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映画鑑賞

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映画感想など
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#映画評

人と人はわかりあえない。だからこそ誠実に向かいあう~映画『違国日記』~

人と人は絶対にわかりあえない。

そう聞くと、「シニシズムだ」とか何とか怒り出す人がいるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。
「人のコト、或いは気持ちがわからない」と言っているのではなく、「人と人はわかりあえない」と言っているのだし、それは「シニシズム」や「諦め」を意味しない。
それは、映画『違国日記』(瀬田なつき監督、2024年。以下、本作)を観ればわかる。

本作はヤマシタトモコの人気漫画を

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映画『からかい上手の高木さん』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず)

映画『からかい上手の高木さん』(今泉力哉監督、2024年。以下、本作)で、西片と高木さんの「関係性」の顛末に安堵して、思わず笑ってしまった。
その安堵は、ある意味においての「ハッピーエンド」に対してではなく、「やっぱり今泉作品だ」ということに対してだ。

本作公開に関連して2024年6月9日に放送されたテレビ番組『情熱大陸』(TBS系……だったのは本作の製作がTBSだったから)で、今泉監督は『恋愛

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映画の遊び心、笑うか怒るか困惑するか~映画『走れない人の走り方』~

映画の遊び心、笑うか怒るか困惑するか~映画『走れない人の走り方』~

映画の全てのシーンはストーリーに奉仕すべきだ。
そんな信念を持つ人は、怒り出すかもしれない。
ただ漫然と「映画ってそういうものだよね」と思っている人は「ワケがわからない……」と困惑するかもしれない。

私はというと、映画『走れない人の走り方』(蘇鈺淳監督、2024年公開。以下、本作)を観ながら、ずっとニヤニヤしていた(何せ、『日本の映画館は静か』なのだから)。
ドイツの映画祭で観た現地の人たちは爆

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第33回日本映画批評家大賞 授賞式

2024年5月22日。東京・有楽町の東京国際フォーラム ホールCにて、『第33回日本映画批評家大賞 授賞式』が開かれた。

日本映画批評家大賞は、公式サイトによると、『映画界を励ます目的のもと、 現役の映画批評家が集まって実行するもので、 1991年 水野晴郎が発起人となり、淀川長治、小森和子等、 当時第一線で活躍していた現役の映画批評家たちの提唱により誕生した』とある。

2024年4月10日に

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映画『夢の中』

映画『夢の中』

あえて、ここから始める。
2024年5月4日、劇作家・演出家・俳優の唐十郎氏が逝った。
70年代アングラ演劇を牽引してきた氏の作品は、新宿花園神社に紅いテント造りの、謂わば「見世物小屋」のような場所で上演され、その作風は「幻想譚」「観念的」とも云えるものだった。

映画『夢の中』(都楳勝監督、2024年。以下、本作)を観た人は、本作に「幻想譚」「観念的」という感想を持つかもしれない。
しかし、本作

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映画『悪は存在しない』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず)

物語の序盤、ちょっと奇妙な電子音楽をバックに子どもたちが各々奇妙な姿勢で静止しているシーンを観て、映画『悪は存在しない』(濱口竜介監督、2023年。以下、本作)は当初、「サイレント映画」として企画されたものだったことを思い出した。
日本で生まれ育った我々には、後のセリフでそれはすぐに「だるまさんが転んだ」をやっているのだとわかるのだが、しかし、もし「サイレント映画」だったらと考えた後、本作が初めて

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立ち現れた「等身大の女子高校生」~映画『水深ゼロメートルから』~(改稿)

立ち現れた「等身大の女子高校生」~映画『水深ゼロメートルから』~(改稿)

高校演劇のリブート企画第二弾で、4人の女子高校生の物語で、しかもそれを、4人の女子高校生の物語を描いた超名作映画『リンダリンダリンダ』(2005年)を生み出した山下敦弘監督が撮る。
これはもう絶対観るしかない!
ワクワクしながら、映画『水深ゼロメートルから』(山下敦弘監督、2024年。以下、本作)を観て、見事なまでに強烈なビンタを浴びせられた、いや、物語に即して言えば「砂をかけられる」、しかも男で

