河口雀零

ある国立大学の大学院で,研究者のヒヨッコの卵の底辺として院生生活を送っている者です。専…

河口雀零

ある国立大学の大学院で,研究者のヒヨッコの卵の底辺として院生生活を送っている者です。専門は社会教育学。 本や映画のレビューを定期的にしていきます(努力目標)。たまに飯テロや,研究のメモを投下することもあるかもしれません。

最近の記事

震災サバイバーとしての(?)いぎなり東北産についての試論――カタストロフィの表象(不)可能性の逆説

震災といぎなり東北産久しぶりに、アイドルの話(に見せかけた、自分の教育学的思考の整理)。 いぎなり東北産についてごく基本的なことを言っておくと、東北出身の9人からなる女性アイドルグループである。なお、「いぎなり」は共通語でいう「いきなり」の誤植でも、なまった形でもない。「たくさん」とか「とても」を意味する、主に宮城県で使われる方言である。 彼女らは東北出身ということで、各自程度のちがいはあれ全員が幼少期に東日本大震災を経験している。 たとえば橘花怜(宮城県産。イメージカ

    • 東大の大学院修士課程を修了した話(いまさら)

      季節外れの話ですが、2024年3月をもって東京大学大学院教育学研究科(生涯学習基盤経営コース)修士課程を修了しました。 で、今はどうなっているかと言うと、博士課程に進学しています。 ただ、所属が変わりまして、学際情報学府(文化・人間情報学コース)というところに移りました。「〇〇研究科」という名前ではないのは、比較的新しい組織のためです(もっと根本的な理由を指摘すればたくさんあるのですが)。 なぜそこに移ったのかというと、端的には自身の研究関心のためです。 もともと教育学、と

      • 給食、共食、ともに食べること、ともに過ごすこと--『おいしい給食 Road to イカメシ』

        なんやかんやで、劇場版『おいしい給食』ももう第3弾。 前作の劇場版にて「卒業」が宣言されたかと思いきや、昨年のテレビ版Season 3放送からの劇場版第3弾も決定というもはや人気作のムーブをしている。 「おいしい給食当番」というサポーター制度によってそれが可能となっているあたり、本シリーズの人気が窺い知れる。 テーマの特殊性によって、そろそろネタ切れになってきている節もあるのではないかというのが正直なところ。 しかし他方で、国民のほとんとが経験している給食・学校生活がテー

        • 賭けとしてのパフェ作り実践と,近代教育のシステムと。

          ※前置きの部分が長いです。タイトルだけを見てこの記事を開いた方は,下の目次から「「賭け」としてのパフェ作り,または料理」の項まで飛ぶこともできます。 お菓子作りへの序章私は,どうやら甘いもの好きらしい。 「どうやら」,と書いたのは,実家に暮らしていて外部の他者と交わる機会が少ない時にはあまり意識されていなかったため。 しかし大学に進学し,多くの他者と時間を共にする機会が増えるにつれ,自身がものすごく頻繁に甘いものを摂取しているという事実に気がついた。 スーパーで食材を買っ

        震災サバイバーとしての(?)いぎなり東北産についての試論――カタストロフィの表象(不)可能性の逆説

          【博物館レビュー】国立科学博物館 特別展「大哺乳類展3-わけてつなげて大行進」

          春休みなので(?)国立科学博物館の「大哺乳類展3」に行ってみた。 所蔵の剥製・骨・標本を惜しむことなく披露してくるその姿勢に圧倒されずにはいられない。それを見てるだけでも楽しいし,細部に注目すれば展示構成の助けを借りたり借りなかったりして観察学習をすることもできる。 展示を貫いて設定されているテーマは「分類」で,これは自然科学に限らないあらゆる科学・学問が基本としている姿勢。会場いっぱいに展示された「ほんもの」があることによって,その学問的態度を体験することができる。

