』を開発する予定なのだそうですよ」との新情報を明かしている。

THE RIVER - ガル・ガドット主演『ワンダーウーマン3』製作意向 ─ 新DCユニバースでも継続か

Speaking to ComicBook.com's Chris Killian for her new Netflix movie Heart of Stone before the SAG-AFTRA strike, Gadot said that, as she understands it, she will be developing Wonder Woman 3 together with Gunn and Safran. "I love portraying Wonder Woman," Gadot says. "It's so close to and dear to my heart. From what I heard from James and from Peter is that we're gonna develop a Wonder Woman 3 together."
直訳)コミックブック・コムのクリス・キリアンに話す形で、俳優組合ストライキの前に行われたネットフリックスでの彼女の新作映画『ハート・オブ・ストーン』のインタビューで、ガドットはこう語った。彼女の理解では、彼女はワンダーウーマン3をガン&サフランと一緒に作ることになりそうだ。
私はワンダーウーマンを映像で表現することが大好きです」彼女は語る。「それは私の心にとても近くて大切です。ジェームズとピーターから聞いたところによると、私たちは一緒に『ワンダーウーマン3』を制作することになりそうです

ComicBook.com - Gal Gadot Developing Wonder Woman 3 With James Gunn, Peter Safran (Exclusive)

ちゃんとソースになった英語記事まで読むと判るのは、まずこの話題は全く関係ないガドットの新作映画の宣伝用のインタビューで強引に挟まれたものだったということです。新しい映画をアピールしたいのに、いつも有名すぎる過去作のことばかり訊かれて気の毒だと思います。

中央のアーリヤー・バット(RRRにも出演)も苦笑いですね…

THE RIVER は過去にデヴィッド・エアー監督の主張を180度誤解して記事にしたこともありましたが、今回は当該サイト創設者でもある中谷直登氏が執筆したこともあってか、かなり慎重な翻訳だと思います。

▼気になるガドットの言葉選び:

RIVERの記事で少し気になるのは「portray」を「演じる」と翻訳して良いのか、という点です。一般的に俳優が役柄を演じるときは「play」を使います。そこをガドットが敢えて異なるワードチョイスにしていることは記憶に留めておきたいと思います。

portrayの意味を英英辞書を引いて確認しておきます。

portray
depict (someone or something) in a work of art or literature: the author wanted to portray a new type of hero.
芸術や文学などの作品の中で(誰かもしくは何かを)表現すること:例)その著者は新しいタイプのヒーローをportrayしたかった。
[with object] describe (someone or something) in a particular way: the book portrayed him as a self-serving careerist.
(目的語を伴って)(誰かもしくは何かを)ある特定のやり方で描写すること:例)その本は彼のことを利己的な出世バカとしてportrayしていた。
(of an actor) represent or play the part of (someone) on film or stage: he tossed his affable TV persona aside to portray a merciless mobster.
(自分ではなくて他の俳優が)特定の役柄を映画や舞台で象徴または演じること:例)彼は無慈悲なギャングをportrayするために、テレビでの気さくで愛想の良いキャラを封印した。

もちろん「役者として演じる」という意味で使う時もportrayにはあるのですが、どちらかというと著者や画家や彫刻家のような神の視点(創造主)から何かを表現するときに用いられる単語であり、本人が自分のことを語る場面にはあまりマッチしない気がします。

また映画の場合は、プロデューサーというのがまさにportrayをする役割に当たります。米国では音楽や映画の現場でプロデューサーの発言力がかなり強く、作品全体の仕上がりに大きな影響を与えますし、作品の功績をプロデューサーのものと見なす文化もあります。(*日本だと消費者からは軽視されがちですが)

参考:プロデューサーの顔ぶれ

Wonder Woman (2017年)
Charles Roven, Deborah Snyder, Zack Snyder, Richard Suckle

Wonder Woman 1984 (2020年)
Charles Roven, Deborah Snyder, Zack Snyder, Patty Jenkins, Gal Gadot, Stephen Jones

参考までにワンダーウーマンの過去2作品のプロデューサーの名前を並べました。太字にした部分は人事に変化があった人達です。逆に言えば、ワンダーウーマンの作風が続編で大きく変わったのはこの人達に原因があると言えます。

RovenとSnyder夫妻は『マン・オブ・スティール』の時からDCEUに関与している人達です。Rovenに至ってはダークナイト三部作のプロデューサーでもあります。最近の動向を見ているに、このトリオが3作目のプロデューサーに名前を連ねる可能性は相当低いでしょうから、もし映画が完成しても作風はさらに大きく変わるでしょう。

