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【読書感想6】声の網/星新一

星新一の長編。近未来の社会で人類の知能を超えたコンピュータが人類を支配するまでを描く。あるマンションの1Fから12Fまでの住人に起こる出来事を順に観察していくという形式で書かれているので、いつもの星新一のショートショートに近い形で読むことができ、非常に読みやすい(読了までにかかった時間は恐らく3〜4時間程度)。以下の記事でおすすめされていたので読んでみた。

1970年に初版が出たということだが、注目すべきは冴え渡る著者の先見性。「電話」がインターネットにつながり、個人情報の逐一を記録し、口座振込など様々な機能のハブになり、ということを巧みに予測している。最後の方にしれっと出てくる「友達の誕生日を記憶して通知するサービス」はFacebookそのもの。ただ、その著者をもってしても携帯やスマホの登場は予測できなかったらしく、「電話」は固定電話を指している。コンピュータに歯向かおうとする人間を、コンピュータが八方手を尽くして逮捕する章があるが、固定電話を使ってしか情報収集できないので、なかなか人物の特定に至らない。今であればスマホの位置情報を使って、一瞬にして特定されてしまうだろう。
序盤は何がなんだかよくわからず、若干のホラーっぽさがある。ターミネーターは物理攻撃で人間を叩いてくるけど、こっちのコンピュータは知能派(本来そうであるはずだけど笑)。言い換えれば、ターミネーターは映像芸術向けで、「声の網」は文字芸術向けということかもしれない。
あと途中で情報とはエネルギー源なり、という哲学チックな考察が登場人物の口を借りて語られる。曰く、石油は石油だけではエネルギーたり得ず、それが燃えるのだという知識(情報)があって初めてエネルギー源になる。これは小説の中の思想ではあるけれども、一考に値する考えのように思われる。物理学の授業で、ルービックキューブをめちゃくちゃに動かしたら当然ごちゃごちゃになる(エントロピーは増大する)けれども、知能を持つ者がそれを動かせば整然と整う、即ち知能(≒情報)は本来増大しかしないはずのエントロピーを減少させることができる、という話を聞いたことがあって、その話と関連しているような気がする。なお、まだ読み切れていないけれども、情報とエネルギーとの関係について考察した本を以下御紹介。

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