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デヴィッド・エアーの声明文(全文日本語訳)(スーサイド・スクワッドに宛てる)

以下、引用して日本語訳しつつ、適宜補足して解説します。

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私にも言わせてもらいます。

私の辞書に「降参」という文字はありません。私は当たり前の人生を送ってきたような人間ではないのです。私の人生には誰かから与えられたものなんてほとんど何も残っていません。私の人生は最悪の暮らしから脱出するためにもがき苦しむ連続でした。私が4歳のクリスマスの時に私の両親は自殺しました。しかし、それは始まりに過ぎませんでした。里親での暮らし。虐待。絶縁。それはカオスの日々でした。私は数えきれないほどの転校を経験しました。安定した暮らしなんて私とは無縁のものでした。

私はロサンゼルス南部で小汚いフードを被ったドブネズミのような幼少期を過ごしました。逮捕もされました。ロサンゼルス貧困青少年支援プログラム(※訳者注記:Los Angeles County Probation Child WelfareのForever Friendsプロジェクトのことだと思われる)の方々は月に2回はクレンシャーの更生施設でギャング・レディーに面会するためのバスを走らせていました(※訳者注記:未成年の女子でさえ非行や犯罪に手を染めるし、そんな子供達の保護者を運ぶためだけで隔週でバスをチャーターするほど数が多かった)。しかしそれは私が愚かで危険なことを続けるのを止めることには不十分でした。私はきっと事故か事件で殺されるか刑務所で最期を迎えるような、ありふれたクソガキでした。私はまさにそんなチンピラだったのです。

私は多くのひどいものを見てきました。死体。流血。血痕。ぽっかりと開いた頭蓋。人が死ぬまさにその場面も多くこの目で見ました。歩道に飛び散った脳みそを飛び越えてバスに乗るなんてこともざらでした。私自身が狙われて発砲されたことだって何回あったか覚えていません。ロサンゼルス警察に後ろから蹴られたことだってあります。警察による突入が同じブロックの家で起きたこともあります。私は高校を中退して、毎日ストリートでたむろして食料品店の壁を登っていました。私の腕の中で血まみれになり嘔吐しながら死んだ仲間もいました。そしてこの出来事が私の転機になりました。

私はアメリカ海軍に入隊し原子力潜水艦に配属されました。そこでさらに多くのものを見て、私の魂を焼き焦がすような経験をしました。67日間。水面下で鋼鉄のチューブの中に閉じ込められて、食料が尽きるという壮絶な経験をしました。アメリカ海軍は完全に私をぶっ壊しました。そして同時にアメリカ海軍は私を救ってくれもしたのです。私は規律と忍耐を学び、アメリカ海軍は私に仕事に打ち込む倫理を授けてくれました。

その後、私はメキシコのバハ・カリファルニア州やシナロア州などで転々としました。どんな仕事だってしました。ペンキ屋、建設屋、電機屋。そしてその頃に映画の脚本を書く仕事も始めました。これは友人であるウェスリー・ストリックが私の中に才能を見出してくれたおかげで、彼には感謝しています。

私は書いて書いて書きまくりました。そして車中泊のストリート暮らしに舞い戻りました。PCPをキメながら中古のカトラス車でクルーズしていました。冷蔵庫もありません。ベッドもありません。何も持っていませんでした。7年間は確定申告もしませんでした。私には未来がありませんでした。あるときに逮捕されて勾留されるまで私はただ時間を無駄にしていたことに気づきさえしませんでした。

そんな時期に舞い降りたのが『トレーニングデイ』でした。マジで急に来ました。私は近所で起きたことを聞き漁って、それを脚本に書き落としました。私はページに魂を注ぎ込みました。そしてその映画化権が3万ドルで売れたときには、思わず笑ってしまいました。

『トレーニングデイ』は特別な作品です。もちろん当時は誰も信じてくれませんでした。ハリウッドの由緒正しき人達には警察がそんな腐ったことをするなんて信じられなかったのでしょう。

ところがランパート事件(※訳者注記:1990年代後半に発覚したLA警察の大規模な汚職)が起きて、これは本当に起こりうることなのだと彼らは実感するようになりました。映画化されるまでには数年を要しましたが、この作品は私の人生を変えました。この脚本執筆から学んだ教訓は「己れの痛みをページに込めろ」ということです。それこそが私が脚本を書く理由であり、私が人々の人生を観察する理由でもあります。私は社会的に悪だと呼ばれる人々が善行を行い、正義の味方とされている人々が悪行を働くのをこの目で見てきました。私は私が人生で経験してきた真実を物語に綴ります。こうした活動にはリスクが伴います。私は初監督作品を撮るために自宅を抵当に入れたこともありました。

私は私の人生を『スーサイド・スクワッド』に込めました。私はアメイジングな作品を作り上げました。私のカットは複雑でありながら感情に訴える「ワケありな連中」の物語です。彼らは社会から排除された人々です。これは私の魂が抱えるテーマです。過去に劇場公開されたスタジオカットは私の映画ではありません。ここまで読んできてくれた方ならお分かりになるでしょう。

