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  • ID: INVADED イド:インヴェイデッドの話

    イドについて書いたやつのまとめです。

最近の記事

ガーディアンズ・オブ・ザ・部屋(編集版)

 午前十時に洗面器にぬるま湯を溜める。おれは三人を順番に沈める。どの個体も最初は浮かび上がろうという抵抗がある。おれはそれを押さえつけて彼らの身体をそっと握る。ぬるま湯が洗剤とともに染み込む。そうすると抵抗はなくなる。  最初におれが沈めたのは八歳のときから付き合いのある無口な奴で、仮にB・ベアと呼んでもよい。おれはこいつらの本当の名前を明かす気はない。Bはイギリスのコメディ番組に出演していた。おれの仲間たちの一番の古株で、常にチームを支えている。だから敬意を表して最初に湯に

    • アナザー・ライフ・オン(古賀コン お題:アメリカの入学式)

       おれは大学の入学式に出席する。パーカーにデニム、フィリップ・K・ディックのTシャツを着たおれは手持ち無沙汰に鞄をぶら下げている。ニッポンジンはおれ一人だ。アジア人差別を受けたらおれは即座にそいつの足を踏みつけて相手の喉に指を突っ込み「おれはニンジャだ。おれの爪に塗ってある毒はCovid-19よりキツいぜ」と言うつもりでいるが、周囲の学生たちは朗らかな雰囲気で、群れながら談笑したり、あるいは孤独だったりしながらホールへと向かっていて、おれもその波の中にいる。突然おれは話しかけ

      • 沼犬

         ジップロックの中から彼女はわたしを見ている。保存液が注がれたジップロックの中から彼女の目がわたしを見ている。ダクトテープで壁に固定されて保存液がダポダポに注がれたジップロックの中から彼女の眼球がわたしを見ている。彼女の目。ラブリーな目。薪ストーブと本棚とソファとサイドテーブルとネイティブアメリカン風の絨毯とIKEAのゴミ箱と二重窓と焦げ茶のカーテンと黄色のドアと十一月のカレンダーと彼女のラブリーな目。わたしはその目を壁から外した。ダクトテープを剥がして指にくっつくのをメトメ

        • ハンマー

           地面を揺らす振動がこの部屋にあるものすべてを揺らしていて、その中にはおれも含まれているしハン魔ー・ディーゼルも含まれている。壁に掛けられたハンマーがガチャガチャ鳴っている。ハン魔ー・ディーゼルは言う。 「今日の午前もひとつ頭を砕いてきたところなんですよね。そこに掛けてある一番端のハンマーはまだ血が乾いてないのわかる? わたしはいつも頭を砕くのに新しいハンマーを使います。ときどきホームセンターに寄って店中のハンマーを根こそぎ買う。一つの頭には一つのハンマー。当たり前だよなぁ!

        ガーディアンズ・オブ・ザ・部屋(編集版)

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          7本
        • ID: INVADED イド:インヴェイデッドの話
          5本

        記事

          [小説] 羊飼いの島

           踏まれた砂は身を寄せ合って鳴いていた。秋の終わりの風は冷たい。浜辺の先には影法師がひとつ立っていて、それに向かってわたしは歩いた。影法師の隣に立つと、わたしはピーコートのポケットからげっ歯類の頭蓋骨に似た錆びた金具を取り出して、それを影法師に近づけてやった。 「どう?」 影法師はこちらを向いて手をのばしその小さな金属に触れた。撫で回してから自分の上に載せ、身体を揺すって、うまく合わない、でもありがとうとわたしに伝えた。影法師は手足が長くて背が高い。肩まで二メートルほどある。

          [小説] 羊飼いの島

          閃光のハサウェイ 感想

          めっちゃ良かったね。  ハサウェイの今後がどう左右されるか、それらをどう乗り越えるか(または乗り越えられないか)。  ハサウェイがマフティーとして戦うことは周りから求められていることだ。ギギはその行動をアップデートして独裁者になれと促す。ケネスは清廉だが幼稚な倒すべき敵としてマフティーを求める。ハサウェイ自身が用意されたリーダーで本当の黒幕ではないとも示唆される。ハサウェイはシャアの反乱で死んでいった人たちのために戦うと言うが、しかしその理由も外から与えられたものでしかない

          閃光のハサウェイ 感想

          [小説] 遺物

           塔の頂上には寺院が建てられており、その内側はタイルで埋め尽くされていた。氾濫する色彩が、反復しながら変化していく紋様となって、わたしを迎え入れた。かつては巨大な都市の一部だったというこの場所は、今では周囲を砂に覆われて孤立している。  わたしがこの寺院を訪れたのは、新年から月が九回満ちた日だった。 「ようこそ」座り込むわたしに茶を差し出しながら僧侶が言った。「ここを訪れる者は多くありません。しかしみんな一つの目的のためにやって来る。あなたもそうですね」 塔はあちこちの床が崩

          [小説] 遺物

          [小説] 氷が溶けるまでわたしたちは

          妻から電話がかかってくる。なんだって? もう一度言ってくれ。オフィスは暖房が効きすぎていて、上着を脱いでも下着が汗で湿る。外では雪が降り積もっている。 「池に落ちたの。一時間もそのままだった。気づかなかった。気づかなかったの」  ベッドに横たわる息子は、生まれたときも予防接種も何もかもこの病院で処置されてきたのだと思い当たる。 「心臓は止まっていました。いまは脈拍が安定しています。冬場の冷たい水に落ちた子供が蘇生するのはいくつもある事例です。じきに目覚めるでしょう」 う