ザック・スナイダー、チャールズ・ローヴェン、デボラ・スナイダーが『マン・オブ・スティール』のセットに集まった写真:3人は真の意味でDCEU創造主のトリニティだったと言えるかもしれません。
チャールズ・ローヴェン(左)はザックが同行できなかった日本プレミアにも出席するなど広報活動にも積極的に参加していました。

役を演じるだけならplayという明確な単語があるのに、ガドットが敢えてportrayをチョイスしたことが気に掛かります。単純に演じるだけではなくて、プロデュースまで含めたニュアンスを感じます。

しかし、ちゃんとソース(ComicBook.com)まで辿った人はおめでとうございます。

このガドットの発言には日本では報道されていない後半パートがあり(苦笑)、さらに海外メディアが文字起こしした時点で悪質な改変が加えられていたことが判りました!(衝撃)

▼隠されていたインタビューの全貌:

さて、実態を把握するために残された唯一の方法。それは、ソースとなった海外メディア(ComicBook.com)では、このインタビューでの実際の質疑応答を《動画で視聴》できるのです。

そもそもどんな質問だったのかも重要なので、前後の文脈を補うためにも改めて当該Q&Aの全体像を文字起こししたのがこちらです。

Chris Killian "You don't need me to tell you this. But I, working for ComicBook.com, I, I have to tell you that you have masterfully embodied Wonder Woman and we all love you in the role. Uh… yesterday, it was announced that DC has cast a new Superman and Lois Lane. I would love to get your thoughts on the new casting, and are you hopeful to continue your work in this new DC universe as Wonder Woman?"
キリアン「これはあなたは聞かなくても良いのですが(=これは余計な話なのですが)、しかし私はComicBook.comに勤めている者として、あなたに伝えなくてはならなくて。あなたはワンダーウーマンを完全に体現してきました。私達は誰もがあなたがワンダーウーマンを演じるのが大好きです。それで…昨日なんですが、DCはスーパーマンとロイス・レーンに新しいキャストを決めたことを発表しました。この新キャストについてと、それからあなたは新しいDCユニバースでもワンダーウーマンの仕事を続けたいと思っているのか、あなたの考えを知りたいです。
Gal Gadot "I love portrayed Wonder Woman. It's so close to and dear to my heart. Uh… And, and from what I heard from James and from Peter is that we're gonna develop a Wonder Woman 3 together. Uh… And the new cast… Uh… you gotta keep me, I saw that they were testing, doing different screen tests, but I don't know who got it, but it seemed like everyone was super legit and talented and, like, great. So I'm happy for them. It's such a huge take-on and it's such an exciting beginning to any actor, and I wish whoever it's going to be the best of luck and enjoy the ride."
ガドット「私はワンダーウーマンを表現(portray)したことが大好きです。それは私の心にとても近くて大切です。そうですねえ…ジェームズとピーターから聞いたところによると、私たちは一緒に『ワンダーウーマン3』を制作することになりそうです。それから、えっと、新キャストについては、えっと、最後まで聞いてくださいね。私は彼らがテストしてるのを、いくつかの撮影テストをしてるのを見ました。けど誰が役を手に入れたのかは知りません。でもそこに居た全員が適任だったし才能に溢れていたし、なんというか、凄かったです。だから彼らで良かったと思います。これはとてつもなく大きな挑戦であり、どんな俳優にとってもとんでもなくエキサイティングな始まりです。だからこの中で最高にラッキーだったのが誰であれ、このライド(=DCスーパーヒーローになることで経験するあれこれ全部)を楽しんでほしいと思います。

ComicBook.com - Gal Gadot Developing Wonder Woman 3 With James Gunn, Peter Safran (Exclusive)

太字にした部分はComicBook.comとTHE RIVERで省略されたか、もしくは特定の単語を改変したことで意味が変わってしまった部分です。

少し長いので以下に要約します。

インタビュアー
・別の映画のプロモーションなのに申し訳ないけど。
・私達はあなたが演じるワンダーウーマンが大好きです。
・スーパーマンとロイスの新キャストどう思いますか。
・あなたはワンダーウーマンを続けたいと思いますか。

ガドット
・ワンダーウーマンを演じたことは私の宝です。
・サフラン&ガンが一緒に作ろうと言ってます。
・新キャストは誰が勝ち取ったのか知りません。
・新キャストは候補者の皆さん素晴らしい人達でした。
・新キャストは俳優人生の大チャンスだから頑張ってほしいです。

…これらの発言からガドットが次もワンダーウーマンを演じると判断するのは早計というかガドット推しの願望を込めすぎじゃないでしょうか。1つずつ分解して見ていきましょう。

1)ワンダーウーマンの演技は過去の話

まずこれが最初にして最大のツイストなのですが、ガドットが大好き(love)なのは、表現すること(portraying:現在進行形)ではなくて、表現したこと(portrayed:過去形)です。これが大きく違います。