          【博物館レビュー】国立科学博物館 特別展「大哺乳類展3-わけてつなげて大行進」

          【博物館レビュー】東京都現代美術館の「MOTアニュアル2023:シナジー、創造と生成のあいだ」

          相変わらず施設そのものはあまり好きじゃないが,昨年のものに引き続いて東京都現代美術館の「MOTアニュアル2023:シナジー、創造と生成のあいだ」に行ってみる。 昨年度のものがよすぎたこともあってか,それほど大きな満足感はなかったというのが正直なところ。ボリュームもそれほど大きくないし。 参加作家としては近年の現代美術界隈でよく名前を聞くようになったメディア・アーティストが揃っている。「いま知りたい」現代美術家たちの作品を一挙に目に収めることができるという点ではたしかに「M

          【博物館レビュー】東京都現代美術館の「MOTアニュアル2023:シナジー、創造と生成のあいだ」

          スタプラフェス2023秋のふりかえり

          2023年10月29日,「スタプラアイドルフェスティバル~今宵、シンデレラグループが決まる~」に行ってきました。スタプラフェスへの参戦は新年もの以来2回目。 各グループの印象について,簡単にふりかえりをしておきます。 あくまでレビューのようなもので,レポではありません。ですので,見ていない人が読む用のものではないのかも(配信のアーカイブもありますので,ぜひ)。 スタプラ研究生 若干の緊張感は見えたが,堂々たるパフォーマンス。初披露曲の紹介がよく聞き取れず「Lie」? 「

          スタプラフェス2023秋のふりかえり

          【映画レビュー】森達也監督『福田村事件』

          関東大震災後の朝鮮人虐殺と同時に起きていた、被差別部落の人びとへの虐殺事件という実話を基にしたストーリー。   実話が基になっているとは言いつつも、朝鮮人へのヘイトと被差別部落へのヘイトという、根を同じにしながらちがう軸で展開されていたものが民衆暴力として絡み合っていくさまの見せ方が見事。同時代的な話題として、大正デモクラシー、大正自由教育、プロレタリア演劇、社会主義運動なども当然出てくる。 被差別民への虐殺行為という意味での「事件」が起こるのは劇中後半部のため、衝撃的な「事

          【映画レビュー】森達也監督『福田村事件』

          【映画レビュー】新たなケアのあり方としては面白い?——金子由里奈監督『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』——

          新宿武蔵野館にて,金子由里奈監督『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』を見てきた。 ずっと見よう見ようとは思っていたのだが惰性により先延ばしにし続け,思い出したかのように劇場情報を見たら夜のちょうどいい時間にやっていたので。 新宿武蔵野館での公開は今日(2023年6月8日)までのようで,この文章が上がってすぐ読んでいるモノ好きな人がいれば,まだ間に合います。20:55開演です。 ざっくりな感想としては,クィアな考えを鑑賞者が持っているかどうかで感じ方が大きく変わる作品という印

          【映画レビュー】新たなケアのあり方としては面白い?——金子由里奈監督『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』——

          【博物館レビュー】町田市立国際版画美術館「自然という書物――15~19世紀のナチュラルヒストリー&アート――」

           タイトルのとおり,町田市立国際版画美術館で開催されていた「自然という書物――15~19世紀のナチュラルヒストリー&アート――」に行ってきた話。すでに会期は終了しているので今更感。  どうやら一部界隈でとても話題になっていたらしく,かなりの集客がありかつ会期の中盤くらいの時期にはすでに図録が売り切れてしまっていたという。  恥ずかしながら私がこの展覧会を知ったのは会期が終わる4日程度前の時点。ちょうど教育と植物(または「自然」というもの)との関係について考えていた(注1)こと

          【博物館レビュー】町田市立国際版画美術館「自然という書物――15~19世紀のナチュラルヒストリー&アート――」

          彩の国シェイクスピア・シリーズ『ジョン王』レビュー

          蜷川幸雄が完結することなく逝ってしまった,「彩の国シェイクスピア・シリーズ」の最後を飾る作品,『ジョン王』を見に埼玉会館へ。 本公演に先立ってレクチャーが企画されていて,そこに何気なく参加したら話の内容がとてもおもしろく,帰りにチケットを買ってしまった。 で,何気なく自分が空いている日時でチケットを買っておいたらどうやらさいたま公演初日だったらしい。そのため会場についた時にはすでに周辺は独特の熱気があった。そうでなくとも,全日ほぼチケットは売り切れらしいが。 劇の感想

