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速さと、居心地のよさについて/エッセー


 目が乾くような、生あたたかく密度のある風が、ぼうぼうと窓のすきまから顔へ、あたっている。うるさくて、まぶしくて、きもちいい。うしろに走り去る景色から空へ、悠々とあそび漂う白い雲たちは優雅だ。一瞬で流れる家々は、色が混じって淡いデジタルのよう。そして白い雲。今はずっとそこにある、まぶしいその雲たちは、きっと昼やすみの中だ。
 目になにか飛んできたらどうしよう。少し目を細めて、少し涙で眼球を濡らして、風とまぶしさに負けないようにしている。風はぼうぼうと、止まるまでは静かじゃない。風って地球のなんなんだろう?なんて疑問が浮かぶ。私は自分が動いているのに、まるで座ったままだから、地球が大急ぎで、大回転しているふうに思えた。

 こうしていると、ゴールデンレトリバーのあのやさしい顔が浮かんでくる。別にどんな犬でもいいんだけれど、あんなに「ここ」にぴったりの豊かな表情をできるのは、きっとゴールデンレトリバーだけ。そう思わない?その子は目を細めて、小さな車窓から顔を出し、喉が乾いてるみたいに、でも幸せそうに「べろ」を出して。そう、あの顔だ。黄金の毛はオールバックになびかせてさ。
 犬に、風に、私。いない、見えない、そしてここが現実!流される家々に、ゆっくりごろごろとその場所のまま、昼寝を楽しむ白い雲が、現実らしさを消している。私は犬になっちゃうし、家は流されて、雲は自由気まま。これが人だったら、接点のない、ちぐはぐ三人組だ。ああ、全部が人じゃなくてよかったな。こんなに自由に、あらゆる方向に、あらゆる思いと、まったくなにもないということがちゃんと存在できるから。いつか「この車」が止まり、風景も、空も、私の足もぴったり揃うとき、何にも考えずに、ただ最初の一歩をふみだすことで今度は私が、この景色を動かすことができるのだろうか。



エッセー:速さと、居心地のよさについて
isshi@エッセー

◎エッセーはここにまとまってるよ
https://note.com/isshi_projects/m/mfb22d49ae37d


◎前回のエッセー


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