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とくしま呑み歩き

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大衆割烹と、砂の女

大衆割烹と、砂の女

これはいささか偏見じみた持論だけれども、カウンターで
「お隣失礼します」
などと礼儀正しく挨拶する人は、まあ大抵県外から仕事で来た客だ。

割烹とはいっても、「蒼汰の包丁」の富み久のような料亭ではなく、あくまでも大衆割烹。この雑然とした店内の様相と、その「大衆」という響きが良い。

カウンターで瓶ビール、アサヒを手酌で。
いつものように、ネギマ。

「桜も満開になったな、お兄ちゃん」
だみ声のお姐

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名倉

名倉

裏路地から静かに入り口を開けて中にはいると、ちょっとびっくりした顔をされる。

ん?あれ?やってないの?と聞くと、やっているという。

たまに客が全くいなくて店主がカウンターの中で暇そうにしているお店で、こういう対応をされることがあるけれど、まあ一見客ってのがこの町ではそもそも珍しいのかも。

カウンターの上にはカオナシが。

毎年夏にログハウスの別荘で合宿し、そこに置きざりになっていた姪っ子たち

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桑の実

桑の実

和風スナックだというその店の扉をそろそろと開けると、妙齢のママが不思議そうな顔をしてこちらを見た。

「あら、ごめんなさいね、若い人がくるのは珍しいから」

いえいえそんな若いわけではないですが、と思いつつ、カウンターに着いて瓶ビールをもらう。

ワタシで若い部類に入るのなら、この店の客層の平均年齢は多分後期高齢者なんだろうなあ。

ここはスナックなんですね?と一応聞くと、
「そうねえ。そうなるの

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両国酒店

両国酒店

氷点下にもなろうかという寒い夜。

徳島の冬がこんなに寒いとは思ってもみなかった。
四国って南国じゃなかったのか。

駅前から眉山へと椰子の木がずらりと並んでいる光景を見て、ああ、さすがは南国だ、と早とちりするのは、ヤラカスシティホールの裏を歩いていて、並んだ家々から「こんにちは!」「こんにちは!」と窓やら玄関口から次々に声をかけられるのを、ああ、徳島の人はフレンドリーで道ゆく人に挨拶するのが当た

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おとん

おとん

店の外からは中の様子が全く見えず、常連客らしき賑やかな声が聞こえてくるという、一見にとって入りづらいことこの上ない、典型的な店。

ガタガタと音を立てて、開けずらい引き戸を開け、のれんを潜って意を決し入ってみると、目の前のカウンターの数席だけの狭いお店。

そして「おとん」、という店名にも関わらず、おかんがひとり、カウンターの中で切り盛りされているお店。

湯豆腐を、背中の隙間風に震えながらいただ

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軍国酒保 二等兵

軍国酒保 二等兵

かなり人を選ぶ酒場。

日章旗と日の丸の大きな看板が2階から威圧するように掲げられている。

意を決して階段を上がっていくと、古い軍服がズラリと並んだハンガーの奥のカウンターから、帝国陸軍のコスプレ?をしたおばちゃんがじっとコチラを見ていた。

ひとりですけど、いいですか?と恐る恐る聞くと、ニッコリしてカウンターへどうぞ、と。

瓶ビールを注文して、恐る恐る周辺を見回す。

おそらくコンプラ的にこ

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花くじら

花くじら

大阪、福島にある同名の人気店とは実は全く関係ないらしい。

ビルの2階の、頭がつかえそうな低い入り口を潜ると、掘り炬燵風のカウンター、和紙風のメニューとなかなかオシャレ。

ちなみに花くじらとは、いわゆる鯨の尾の部分で、おばけと呼ばれる部位。ではそこをおでんで出すのかと思いきや、そういうわけでもないらしい。

靴を脱いで上がるお店なので、三和土にてマーチンの10ホールを脱ぐ。ちょっとめんどくさい。

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スピークイージー

スピークイージー

明日からの、時短要請期間の営業時間はどうする予定なの?とママに聞いたら、
20時ラストオーダー、21時閉店じゃ店開けてもどうせ赤字だし、それならいっそのこと連休明けまで休業するつもりなんだけど、とのこと。

