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甘い果実〜ep.1〜

桜井若菜(さくらい わかな) 22歳 新卒養護教員いわゆる保健室の先生
早崎蓮(はやさき れん) 18歳 高校3年 研音部ボーカル担当 
そんな2人は出会い、惹かれ合い、先生と生徒を超えた関係になってしまう。
でも、それが学校にバレて若菜は蓮を護ることを選択した。

毎年、イルミネーションが街に映える時期になると思い出してしまう。あの時のことを…。あの真っ直ぐな想いに応えたかったのに…その手を握りたかったのに…。
 
5年前…
 
私は大学卒業後、運良くすぐに高校の養護教員になれた。年齢が近いということもあって生徒とは仲が良かった。でも、その頃の私は大人ぶっていた…。
 
ガラガラ~
 
「せんせー」
 
「また来たな…笑。おサボり早崎くん。今日は何処が痛いの?」
 
「頭が痛い…」
 
「一応、熱計ってみる?」
 
「何?その言い方?まるで俺が嘘ついてるみたいじゃん」
 
彼のおデコと首に手を当てて体温を計った。
 
「体温計必要なさそうね…熱ないよ」
 
「頭が痛いんだって!少し休ませて…」
 
「今の時間だけだよ。次の授業は出るんだよ?」
 
「ウィーッス」
 
そう言って、彼はベッドに横になり携帯をいじり出した。

私は赴任した当日から彼のことを知っていた。開け放たれた窓から風に乗って優しく桜の花びらが舞い落ちる体育館で、赴任の紹介をされている間、私を真っ直ぐに見つめる彼がいた。キリッとした眉と切長の目、鼻筋の通った端正な顔立ち、大人でも子供でもない要素を散りばめた彼の雰囲気に引き込まれた。
 
「なぁ~?」
 
「なに?」
 
「携帯の番号教えて」
 
「ダメです」
 
「何でだよ?」
 
「生徒と個人的な関係はご法度!私、なりたくてなった養護教員なんだから辞めたくないもん!」
 
「誰にも言わないから…」
 
「だーめ」
 
「ケチ」
 
「何とでも言って良いよ」
 
「彼氏いる?」
 
「いない」
 
「最近セッ久スいつした?」
 
「は?何いきなり…そんな事言えるわけないじゃん!」
 
「俺は昨日。言ったよ。せんせーも教えてよ」
 
「黙秘」
 
「やんないと枯れるぞ…笑。22で枯れるとか寂し過ぎるだろ笑。俺が相手してやろうか?」

体を横に向けて枕に片肘のせ、少し口角を上げる。風でカーテンが揺れ、彼が見えなくなったり見えたり…でも、彼が見つめる先は変わらない。その真っ直ぐな瞳に戸惑ってしまう。

「間に合ってます」
 
何処までが冗談なのか?わからない。こんな会話をするのにもドキドキして、早崎くんが4つ下の高校生だということを忘れそうになる。それほど彼は魅力的な少年だった。
 
つづく
 

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