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他人の人生を繋げてゆく~映画『青春18×2 君へと続く道』~

1988年10月10日、大阪国際交流センター。
「子供ばんど(KODOMO BAND)」の2000本目のライブが行われた。
何度目かのアンコールで、ヴォーカル・ギターでリーダーの、うじき"JICK"つよしは、2000本ライブを達成した喜びを語り、メンバーとスタッフたちに感謝を述べた後、歌い始めた。

映画『青春18×2 君へと続く道』(藤井道人監督、2024年。以下、本作)の主人公・ジミーはたぶん

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歌の力は凄い!~映画『ラジオ下神白』~

震災なんて無かった方が良かった。
もちろん、そのとおりだ。
2011年の東日本大震災では自然災害だけでなく、それ以上に、原発事故や復興計画・復興事業の混乱・不手際といった人災に被災者の方々は翻弄され続けた。
震災なんて無かった方が良かった。
もちろん、そのとおりだ。でも、震災も人災も起きてしまった。
それがどんなに理不尽なことであっても、その過去を変えることはできない。
とても不謹慎な言い方かもし

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何かを見れば(聞けば)何かを思い出す~映画『すべての夜を思いだす』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず)

何かを見れば(聞けば)何かを思い出す~映画『すべての夜を思いだす』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず)

数年前まで、多摩センターにある会社に勤めていた。
サンリオピューロランドもある多摩センターには、京王線、小田急線(何故か永山から並行して走っている)の他、多摩都市モノレールも乗り入れている。
多摩地区を南北に貫くモノレールの最南端の終着駅である多摩センター駅はしかし、駅舎を過ぎたところまでレールが延び、不自然なところで終わっている。もっと不思議なのは北側の終着駅・上北台で、西武拝島線と連絡する玉川

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映画『雨降って、ジ・エンド。』

映画『雨降って、ジ・エンド。』(髙橋泉監督、2020年。2024年劇場公開。以下、本作)を観ながら、時々溜息が出た。

溜息が出たのは、どこにも行けず、もっと言えば、他の世界を希求しながらも「自分の力では、他の世界になんか行けない」という諦観(「親ガチャ」などは、その象徴)によって、各々がジレンマの自家中毒を起こしている世界に対してで、つまり、それが我々が生きている「現在」そのものだからだ。

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映画『一月の声に歓びを刻め』

『三島有紀子という映画作家は捉えどころがない』
北村匡平・児玉美月著『彼女たちのまなざし 日本映画の女性作家』(フィルムアート社、2023年)の中で、北村はこう評している(彼はパンフレットにも寄稿している)。

『一貫した作家性が見出せない』ということであるが確かにそのとおりで、しかし、2020年代に入り、少しずつ様相が変わってきたと感じ、そして2024年、いきなり『一月の声に歓びを刻め』(以下、

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「共助」の物語~映画『夜明けのすべて』~

コロナ禍にあって時の政権が「自助・共助・公助(の順)」と言って批判を浴びたのは、自らが発した「緊急事態」の意味がわかっていなかったからで、もちろん(民主主義社会において)平時は「自助・共助・公助」であるべきだ。

映画『夜明けのすべて』(瀬尾まいこ原作、三宅唱共同脚本・監督、2024年。以下、本作)を観て元気が出るのは、そこが基本的に「共助」の世界だからだが、元気が出るのは逆説的に「共助」が難しい

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映画『螺旋銀河』(『王国(あるいはその家について)』アンコール記念 限定公開)

映画『螺旋銀河』(草野なつか監督、2014年。以下、本作)上映後、家路についている間、ずっとモヤモヤした気持ちを言葉に出来ず、もがいていた。
徹底的に「言葉」にこだわった映画を観たにも拘わらず、それを言葉にできないのである。

本作は2014年の草野監督初長編作であり、今回の上映は、2023年末に公開された同監督の新作『王国(あるいはその家について)』が、翌年1月にポレポレ東中野でアンコール公開さ

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