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海の見える通学路


まもなく○○駅〜というアナウンスに誘導されるかのように何人かが降りていく。残ったのは一車両に1人2人。終点までいけば、気づけば自分だけが取り残された。


若い人たちは進学や就職で都会に出る。都会か田舎、どちらに住みたいかと問われれば都会と答える人の方が多いだろう。田舎の電車は乗り遅れれば次の電車まで1時間も2時間も待つ羽目になるし、暇を潰そうにも近くにコンビニすらない。そもそも電車が通っていない地域だってある。
しかし、そんな不便な田舎にもいい所はある。

毎朝の満員電車の窮屈さもなく、青と緑の風景が透明なガラス越しにゆっくりと時間とともに流れる朝の穏やかさは田舎の電車の醍醐味だ。
暖かい日差しが車内に降り注ぐ日は、どこに座ろうか選び放題な座席にもあえて座らずドアにもたれかかって陽の光を浴びる。
山を抜け、少し走ると木々のすき間から青い海が見えてくる。入学式の日、「わぁっ」と声を出して友達と顔を見合せたのを思い出す。


冬のツンとした匂い。秋の金木犀。夏の潮風。春の花の香り。「ボーボポッポ〜」と唄う独特な鳥の鳴き声。
ビルに挟まれていたらかき消される音や季節を、田舎では感じることができる。
だから「田舎のおばあちゃん家」のような懐かしい匂いがするこの感じが好きだ。

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