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うれしかったこと/エッセー


 抹茶アイスのふたについた小さく溶けたアイスを、ぺろっと舌でなめてみたら、なんだかいたずらっ子みたいな気分。ふんふん、とゴミ箱に捨てた。たいしてお腹が空いていないのに食べたアイスでのおかげで、お腹いっぱい。寝転んで本を読み、眠り、はっ、と目覚めて私にできることを考えていたら、他の全てのひとの人生がきらきら輝いていて自分なんか転がっているその辺の石みたいだった。みんなまっすぐ進んでいるようにみえてしまう、たいして私はぐにゃぐにゃの道で、空を仰ぎ見ていると、大丈夫?と不審がられるのだ。そんな石。そんな人、ほかにいる?

 そんな私にも、ぞくぞくと湧いてくる新しいイメージはあった。それがうんともすんとも言わない石のように硬く無口なやつだとしても、私には心を開いている。だから私は、そんなふうに目をつむれば浮かぶビジョンを表現していかなきゃと、そう思う。
 そしてそれは、どこかの誰かが輝いていても、関係ないのだ。いろんな光のおかげで照らされて、私のそれはまるで晴れた日の海水の下。ゆらゆら揺れて、私と一緒に変化してくれる、愛おしい。

 関係ないのだ。私はここにいるだけ。気づいたらやっぱり私は寝てしまっていた。うつ伏せで、あごがいたくなってしまった。アウトレットで買った高級チョコレートをひとつぶ、お腹は空いていないけど食べちゃおう。
 私は私しかいなかった。みんなそれぞれの人生を歩んでいる。それぞれの何かを見ているだけ、それぞれ、ただのひとつだけ。ざぶんと海水に濡れて、真っ黒になってから、あたたかい光に照らされて、すぐに真っ白に乾いたり、している石みたい。何度も波に削られて、まん丸くなったきれいな石だ。私たちはそんなふうに転がって、ただそこにあるだけの、まあるい、ひとつの命たちだ。



エッセー:うれしかったこと
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◎エッセーはここにまとまってるよ
https://note.com/isshi_projects/m/mfb22d49ae37d

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