          彩の国シェイクスピア・シリーズ『ジョン王』レビュー

          (ネタバレあり)ジェノサイド犠牲者の名前を呼ぶということ,その意味―ヴァディム・パールマン監督『ペルシャン・レッスン:戦場の教室』レビュー―

          公式サイト 予告映像(YouTube) ナチスの強制収容所に入れられてしまったユダヤ人青年(ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)が,自身をペルシャ人だと偽ってナチス親衛隊将校(ラース・アイディンガー)にデタラメのペルシャ語を教える役割を演じることで生き延びる,という筋書き。実話に基づいているという。 その設定と予告映像で見せられていたものからしてある程度コメディタッチなものかと思っていたが,そこはさすがにナチスを描いた映像,全編を通して重苦しい雰囲気のまま進められる。

          (ネタバレあり)ジェノサイド犠牲者の名前を呼ぶということ,その意味―ヴァディム・パールマン監督『ペルシャン・レッスン:戦場の教室』レビュー―

          パフェがもつ過剰さ・欠陥-今泉力哉監督『窓辺にて』批評-

          実は私,定期的にパフェを自作するくらいに甘いもの好き、パフェ好きなんですよね。 それでSNSを漂っていたところ、パフェ界隈(そんな界隈あるんか)で話題になっていたパフェ映画(そんなジャンルあるんか)があったので散歩ついでに観てきた。 今泉力哉監督『窓辺にて』 基本的には一対一での会話・対話の長回しがひたすらに流されることで構成された会話劇。それだけに、ひとつひとつのセリフやシーンを捉えていかなければ全体像は掴みにくい。 逆に、他者である三人目がいるシーンやカットが多用され

          パフェがもつ過剰さ・欠陥-今泉力哉監督『窓辺にて』批評-

          【博物館レビュー】アーティゾン美術館「パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂」と「Art in Box ーマルセル・デュシャンの《トランクの箱》とその後」

          東京・京橋にある、アーティゾン美術館。 マネやモネなどの印象派をはじめとして幅広くコレクションし⁡公開活動も精力的にやっているくせに、なぜか大学生含めた学生がいつでも無料という太っ腹。なので、大学院生という立場を生かして暇つぶしがてらよく行っている。そしてだいたい、暇だった時間を超えて楽しんでしまうというところまでがお約束。⁡ ⁡⁡ 今回はまず⁡「パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂」に。⁡⁡ ⁡持ち前のそこそこの人間観察力を発揮したところ、立ち方や歩き方を見る限り客層の6割程

          【博物館レビュー】アーティゾン美術館「パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂」と「Art in Box ーマルセル・デュシャンの《トランクの箱》とその後」

          【博物館レビュー】練馬区立美術館「日本の中のマネー出会い、120年のイメージー」

          マネの名を聞いて思い出すのは《草上の昼食》、《オランピア》、《フォリー・ベルジェールのバー》あたりだが、本展覧会でそれら作品の実物にお目にかかれるわけではない。マネ自身の作品が勢ぞろいしているものと思っている人からすれば、この展覧会は拍子抜けしてしまうかも。 展覧会タイトルが示すように、マネという人物が同時代人、後世にいかに受容されていたか、という点が主題。そういう意味で、先の三作品のような代表作は飾られていないけれども、それら作品の与えたインパクトは伝わる内容。 日本の公

          【博物館レビュー】練馬区立美術館「日本の中のマネー出会い、120年のイメージー」

          ばってん少女隊『九祭』の魅力とこれからへの期待メモ

          ここ数日,ばってん少女隊の最新アルバム『九祭』をヘビーローテーションしてしまっている。 スカコアに全振りしていた時代からの,地元九州のお祭り文化を前面に出すスタイルは引き継ぎつつ,大ヒットした「Oisa」を経てテクノ,とくにエレクトロで統一した一枚が作られた,という状況。 曲名だけを見ても,「さがしもの」(佐賀しもの),「沸く星」(おそらく惑星?)など,初期のころから頻繁にやられていたセンスある言葉遊びがここでも見られる。 かと思いきや,各曲を九州の各県をイメージして作

          ばってん少女隊『九祭』の魅力とこれからへの期待メモ