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[小説] 羊飼いの島
踏まれた砂は身を寄せ合って鳴いていた。秋の終わりの風は冷たい。浜辺の先には影法師がひとつ立っていて、それに向かってわたしは歩いた。影法師の隣に立つと、わたしはピーコートのポケットからげっ歯類の頭蓋骨に似た錆びた金具を取り出して、それを影法師に近づけてやった。
「どう?」
影法師はこちらを向いて手をのばしその小さな金属に触れた。撫で回してから自分の上に載せ、身体を揺すって、うまく合わない、でもあり
[小説] 氷が溶けるまでわたしたちは
妻から電話がかかってくる。なんだって? もう一度言ってくれ。オフィスは暖房が効きすぎていて、上着を脱いでも下着が汗で湿る。外では雪が降り積もっている。
「池に落ちたの。一時間もそのままだった。気づかなかった。気づかなかったの」
ベッドに横たわる息子は、生まれたときも予防接種も何もかもこの病院で処置されてきたのだと思い当たる。
「心臓は止まっていました。いまは脈拍が安定しています。冬場の冷た
[小説] 未熟なテロリストと王女の踊り
ダークナイトはテオが生まれる前の映画だけれど、病院が吹き飛ぶシーンを見た瞬間、八歳のテオは以前と変わる。瓦礫と炎で胸がいっぱいだ。庭で爆竹を爆ぜさせても満足できなくて、図書館に行き発破技術の本を手に取る。司書は誰がどの本を借りたか外に漏らすことはないというけれど、テオは棚の陰に隠れてページをめくる。本から顔を上げるたび、図書館中に爆弾が設置されていく。家に帰ったテオは上の空で、それを見た母は戸惑
もっとみる[小説]精神のなんとか
疫病の時代はいつでもあったけれど、人類はそれを乗り越えのだから今度も大丈夫ですよ、と聖バリボル・ハムンクサはおっしゃいます。
「安心なさい」
彼は微笑みます。ですから、わたしはこの五十七歳でトロンとした目つきの善良だが頭の悪い男に反射的に反社会的に素早く手を伸ばし、白髪交じりの髪を左手で掴んで右拳で頬を殴り、殴り、殴る。その動きはまるで『逆襲のシャア』でニューガンダムがサザビーを殴るシーンのよう