甘い果実ep.5
学祭からあっという間の期末。
こうやって高校生というアオハルの時間は、風のように過ぎ去ってしまうんだろうな…
「桜井せんせ?」
「はい?」
「僕の話聴こえてました?」
「すみません。」
片岡先生から相談したいことがあると言われて保健室で話をしているのに、いつの間にか上の空になってしまっていた。
「夏休みに入るので、その前に保健の授業で性との関わり方について話をしてもらいたいんですが…」
「あ…はい。内容はどんな感じをイメージされていますか?」
「そうですね。1番心配なのが妊娠ですね。生徒が1人で抱えてしまわないように、いつでも相談できるようにしておきたいんです」
「わかりました。少し内容を考えますね。できたら、お伝えします」
「あの…」
「はい?」
「良かったら…食事しながら内容を詰めませんか?」
「あ…その…すみません。考える時は1人の方が良いので…」
「そうですよね?すみません…わかりました」
「あ…でも…」
ガラガラ〜
早崎くんが入ってきた。
「それじゃ…お願いします」
「はい」
片岡先生が早崎くんと入れ替わるように出ていく。私は片岡先生に何を伝えようとしていたんだろう。
「何話してたの?」
「夏休み前の保健の授業で性について話して欲しいってお願いされたの」
「ふーん。アイツ、せんせーのこと好きだよ」
「アイツって…コラ!先生に向かって!」
早崎くんは私の言葉を遮るように顔を近づけてきた。
「鈍いの?それとも鈍いフリしてんの?」
「え?」
早崎くんが更に近づく…私は後退りした
「きゃっ」
「何やってんだか?笑」
ゴミ箱につまずいて、後ろに転びそうになった私の背中に腕を回し、体を支えてくれた。
「大丈夫?」
「う…うん。ありがと」
「アイツ…片岡には気をつけて。下心あるよ。ま!俺もあるけどね。ふふっ笑」
「ちょっもう大丈夫だから…離れてくれる?」
早崎くんの腕を掴んだ。
「このまま、キスしちゃおっかな?」
ニヤニヤしながら私を見つめる。
「怒るよ!」
「はいはい」
彼は私を引き起こして離れた…と思ったら、私ににじり寄ってきて私は壁と彼の間に挟まれてしまった。いわゆる壁ドン。
「な…なに?」
「ん?別に…」
カーテンが風で膨らむ。まるで私たちを隠すように…。
「離れて」
「あのさ、こういうとこだよ」
「何が?」
「つけ込まれるよ」
私はにじり寄る彼の胸を手で押さえた。
「あっそ…ご忠告ありがと」
「保健の授業楽しみにしてるね」
彼はサッと離れて、振り向きもしないで保健室から出て行った。私の手のひらには、彼の胸板の感触と体温が…。
甘い果実はこうやって余韻を残し、私に次を期待させる。
つづく
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