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「プラットフォームビジネス」:オルタナティブな新しい形の可能性

先日、プラットフォーム労働の問題や現状について、韓国でのケースを中心に紹介しました。今日はその続きとして、オルタナティブな新しい形の可能性をもう少し模索してみようと思います。

(前回の記事も良かったらどうぞ。♡やフォローしていただければ、とても嬉しいです。)

代案を出すこと、ソーシャルイノベーションの一歩

今、日本や韓国だけでなく世界では、自然災害や気候変動の深刻化、貧富格差の深刻化を機に大量生産、大量消費、さまざまな機能の都市への一極集中化など、高度成長期以降に「良しとされてきた価値」を見直す人が増えているそうです。また、その流れは新型コロナウイルスのパンデミックに後押しされ、ますます強くなっていくのではとも言われています。私個人としても、社会全体が変わる/変わらなければいけないタイミングが来ているのではと、つくづく思います。

例えば、韓国や台湾では、近年「ソーシャルイノベーション」「社会的価値」「社会的インパクト」という言葉やキーワードが、中央政府や自治体、非営利団体や民間企業に至っても、様々な業界・様々な分野で盛り上がりを見せています。

近年、韓国や台湾では社会的企業やソーシャルイノベーションに関する法制度化がダイナミックに進められ、市民運動や非営利団体の活動だけでなく、行政や民間企業が今までとは異なる形で、社会的課題に向き合い動き始め、様々な社会的変化(ソーシャルイノベーション)が生まれています。また、そこでは既存の市民運動や非営利団体の活動にも様々な変化が生まれてきています。

特に、韓国の市民社会や革新的な政策をはじめとする政治、そして「ソーシャルイノベーション」の実例の多くは、もう一つの形を「提案」し、「提案」の域を超えて、「実践」してしまうダイナミックさがあります。

「反対」「否定」「批判」は、勿論大切です。しかし、「反対」「否定」「批判」を超えて、「変化」をつくるためには、「自分自身の暮らしを変えること」をはじめ、社会に「提案」し「実践」することが更に必要になってくるのではないでしょうか。私は、そんなことを韓国の市民運動やソーシャルイノベーションの実例から何度も学んだと思っています。

公共プラットフォームの登場

さて、本題のプラットフォームビジネスとプラットフォーム労働について戻りましょう。前回、韓国では増え続けるプラットフォーム労働者とそれに関連する問題について、社会的に議論が進んでいるということを紹介しました。また、それらの問題を解決するために、様々な代案が模索し始められているということに触れました。

ここ数ヶ月、少し話題になっていた事例があります。それは、「出前プラットフォームビジネス」の問題を解決するために登場した「公共出前アプリ」です。

公共出前アプリとは、「自治体」が開発・運営する食べ物出前アプリです。(実際の開発や運営は、民間企業への委託によって運営)
韓国国内では、仁川広域市や全羅北道群山市などでサービスが始まった他、人口が多く大きな市場が展望される京畿道(ソウルをドーナツ状に囲む首都圏地域)も参入することを表明し、更に注目が集まっています。

「ウーバーイーツ」のような出前アプリである「ペダル(配達)の民族」等をはじめとする既存のプラットフォームサービスと異なり、加入費や広告費、手数料が発生しないシステムで運営されています。

また、地域商品券などの地域通貨と連携し、利用すると消費者は割引を受けられる他、地域経済(特に、地域の自営業者を中心とした経済)の活性化につながると期待されています。

(毎週金曜日夜10時からKBSにて放送されている時事番組でも紹介されました。韓国語ですが、興味のある方はどうぞ。You Tubeの自動字幕設定で、自動翻訳ですがある程度の意味が伝わるぐらいの翻訳も表示されるはずです。)

現状と課題:군산 (群山)のケースを中心に 

全羅北道群山市で始まった出前アプリサービス「出前の名手」は、他の自治体もベンチマーキングに乗り出すほど、話題を呼び注目を浴びています。

7月21日付の全北道民日報によると、

去る3月13日にリリースされた「出前の名手」は、開始から4ヶ月経ち、21日現在、出前件数12万2千857件、注文売上総額29億3千万ウォンの記録を突破し、待望の30億ウォン突破が目前である。

