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みなべ・田辺の梅システム:梅とミツバチ、梅林と水源。里山から里地までの、豊かで総合的なエコシステム。(CASE: 53/100)

▲「みなべ・田辺の梅システム」とサステナビリティ

和歌山と言えば何が思い浮ぶでしょうか?みかん、白浜、パンダなどがよく挙げられますが、今回ご紹介するのは「梅」にまつわる農業システムです。

私の出身である和歌山県は、温暖な気候と、中山間地が多いという地域特性を活かし、果物の栽培が盛んな「フルーツ大国」と言われています。中でもみなべ・田辺地域の梅は有名で、「南高梅」の名で贈答用としても高く評価されており、耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。私自身も小学校の頃に「和歌山ポンチ開発」に携わったり、高校の課外学習で現地に訪れたりして、馴染みの深いフルーツです。

この南高梅は2015年に世界農業遺産に認定された「みなべ・田辺の梅システム」という生産システムで栽培されており、それには4つの要素があります。

① 梅の花と、地域に生息するニホンミツバチは、蜜を供給し、受粉をしてもらうという持ちつ持たれつの関係。梅の「自家不和合性」という、同じ品種間での受粉では実がならないという性質をミツバチが助けてくれています。

② 生産者は高品質な梅を栽培するだけでなく、収穫した梅を塩漬けにします。生産者によって一次加工された梅は加工業者が商品化。この両者の連携によってブランド性が生まれています。

③ この地域で製造されている紀州備長炭ですが、製造過程において木を択伐*することで、山崩れを防ぎ、水分と栄養を山に供給。梅の栽培地域の環境を守っています。

④ 梅とミツバチ、梅林と水源など、里山から里地まで総合的なエコシステムになっていること。地域の環境が、総合的な視点からきちんと整備・維持されていることで、地域の田んぼや森をはじめとする多くの場所に、豊かな生態系が育まれています。

*択伐=細い枝は切らずに残し、後継樹を育てながら森林の更新を図る伐採法。

このように、独自性のある伝統的な農林業であること、それに密接に関わって育まれた文化があること、地域に生息する農業生物多様性などが高く評価された結果、「みなべ・田辺の梅システム」として2015年に世界農業遺産に認定されています。

さらにこの梅システムは、前述の通り、紀州備長炭という別の一大ブランドを作りあげることにも繋がっています。炭焼き職人が山崩れを防ぐ一方で、この地域では「薪炭林を残すために、山全体を梅林にしない」という古くからの習慣を守り、質の良いウバメガシを育ててきました。地域全体で、お互いの事業に良く作用し合い、持続可能性を高め合うという考え方は、資源を大切に有効活用することに留まらず、そこで働き社会生活を営む人々の関係においても、サステナブルであると言えるのではないでしょうか。

江戸時代から400年以上続いていると言われる「みなべ・田辺の梅システム」。
養分に乏しい土地や山間部という一見不向きに思える場所で、先人が試行錯誤し続けた結果、そこでしか行えない農業システムを確立しているところに、私は強い独自性と敬意を感じます。
そして、これから環境の変化が懸念される未来に向けて、持続可能性を高めるための一つの素晴らしいモデルになるだろうと考えます。

▲参照資料

▲キュレーション企画について

イノベーション事例についてi.labがテーマにそって優れた事例のキュレーションを行い、紹介と解説を行います。

2022年のテーマは「サステナビリティ」です。

▲今回のキュレーション担当者

i.labインターン 前田晏里

▲i.labについて

i.labは、東京大学i.school ディレクター陣によって2011年に創業されたイノベーショ ン創出・実現のためのイノベーション ・デザインファームです。東京大学i.school(2017年4 月 より一般社団法人i.school)が世界中のイノベーション教育機関や専門機関の知見を研究しながら独自進化させてきた理論知と、i.labが産業界で磨いてきた実践知の両輪で、企業向けにイノベーションのためのプロジェクトを企画·運営しています。

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