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映画鑑賞

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映画感想など
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#映画

人と人はわかりあえない。だからこそ誠実に向かいあう~映画『違国日記』~

人と人は絶対にわかりあえない。

そう聞くと、「シニシズムだ」とか何とか怒り出す人がいるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。
「人のコト、或いは気持ちがわからない」と言っているのではなく、「人と人はわかりあえない」と言っているのだし、それは「シニシズム」や「諦め」を意味しない。
それは、映画『違国日記』(瀬田なつき監督、2024年。以下、本作)を観ればわかる。

本作はヤマシタトモコの人気漫画を

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バカで熱くておめでたい。最高の若者映画~映画『明けまして、おめでたい人』~

バカで熱くておめでたい。最高の若者映画~映画『明けまして、おめでたい人』~

あ~、俺が20~30代だったら、絶対泣いてたな。

映画『明けまして、おめでたい人』(ウトユウマ監督、2023年。以下、本作)がエンドロールに向かってがむしゃらに疾走する最終盤を観ながら、あらためて自分が50歳を過ぎたことを実感していた。

読んでわかるとおり、本作は『俳優 山脇辰哉の身に実際に起きた年末の出来事を』『俳優 山脇辰哉』が『俳優 山脇辰哉』役として自ら「再現」する、『こんなに「俺が俺

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宇宙人に癒される~映画『みーんな、宇宙人。』~

宇宙人に癒される~映画『みーんな、宇宙人。』~

映画『みーんな、宇宙人。』(宇賀那健一監督、2024年。以下、本作)を観ながら、「最近、皆、考えすぎなんじゃないか」と漠然と思った。

物語は各登場人物につき10分程度のショートストーリーのオムニバスといった構造で、だから登場人物たちが交流することはほぼない。
オムニバスを1つの物語として成立させる「筋」を担っているのが冒頭・中盤・結末に登場するセイヤで、だから彼が一応の主人公ともいえる。

登場

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NHKドラマ『パーセント』最終回についての一考

NHKにて2024年5月11日から4回シリーズで放送された、障がい者の役を障がい者自身が演じるドラマ『パーセント』のテーマは、「障がい者とともにある世界」であったと思う。
"note"にも、ドラマ自体や主演の伊藤万理華さんに関する記事が多く投稿されている。
私もいくつかを読み、その1つにコメント書き込ませていただいたりもした。

私が書いたコメントは、最終回の最終盤に登場した、未来とともにクレーン

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映画『からかい上手の高木さん』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず)

映画『からかい上手の高木さん』(今泉力哉監督、2024年。以下、本作)で、西片と高木さんの「関係性」の顛末に安堵して、思わず笑ってしまった。
その安堵は、ある意味においての「ハッピーエンド」に対してではなく、「やっぱり今泉作品だ」ということに対してだ。

本作公開に関連して2024年6月9日に放送されたテレビ番組『情熱大陸』(TBS系……だったのは本作の製作がTBSだったから)で、今泉監督は『恋愛

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こどもは天使かそれとも……~映画『だれかが歌ってる』/『左手に気をつけろ』

こどもは天使かそれとも……~映画『だれかが歌ってる』/『左手に気をつけろ』

「愛すべきB級映画」である。
みんなが「良い」とは言わないが、しかし、だれかには確実に届く。それは特定の嗜好を持った人という意味ではなく、たとえば疲れている時とか、理由なく入って来るという意味で。

2023年の東京国際映画祭でも上映された井口奈己監督の最新作『左手に気をつけろ』(2023年。以下、『左手』)が劇場公開された。43分の中編映画に、井口監督の過去作『だれかが歌ってる』(2019年。以

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映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず) (追記)

映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず) (追記)

先日、2006年に木村カエラ氏をボーカルに迎え再々結成した「サディスティック・ミカ・バンド(Sadistic Mikaera Band)」のライブ(2007年3月7日。@NHKホール)を見返した。
といっても、ちゃんと見ていたわけではなく、BGV的に流しながら家のあれこれをやっていたのだが、加藤和彦氏(愛称・トノバン)が歌う詞に手が止まった。

