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アベンジャーズ


ナースという職業がそうさせているのか、元々そういう性格なのか、美樹は絶対に遅刻しない。待ち合せれば必ず10分前には来て僕を待っている。そんな小さな約束を大切にする彼女を、僕は女性としてだけでなく人として信頼していた。

いわゆる仕事がデキる女である美樹は、悪くはいはずのナースの給料には満足していないようだ。
独立心が旺盛で「私、いつか独立して経営者になりたいんです。その時は協力してくださいね。約束ですよ」と飲みながらもいつも僕の仕事の話を聞きたがった。

俺なんかより医者に声かければ金が集まるだろう、と冗談っぽく言ったこともあるが、それは本音だ。
佐藤江梨子に似てると言われるらしい。見た目と性格、仕事と遊び、バランスが取れている美樹を嫌いな男はいないだろう。

軽く飲んで早めに帰るつもりが、時間があっと言う間に過ぎていく。砕けた話もするが守るところはしっかり守る、という彼女の会話のスタイルも僕の好みだった。

美樹が彼氏のことを話したのは一度だけだ。「アイツはあてにならないから」と。僕はそれ以上聞かなかった。言いたければ言うだろうし、言わないのは言いたくないからだろう。

+++++++++++++++++

「たまにはパーッと渋谷にでも行きませんか?」

少し違和感があった。いつも場所を決める時には、サイゼでもいいですよ、が彼女の口癖だった。

美樹はいつも通り10分前に駅で待っていた。オシャレな店を期待しているのだろうか、今日は大人っぽい服を着ている。

仕事帰りの人で混雑する車内でデジタルサイネージをボーっと見ていると、美樹が言った。
「私、彼氏と別れました」
視線は合わせずに「そっか」とだけ答えた。

いつもとは違う薄い緊張感が二人をまとっていた。お互いそれに気付いていて、それを振り払うように互いに楽しく元気に振舞った。

結局渋谷ではなく表参道のお店を選んだのもそこでの盛り上がりを期待してのことだった。

「どうだ、ここはねぎタン塩発祥の店なんだぞ」
「おいしー!こんなの初めてー!」

お店選びは正解だったらしい。気持ちが素直に顔に出る美樹を見て僕もうれしかった。お酒も入り、僕らはくだらない話でいつものように笑いあった。

+++++++++++++++++

「さあてと、まだ早いな。どっか行く?」
僕から誘った。時計はまだ21時半。帰るには早い時間だ。下心があるわけじゃなく、ただこの楽しい時間を、もう少し楽しみたかった。

美樹がスマホを見る。

「あの、私の先輩が渋谷で飲んでるんですって。一緒に飲もうよってLINEが来てるんですけど、会ってみます?美人ですよ~ 笑 」

いたずらっぽく笑う美樹がかわいい。
美人に惹かれたわけではないが、美樹の先輩には興味があった。美樹は彼女に僕をどう紹介するのだろうか。

「そっか。じゃ、行ってみようか」
もうちょっと二人で飲みたかったという想いを隠しながら僕は即答した。

美樹に案内されたお店は意外だった。勝手にバーのようなところを想像していたのだが、そこは若者でごった返している喫茶店だった。

美樹は何度か来たことがあるようで、迷わず階段で二階へ上がって行く。奥の席で手を振っている女性がいた。

ん? この女性、どこかで見たことがあるような・・・

頭の中の記憶の引き出しをガタガタと開けながら僕は美樹の先輩が待っている四人掛けのテーブルにつく。
美樹にうながされ僕が奥の椅子に座ると、美樹は僕に並んで通路側の椅子に座った。

僕は笑顔で軽くあいさつをしながらも、頭の中の記憶をフルスピードで検索していた。

この人、どこかで・・・

先輩が言った。

「もう一人、友達呼んでるから、今夜は楽しく飲みましょうね」

あ。

声を聞いてわかった。

あの人だ。

あのカフェで見た、

あのお姉さんだ!

こ、ここにいちゃダメだ! 

立ち上がろうとしたその瞬間、声がした。

「遅くなってごめんなさい」
目の前には好青年が立っていた。


目の前にはお姉さんと好青年、真横には美樹。

最強軍団、アッセンブル …


+++++++++++++++++


二週間後。

「ふぅ… 」

届いた大量の健康食品を前に、今日何度目かの美樹からの着信音が鳴るスマホを、僕はじっと見ていた。



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まさかの二部作でした!
第一部:お姉さんと好青年の正体はこちらから ↓ 

(ちなみに美樹とのエピソードはもう一話ありますので乞うご期待w)

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