私のカットは、巷でよく見る10週間で作り上げたようなディレクターズカットではありません。ジョン・ギルロイとリー・スミスが十分に推敲を重ねて作り上げた素晴らしい作品です。(※訳者注記:一般的にディレクターズカットは「独りよがり」で「冗長である」など洗練度に欠けるという評価を受けやすいです。これは監督が個人で作業するため起きやすい事象とも言えますが、同時に監督と編集が完全に分業化しているハリウッド式の映画業界で編集者の仕事や利権を守るための業界の圧力がかかっているという側面もあります。)そして音楽はスティーブン・プライスによる見事なスコアが作曲済みでした。ラジオでかかっているようなポップスは1曲だって使う予定はありませんでした。(※訳者注記:2014年にガーディアンズオブギャラクシーは主人公ピータークイルの大事なアイテムとして母親のお気に入りポップス曲が詰まったカセットテープがそのままBGMに使われて大成功しましたが、これを受けてDCのスタジオは2016年のスーサイドスクワッドでは物語の内容に関係なくポップスをBGMに使う方針に安易に変更しました。)

私のカットには、伝統的なキャラクターの起承転結の物語と、素晴らしい役者陣の演技と、第三者による厳しい審査の目を通過してきた成果が詰まっています。私のカットを観ることができたのはほんのひと握りの人達です。だからもし誰かが「観たことがある」と発言していたら、それは嘘です。(※訳者注記:ワーナー・ブラザースの偉い人が「観たけど駄作だった」みたいなことを言ってもフェイクだから信じるな、ということですかね。笑)

だから、そう。はっきり言っておく必要があるのですが、私には「降参」という選択肢はありません。決して。なぜはっきりさせたのかって?毎日普通に息をして過ごせることは、それだけで十分に幸せなことです。私もかつては私の作品はこのまま日の目を見ず、墓まで持ち込むことになるのだろうと思っている時期がありました。だからこうしてフィルムメイカーとして成功している人生はボーナスステージのようなものです。私はこのようなキャリアを築けたことに誇りを持っているし感謝しています。降参しろって?子供達が家でスタジオから帰ってくる私のことを見ているんです。そのときに私の魂が込められたカットがスタジオに取り上げられて引き裂かれているとしたら?このまま私が降参してしまったら、私は子供達にどんな顔をすればいいんですか?

私はこれまで「なぜエアーカットの公開を求めるのか(※訳者注記:原文ではmy side of the story=自分が正しいと考える根拠;前述の「与えられた人生のチャンスを活かさないで子供にどんな顔ができるのか」の部分)」を公に語ることはしてきませんでした。そしてこれからも語るつもりはありません。なぜかって?同じ理由で潜水艦の中で起きていたことが外部の人間に知られることは決してないからです。これは私が守るべき誓約なのです。私は古風な人間なので。だから私は金輪際口を閉ざして、どんな個人攻撃や誹謗中傷も受けましょう。なぜかって?それが私の生きる道だからです。本当のことを話すくらいなら撃たれた方がマシです。

最後にジェームズ・ガンについて。私は彼のことをとても誇りに思うし、もうすぐ彼の作品に成功が訪れることにワクワクしています。私はワーナー・ブラザースをサポートしますし、このフランチャイズがようやく地に足をつけようとしていることにゾクゾクしています。私はキャストやクルーにはじまり関わった全ての人達を応援します。全ての映画は奇跡なのです。そしてジェームズの作品はその奇跡の中の奇跡となるでしょう。私は彼の忍耐を評価します。この件について公の場で言うのはこれっきりとさせてください。

2021年7月30日 デヴィッド・エアー

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以上がデヴィッド・エアー監督の渾身の所信表明の全文日本語訳となります。監督のこれまでの人生を振り返った、並々ならぬ覚悟と矜持を感じます。

大手メディアに載っているような、ごく一部の当たり障りのない部分意訳のクソぬるい切り抜きだけで満足しているのでは勿体ない内容です。

なおTHE RIVERでは「監督本人がエアーカットについて言及するのが最後」という趣旨で本文を記載していますが、これは初歩的で重大な間違いです。エアー監督がこれで最後にすると言っているのは「自分がエアーカットを求める理由(my side of the story: 主張の根拠)」と「ジェームズ・ガンが(エアーカットを差し置いて)スーサイドスクワッドのリブートを制作・公開したこと」の2点です。彼はエアーカットの公開に向けて降参(quit)は絶対にないと繰り返し述べています。RIVERの文章ではまったく逆の意味になってますから。大手メディアでありながら主旨を180度間違えた誤訳を載せているのは問題だと思います。アクセス数が大きいので影響力に鑑みて速やかに訂正していただきたいところです。

固有名詞が多く、直訳だとアメリカの文化的背景を知らないと理解が難しい(私自身もLAの青少年支援団体や更生施設など固有名詞は逐一調べながらの翻訳作業でした)のと、非常に重くて暗くて、何より過激で暴力的な描写を含むので、文章全体については大手メディアではほとんど言及されません。

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了。

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