本当はそんな歌じゃないし、その時本人もそんな気持ちで

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映画の遊び心、笑うか怒るか困惑するか~映画『走れない人の走り方』~

映画の遊び心、笑うか怒るか困惑するか~映画『走れない人の走り方』~

映画の全てのシーンはストーリーに奉仕すべきだ。
そんな信念を持つ人は、怒り出すかもしれない。
ただ漫然と「映画ってそういうものだよね」と思っている人は「ワケがわからない……」と困惑するかもしれない。

私はというと、映画『走れない人の走り方』(蘇鈺淳監督、2024年公開。以下、本作)を観ながら、ずっとニヤニヤしていた(何せ、『日本の映画館は静か』なのだから)。
ドイツの映画祭で観た現地の人たちは爆

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二度と彼のような犠牲者を出さないために~映画『ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ』~

二度と彼のような犠牲者を出さないために~映画『ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ』~

1972年11月8日。早稲田大学2年生の川口大三郎君が友人と談笑しながら大学構内を歩いていたところ、男たちに呼び止められ、問答無用で教室に拉致された。
友人たちが「川口を返して欲しい」と教室に行くが、暴力によって追い返されてしまう。教師たちも何度か教室を訪ねてくるが、門番役の学生たちに声をかけるだけで教室に入ろうともしない。
翌日、川口君は死体で発見された。
体中に40カ所以上の打撲跡があり、現場

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探さないでください 私はどこかにいますから~映画『おらが村のツチノコ騒動記』~

ツチノコは絶対にいる!

映画『おらが村のツチノコ騒動記』(今井友樹監督、2024年。以下、本作)を観ながら、そう確信した。
だって、全国のお年寄りがこぞって、「自分も見た、近所の誰それさんも見た」と、子どもに還ったように目をキラキラさせて興奮気味に話すのだから、これは絶対にいるのだ。

こうした話は昔からある。
「雪男」だの、「口裂け女」だの、その他諸々の都市伝説……

しかしそうしたものと「ツ

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第33回日本映画批評家大賞 授賞式

2024年5月22日。東京・有楽町の東京国際フォーラム ホールCにて、『第33回日本映画批評家大賞 授賞式』が開かれた。

日本映画批評家大賞は、公式サイトによると、『映画界を励ます目的のもと、 現役の映画批評家が集まって実行するもので、 1991年 水野晴郎が発起人となり、淀川長治、小森和子等、 当時第一線で活躍していた現役の映画批評家たちの提唱により誕生した』とある。

2024年4月10日に

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映画『ゴースト・トロピック』

以前、別稿にも書いたが、酔っ払って終電に乗れなかったり、乗れても寝過ごしてしまったりして、深夜の街を自宅目ざして歩き続けた経験が、何度もある。
見知らぬ場所ということもあるし、それ以上に「深夜」という要素が大きいのだと思うが、普段は見えない物や人に遭遇することが多い。

間違ってはいけないのだが、それは、昼と夜で街に出る人が入れ替わる、ということではない。
夜遭遇する人も、ドラキュラでない限り、我

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映画『夢の中』

映画『夢の中』

あえて、ここから始める。
2024年5月4日、劇作家・演出家・俳優の唐十郎氏が逝った。
70年代アングラ演劇を牽引してきた氏の作品は、新宿花園神社に紅いテント造りの、謂わば「見世物小屋」のような場所で上演され、その作風は「幻想譚」「観念的」とも云えるものだった。

映画『夢の中』(都楳勝監督、2024年。以下、本作)を観た人は、本作に「幻想譚」「観念的」という感想を持つかもしれない。
しかし、本作

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映画『悪は存在しない』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず)

物語の序盤、ちょっと奇妙な電子音楽をバックに子どもたちが各々奇妙な姿勢で静止しているシーンを観て、映画『悪は存在しない』(濱口竜介監督、2023年。以下、本作)は当初、「サイレント映画」として企画されたものだったことを思い出した。
日本で生まれ育った我々には、後のセリフでそれはすぐに「だるまさんが転んだ」をやっているのだとわかるのだが、しかし、もし「サイレント映画」だったらと考えた後、本作が初めて

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