まあそれは残念ではあるのだけれど、
おそらくここのマスターの性格だとそうするだろうなあ、と半ば予想していたので特に驚きはなく。

開けてたら開けてたで、一見さんが集まってくるのもねえ・・・、と

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春団治

春団治

ご近所のお店は大抵お盆の間ずっと営業していた為、お盆明けの今日からは休むお店がほとんど。
そんな中、物好きにも開けている酒場を探して彷徨い歩いてると、入り口の明かりが通りの反対側から見えたので恐る恐る扉を開けてみる。

あれ、誰もいない・・・、と思った店内の、カウンターからひょいと立ち上がったチョビ髭のご主人。

ひとりですけど、いいですか?と尋ねると、
「県外の方ではないですよね?」
と念を押さ

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せき半

せき半

細い路地裏が交差する暗い道をあてもなく、さてさてこの路地の奥は何があるのかなぁ、なんて思いながらふらふらと入ってみたら、するりと一匹の黒猫が現れて、歩く前をまるで先導するようにすたすたと歩いていく。
やがて一軒のお店の入り口の前に着くと、猫はこちらを振り返り、
「旦那、この店いいですぜ、いかがですか」
そんな目でこちらを見上げるので、ふむふむ、まあそんなもんか、とその横を通り扉を開けると、ついっと

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安兵衛

安兵衛

入り口から覗き込むと、いつもどおりほぼ満席の喧騒。
無理を言ってカウンターの隙間に入り込ませていただいて、ご常連の間でねぎまとチューハイレモンを飲みながらブックオフで買った文庫本を読む。ページを繰るたび指についたタレで本が汚れるが、まあそれも大衆酒場で飲む醍醐味か。

ねぎまの追加注文をすると、背中越しに草間彌生みたいなお姐さんが「お兄ちゃん、ねぎま好きやなぁ」
と、ガラスのコップに伝票を差し込み

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はなたに酒店

はなたに酒店

刺盛りは鰤、カワハギ、肝がついているので肝醤油か。さらにヨコにイカ。ヨコはこちらに来て初めて食べた。メバチなのかな?マグロの小さいものを言うらしい。
お燗にできるお酒は何がありますか?と店主に聞くと香川の酒、阿波山海を出されたのでこれを燗でいただく。電気ポットが酒燗器。きちんとちろりでお燗をつけてくれる。

生まれも育ちも徳島だというアルバイトの女子大生の子に、卒業したら徳島を出るの?と聞いた

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おでん盛

おでん盛

カウンターだけの小さなお店に常連客がびっしりと。
隅っこに入れてもらい、お燗にしてもらえるお酒は、と尋ねると高知の土佐鶴を。
大根、たまご、イイダコをもらう。

なんだろう、初めて来たのに、なんだか不思議とずっと馴染んできたお店のようにしっくり落ち着いて飲める。
きっとこれはあれだな、カウンターの向こう側の端に座って優しい眼差しで常連客を眺めているダンディな紳士がこのいい雰囲気を醸し出しているん

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お好み焼き みその

お好み焼き みその

老夫婦が二人で営んでいるお店。

静かに「何にしますか」と優しく聞いてくれるので、壁に貼ってあった冬季限定の牡蠣玉を注文。更に酎ハイのレモンを。

今は亡き大杉漣さんが足繁く通ったというお店です。生前の笑顔のお写真が飾ってありました。

今年の終盤のヴォルティスの快進撃にはきっと天国で喜んでいたのではないかと。まあ、最後の最後、あと一勝、まさにあと一歩というところで夢ついえましたが、きっとこ

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