また、加盟店1019箇所、加入者は10万7千418人で、消費者の安定した関心と支持が続いている。

特にこのアプリでは、ここ最近既存の出前プラットフォームサービスで問題になっていた加入費や膨大な広告費を負担する必要がないため、小規模事業者の負担を減らすことが可能になっています。また、利用者である市民は、地域商品券である「群山サラン(愛)ギフト券」を利用することによって、割引を受けられるなどの優待があるそうです。

前回紹介したプラットフォーム労働者の問題が解決するかと言えば、残念ながらそれはちょっと別問題です。しかし、小規模事業者の負担が減ったり、特定の地域で使えるアプリにしているからこそ、アルゴリズムによる過激な配置は避けられる可能性があるようです。

このように、良い点も沢山紹介されているのですが、まだまだ課題もあるようで、韓国国内では「公共配信アプリは、持続することができるか未知数」との見通しも出されています。その要因は、例えば以下のようなこと。

一定レベルの利用者を確保できない公共配信アプリは、税金だけ食う「幽霊アプリ」に転落したり、廃棄される可能性が高いこと。

アプリが存在しても、利用者が居なければ意味がない。民間の出前プラットフォームサービスでは、さまざまなプロモーションや各種無料・割引クーポンなどで利用者を拡大している。

自治体や政府予算で運営される公共出前アプリが、手数料収入に基づいて積極的なマーケティングを進行する民間出前アプリと競争することは容易ではない。成功したケースとして挙げられる群山の場合でも、広報などのマーケティング費用として投入された金額が3,000万ウォン水準にとどまった。そんな仲、 「初回注文1万ウォン割引」などのプロモーションを公共アプリできるか未知数。

また、技術力・ノウハウの確保のための持続的な開発と関心が必要。

などの課題が議論されています。もう少し、詳しく知りたい方はこちらの記事も参考になるかもしれません。

互いを思いやること、「社会的議論と共感」の必要性

私は、アプリやプラットフォームビジネスの専門家ではないので、このアプリについて評価すること、良し悪しを決めることは難しいです。ただ、思うのは既存の問題に対して、利益追求のため無限に効率だけを追求するシステムではなく「地域」と「人」を大切にした一つの対案なのかもしれないということです。

このアプリの登場や普及以降の様子、それだけでなく日本や韓国での「社会的企業」をはじめ、サスティナブル・エシカルな企業や商品の登場と普及を眺めてみると、消費者、そして加盟店/事業者ともに、既存のアプリやシステム、或いは商品とは異なる「社会的な価値」を認識する/共感し合う必要があると改めて思います。

このような公共アプリは「地域の経済も活性化できる。個人商店は、手数料や広告費の負担が減る。」というメリットや社会的意味はあります。しかし、私自身も同じく、単純に利用者の立場であれば、「少しでも安く」「少しでも便利」なものを選ぶのは当然のことだと思います。だからこそ、更に大きな社会的インパクトやそれを認識・説得・共感するパフォーマンスが必要であったり、消費者に対する何らかのメリットを模索しなければいけないのかもしれません。

「地域経済を救うため」「個人商店の経営を助けるため」だけではなく、消費者にも、事業者にも、そして地域にも、肯定的な意味と影響力を持つサービスを実現させるためには、更に持続的な社会的な議論が必要なのかもしれません。

まだ、登場して間もない公共出前アプリ…今後どのように「公」と「民」が繋がるのか、既存のプラットフォーム市場にはどのような変化が生まれるのか…今後の発展に注目していきたいと思います。


そしてふと思ったことを追記:
自分だけでなく、お互いのこと・見えない遠くの「誰か」のことをもう少し思い合ったり、考えたりできれば、もっと地球にも人にも優しい持続可能な社会に近づけるのではないでしょうか。

ちょっと効率は悪くても、ちょっと遠回りかもしれないけれど…それでも、それらの価値と意味に共感するもっと多くの人々と共に学び、考え、共有していきたいと考えています。あなたの周りには、どんな素敵な地球や人、地域に優しい商品や取り組み、アイデアやビジネスモデルがありますか?

ありがとうございます!감사합니다! 謝謝:)