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グググ

「俺さ、彼女できるかもしれない」


「おーよかったじゃん」


人生で唯一の不安が”結婚できるかどうか”だった友人に彼女ができる。大変喜ばしいことだった。


「でさ、早くて来年結婚するわ」


「は?」


“結婚ダービー”なるものがこの世に存在していたら、大外まくりもいいとこだ。


「でさ、結婚したらすぐ子ども作るわ」


「え?」


話は“結婚ダービー”どころか”ベイビーダービー”になってしまった。


よくよく聞いてみると相手の女性が年上で、結婚にも出産にも焦りを感じているそうだった。まぁ分かる。そうだよな。


「なるほど。でもよかったじゃん。唯一の不安が解消されそうで」


「いやそれがさ」


友人はため息を吐き、ポツリと呟いた。


「もう不安で不安でゲロ吐きそうだよ」


飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。


“自分の人生における唯一にして最大の不安を解消したら、待っていたのは不安でした”なんておかしな話だ。


「何でだよ。いいじゃん結婚できるんだから」


「そうだけどさ、まず俺らの仲間内で”結婚一番乗り”と”父親一番乗り”ってのが不安なんだよ」


確かに。第一号になるのが恐ろしい気持ちは分かる。


「それからお金な。何するにもお金が足りなすぎて不安」


お金。今の若者の悩みの種ランキング1位。


「この先仕事がどうなるかも分からないから不安だし、同棲もしたことないから不安だし」


友人の話は止まらない。


「あとその子さ、子ども3人欲しいって言ってるんだよね」


3人も育てられる気がしなくて不安だ。と最後に友人は言った。


先日会社の先輩に「趣味がなくなりました」と話したところ「イグアナさん、ステージの変え時ですね」と言われた。


今まで26年一人で生きてきて、ついに天井にぶち当たったのだと。とどのつまり結婚した方が良いと。


「なるほど」と言いつつ「いやあんた独身だろ」とツッコミたくなった。


コーヒーを一気に飲み干し、僕は友人に言った。


「不安かもしれないけどさ、ステージの変え時が来たんだよ」


「ステージ?」


「まぁ、諦めて不安を受け入れろってことだな」


友人は両手で顔を覆い、グググ…と聞いたこともないような呻き声を発した。

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