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映画レビュー『騙し絵の牙』(2021)廃刊に追い込まれる雑誌を救え

出版業界はつらいよ

日本の出版業界のピークは1996年、
2兆円規模だった市場が、
現在では半分以下の1兆円規模に
縮小されています。
(ちなみに、国内では多くの産業が
’96~’97年あたりにピークを迎えた)

バブルの崩壊以来、
ずっと続いている不況、
さらに出版業界の場合は、
インターネットの普及が
大きく影響しています。

そもそも、出版という産業自体が、
それほど儲かる商売ではないのです。

’90年代まで伸びていたのは、
おもに雑誌であり、
その広告収入によって、
出版社は大きな業績を上げていました。

しかし、雑誌と言えば、
定期発行によって、
常に新しい情報を届ける性質が強いもので、
これはインターネットと競合します。

ネットに情報の鮮度・速さで
紙メディアが太刀打ちできるはずもなく、
多くの雑誌が廃刊に追い込まれるか、
ウェブに移行しているのです。

本作は、そんな出版業界の裏側を描いた作品です。

東松専務 VS 宮藤常務

物語の舞台は、薫風社という
100年以上の歴史を持つ
大手出版社です。

薫風社の社長が亡くなり、
次期社長には誰がなるのか、
世間が注目していました。

そんな中、東松専務(佐藤浩市)は、
大改革を打ち出します。

薫風社の看板商品であり、
長年、文芸界をリードしてきた
文芸誌『薫風』を月刊から、
季刊にすることを決定したのです。

これには、文芸部門を統括する
宮藤常務(佐野史郎)も黙っていません。

『薫風』の屋台骨を支える
大ベテランの大作家を
テレビのワイドショーに出演させ、
この動きを徹底的に批判させました。

多くの作家がこの動きに賛同し、
薫風社では作品を書かない
という作家が続出します。

伝統か、改革か。どっちも大事!

東松専務の矛先は文芸誌だけではありません。

薫風社のカルチャー誌
『トリニティ』もまた、
廃刊の打診をされることになります。

『トリニティ』の編集長は、
他の出版社から移籍してきた
速水輝(大泉洋)です。

彼は『トリニティ』の廃刊を
断固拒否します。

速水は東松専務に「必ず利益の出る雑誌にする」
と力強くアピールし、
「本当におもしろい雑誌を作る」
という意欲に燃えているのです。

そんな速水が白羽の矢を立てたのが、
文芸誌『薫風』の編集部から
異動することになった編集者、
高野恵(松岡茉優)でした。

彼女は、新しい作家を発掘し、
『薫風』でデビューさせるつもりでしたが、
それが破談となっていたのです。

意気消沈していた彼女は
『トリニティ』で活躍することになります。

本作はこのように
出版業界の裏側を描いた作品として、
興味深い内容でした。

文芸誌『薫風』のように、
伝統を守るのが大事なのか、
カルチャー誌『トリニティ』のように、
「おもしろい」のが大事なのか、
対立した価値観がぶつかり合うのです。

さらに、そこに大手出版社ならではの
派閥争いも絡んできて、
人間関係のおもしろさも描かれています。

ちなみに、本作の予告編を
まだご覧になっていない方は、
予告編を観ずに、
鑑賞することをオススメします。

いい作品なのですが、
残念ながら本作は、
予告で失敗していると思うのです。

あの予告を観ていなかったら、
もっと本作を楽しめた気がします。

観るつもりのある方は、
その理由を聞かずに、
観てみてください。

私の言っていることがわかると思います。


【作品情報】
2021年3月26日公開
監督:吉田大八
脚本:楠野一郎
   吉田大八
原作:塩田武士
出演:大泉洋
   松岡茉優
   宮沢氷魚
配給:松竹
上映時間:113分

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