          [小説] 氷が溶けるまでわたしたちは

          [小説] 未熟なテロリストと王女の踊り

           ダークナイトはテオが生まれる前の映画だけれど、病院が吹き飛ぶシーンを見た瞬間、八歳のテオは以前と変わる。瓦礫と炎で胸がいっぱいだ。庭で爆竹を爆ぜさせても満足できなくて、図書館に行き発破技術の本を手に取る。司書は誰がどの本を借りたか外に漏らすことはないというけれど、テオは棚の陰に隠れてページをめくる。本から顔を上げるたび、図書館中に爆弾が設置されていく。家に帰ったテオは上の空で、それを見た母は戸惑い、父はぼんやりするなと叱る。姉だけは気にかけて、でもテオはその日は話さない。プ

          [小説] 未熟なテロリストと王女の踊り

          ID: INVADED イド:インヴェイデッドの話5 それはそうでしょうね。

          ネタバレメモ  ジョン・ウォーカー結局お前かよとか飛鳥井木記が生体部品ていうのは「それはそうでしょうね」という感じで、むしろ素直にそんな描写してきたことがおかしいので、このあとガツンとくるのが準備されてるのは間違いない。だって結局何やろうとしてるのか未だにまったくわからない。  飛鳥井を触媒に殺人鬼作って、飛鳥井の特性を使ってミヅハノメを作って、自分が作った殺人鬼を捕まえさせて、何やりたいんだよ。  本堂町がジョン・ウォーカーの殺人鬼作りが一週間になぞらえてあるのに気付い

          ID: INVADED イド:インヴェイデッドの話5 それはそうでしょうね。

          ID: INVADED イド:インヴェイデッドの話4 文脈とか罠とか

          10話の前に予想。 9話を整理する井戸の中の井戸は仮想世界の中の仮想世界か、もしくはマジで過去の世界だ。 意識(魂)だけが過去の自分にタイムスリップしたという展開はありうる。 どっちだ? 鳴瓢は殺人鬼(になる予定者)を殺しはじめた。 きっかけは飛鳥井木記の2つの呪い。夢に侵入してくるジョン・ウォーカー、感覚を共有する能力(当然これらはミヅハノメの機能に重なるがわからんので放置)。 ジョン・ウォーカーは飛鳥井の夢に侵入して彼女を何度も殺し、さらに殺人鬼や殺人鬼予定者を引き入

          ID: INVADED イド:インヴェイデッドの話4 文脈とか罠とか

          ID: INVADED イド:インヴェイデッドの話3 古事記木記

          8話のあとに考えたこと。 ミヅハノメ・ワクムスビ ミヅハノメもワクムスビも古事記と日本書紀に出てくる神様の名前だけど、2つの書で微妙に血縁関係が異なる描写になっており、『イド』の場合は古事記ベースになっていると思う。理由は古事記だとミヅハノメとワクムスビは双子関係だから。日本書紀だと伯母と甥の関係で『イド』の関係とズレてしまう。  ちなみにミヅハノメは水の神様で、ワクムスビは養蚕と五穀の神様。水は井戸と通じるけど、養蚕と五穀はなんでしょうね。糸で編むことから変じて、井戸を構

          ID: INVADED イド:インヴェイデッドの話3 古事記木記

          [小説]精神のなんとか

           疫病の時代はいつでもあったけれど、人類はそれを乗り越えのだから今度も大丈夫ですよ、と聖バリボル・ハムンクサはおっしゃいます。 「安心なさい」 彼は微笑みます。ですから、わたしはこの五十七歳でトロンとした目つきの善良だが頭の悪い男に反射的に反社会的に素早く手を伸ばし、白髪交じりの髪を左手で掴んで右拳で頬を殴り、殴り、殴る。その動きはまるで『逆襲のシャア』でニューガンダムがサザビーを殴るシーンのようです。それは古いアニメですが、わたしは兄と一緒にアマゾンプライムビデオで観ました

          [小説]精神のなんとか

          ID: INVADED イド:インヴェイデッドの話2 井の中の死んだ蛙

          今夜7話ですね。 6話を観たあとに思った舞城王太郎のこと+カエルちゃんについて。 舞城王太郎は容赦しない・ラストは怒涛の本堂町だったけど、そうだ舞城王太郎はこういうことやるんだった…と思い出した。思わぬ展開で足元が崩れる。容赦しない。 ・鳴瓢の娘を殺した殺人鬼タイマンが絡んできたけど、鳴瓢の娘の殺され方がめちゃくちゃエグかったのはいかにも舞城だった。舞城王太郎が繰り返し書いていることのひとつに「邪悪なものは実体を伴って世界に存在する、その邪悪なものは愛する人を脅かす、故に

          ID: INVADED イド:インヴェイデッドの話2 井の中の死んだ蛙

          ID: INVADED イド:インヴェイデッドの話 おれは舞城王太郎しか知らない

          今夜6話を放送するID: INVADED イド:インヴェイデッドを観て考えたこととか今後の予想の話。5話までのネタバレあり。 ジョン・ウォーカーはジョニー・ウォーカーか?殺人鬼のイド=井戸の中に現れる殺人鬼メーカー「ジョン・ウォーカー」。現時点では実在するのか、殺人鬼が共有する何かのイメージなのか不明なこの存在だけど、引用元は村上春樹『海辺のカフカ』の邪悪なもの「ジョニー・ウォーカー」だろうと思う。舞城王太郎がハルキフォロワーなのは有名だし、村上春樹がその元ネタに使ったウイ

          ID: INVADED イド:インヴェイデッドの話 おれは舞城王太郎しか知らない