これはソースのComicBook.comでさえ現在進行形で書いてるので、動画を視聴するまで判りませんでした。

なので、彼女はあくまで《これまでのワンダーウーマン女優としてのキャリア》を大切に想っていると述べただけです。

彼女が過去を大切にすることについては異論ありませんよね、WWは彼女を世界的なスターに押し上げた役ですから。ザック・スナイダーが彼女を抜擢しなければ、彼女は《昔ワイルドスピードに出演したことがある綺麗なお姉さん》で止まっていたかもしれません。

2)第3作の話をする前にワンクッション

ガドットがWWへの想いを語った直後、新作の話を始める前に一度呼吸を整えます。いま発言して良いことと、発言できないことを頭の中で整理しているように見えます。

つまり、ガドットがWWのキャリアを大事にしている話と、これからWWの第3作が作られる話は、全くの別件です。

もっと言うと、ジェームズ・ガンのスーサイドスクワッド(新スースク)だって、便宜上「スーサイドスクワッド2」と呼ばれたこともしばしばありましたから、ワンダーウーマン3が『WW84』の直接的な続編である保証はどこにもありません。

3)新キャストにエールを贈る

ここは一番不自然なパートです。

WW役のガル・ガドットが、なぜスーパーマン役のオーディションの撮影テストを見ていたのでしょうか?

  • 彼女には関係無さすぎませんか。

  • それを彼女に見せて、何を期待するのですか。

  • 彼女の意見がスーパーマン役に反映されると思いますか。

もしかしたら、サフラン&ガンとミーティングした時に、彼女は参考までにビデオを見せてもらった可能性はあります。しかし、あれだけSNSで話題になった翌日に彼女は誰が役を勝ち取ったのか知りませんでした。

私には、やけに不自然に見えます。

あるいは、次のワンダーウーマン女優のオーディションや撮影テストも裏では始まっていると考えるのが妥当ではないでしょうか?

もう一度ガドットの発言を引用します。

そこに居た全員が適任だったし才能に溢れていたし、なんというか、凄かったです。だから彼ら(彼女ら)で良かったと思います。これはとてつもなく大きな挑戦であり、どんな俳優(女優)にとってもとんでもなくエキサイティングな始まりです。だからこの中で最高にラッキーだったのが誰であれ、このライド(=DCスーパーヒーローになることで経験するあれこれ全部)を楽しんでほしいと思います。

ガドットがWWの次回作にプロデューサーとして参加するなら、次のWW女優のオーディションに参加するのは自然、というか当然だと言えます。

ガドットがここまで候補者を褒めるのは、新人WWが発表された時に、一部の厄介なファン(古参)から反対意見や罵詈雑言が飛んでくるのを防ぐための、第一歩だったのではないでしょうか。

4)話しているガドットの表情

こればかりはリンク先の動画をご自身の目で確認していただきたいのですが、ガドットが言葉を選んでいる時の表情によく注目してください。何か言えないことがあって、言葉でうまく逃げている時の目の動きですよ、これは。

少なくとも「あなたは次の作品でも演じ続けますか」と無邪気に質問しているインタビュアー(とその向こう側に居るファン)に対して、「はいその通りです」と笑顔で答えているテンションや表情ではないです。

動画への直接リンクをここに貼っておきます。1分ほどの短い動画です。英語字幕を出すこともできます。さきほどから何度も引用しているComicBook.comの記事からも普通に視聴できます。

▼まとめ:

ここまで述べてきたことから、ガドットの発言からは少なくとも彼女自身が今後も同役を続けたいという強い意志は感じられないこと。そして、今後は彼女はプロデューサーとして参加して新人女優の育成に努めると考えた方が自然に読み取れるということ、の2点を解説してきました。

メディアには《報道しない自由》があるというのはよく揶揄されますが、今回もまさにそれだったというか、ぶっちゃけ初出のComicBook.comのタイトル詐欺だった、というのが実態でしょうね。

ガル・ガドットのWWが大好きだ、という人の気持ちに付け入って騙すような記事タイトルでアクセスを稼ぐメディアって嫌ですよね〜。

ComicBook.comが仕込んだportrayの時制トリック(-ing/-ed)に騙された形になるので、二次情報で記事を書いたメディアの人達もまあまあ気の毒だったと思います。ただ、こういう間違いや誤植はネットでは日常茶飯事なので、私は特に怒りは覚えないですかね。あくまで彼らも純真に騙されたという仮定での話ですけど。

了。

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

映画感想文

最後まで読んでいただきありがとうございます。ぜひ「読んだよ」の一言がわりにでもスキを押していってくださると嬉しいです!