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イトシマメグル #10

人がつなぐ糸島の食

早いもので、糸島に来てからもうすぐ1年になる。美味しそうな魚や野菜に出会ううちに、料理のレパートリーも増えてきた。
糸島には大小さまざまな産地直売所があって、地域で採れたものが売られている。直売所によって品揃えは異なるけれど、野菜や魚、肉、花など、本当に多種多様なものが売られていて、糸島の大地や海の豊かさを感じることができる。

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多くの直売所では、商品は生産者の名前を付して売られている。直売所に通い詰めているベテランさんたちは、それぞれの好みで、ラベルの生産者名を見て商品を選んでいるらしい。
新米の僕も少しずつだけど「贔屓の」生産者さんができてきた。会ったことはないけれど、勝手に親近感を覚えながら買い物をしている。
生産者が見えるものを気軽に食べることができる糸島。地域で採れたものを食べることができるだけでも特別なのに、改めて考えるととても贅沢なことだと思う。

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野菜や魚だけでなく、直売所では醤油やお酒、豆腐、練り物といった加工品なども地元のものが並んでいる。地域の生産者がこだわりを持って作ったものを消費者もこだわりを持って選ぶ。昔は当たり前だった地域内での循環がここでは続いている。

思えば糸島を選んだのは、滅多にない地方転勤なので自然が多そうな所にしてみよう、という程度の理由だった。その時は、糸島で出会ったさまざまなものから、地域や風土と人々、そして自分との関わりの大切さを教えてもらうことになるなんて思いもよらなかった。
この地を離れないといけない日が、いつか自分には来るかもしれないと考えると、寂しいをとおり越して勿体ないような気持ちになってきた。

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ここにいるうちに、少しでも色々なことを知っておこうと、直売所で見かけたお酒を造っているという酒蔵を訪ねてみることにした。

目的の酒蔵は先日訪れた長嶽山(ながたけやま)古墳群の近く。レンガ造りの高い煙突が遠くからも見える。
近づくと蒸気が立ち上り、静けさの中にも活気を感じる。
幸運にも酒蔵の人に話しを伺うことができた。酒蔵は、1855年創業で160年を超える歴史を持つそうだ。

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この蔵では、日本で数少ない石の重みを使いゆっくりと生酒を搾り出す「ハネ木搾り」という方法を続けている。
機械よりも時間がかかるうえに、搾れる量も減るけれども、醪(もろみ)を搾り切らないため、優しい味に仕上がるとのこと。

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蔵の長い歴史のなかで、苦しい時代もあったとのことだが、技術を磨きながら伝統を守り、次の世代に受け継いできた人々の努力により、この蔵の歴史が積み重なっている。

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今日のもう一つの収獲。お酒の原材料となるお米、酒米の話を教えてもらった。
糸島は、酒米の王様と呼ばれる山田錦の一大産地とのこと。糸島産の山田錦は一粒が大きくて、九州各地の酒蔵でも人気が高いらしい。

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酒米の生産には、寒暖の差が必要で、海と山が近い糸島の地形がこの寒暖差を生んでいる。
また、酒米は背が高く穂が重いので、倒れやすく栽培が難しいらしい。大地の恵みと生産農家の技術が合わさって、始めて高品質の酒米が生まれる。
稲作始まりの地ともいわれる糸島で、栽培の難しい酒米が生産されているとは、なんだか感慨深いものがある。

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日本で最も古い時代の農耕文化を示す「曲り田遺跡」や太陽の登る位置で稲の収穫の時期を示した「平原王墓」。そのころから、この地で人々が脈々と紡いできた歴史と、それを支えてきた、豊かな糸島の食。

直売所で見た、糸島の食材が一層特別なものに思えてきた。

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#11 へメグル

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DJ 栗田善太郎


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