愛着を手放し新しい世界へ



見知らぬ街での新生活のスタートってとてもワクワクする。

物件探し、家具の買い揃え、新生活の準備ほどドキドキワクワクして期待と不安に胸を膨らませることはない。この街でこれからどんな素敵なことが私に起こるのかしら、どんな人とであえるのだろう。

一方で、わたしは自分の生まれ育った街が大好きだ。小さい頃から近所の人に助けられ、育てられ、あたたかく見守ってきてもらった。小学校までの通学路が好きで、自分も将来こどもができたらこの街にすんで同じ小学校に通わせるんだぁとルンルンしていた。

今でも実家のマンションのベランダに出ては、見渡す限りのこの街の景色が好きで、思えば今まで、辛いことや悲しいこと、なんだか泣きたいときにはこのベランダに立ってひとり感情を整理していたのだが、その度にいつもやさしく涼しい風がわたしを包んで慰めてくれていた。

わたしはだいぶ成長して変わった部分も多い。けれど、この街は、変わらずわたしの涙を乾かしてくれる存在だ。ベランダに出ると毎回同じ光景があって毎回同じ風が舞う。だから毎回同じふうに、清々しく誇らしい気持ちになれる。

わたしはいつかこの街を出るかもしれない。将来だって他の街に暮らすかもしれない。見知らぬ新しい街に胸を弾ませてわたしがこの生まれ育った街に背を向けたとしても、この街の風はわたしを見守ってくれるのかな。