森林クレジットを安心して活用するために今、企業は何ができるのか?

現在、多くの企業が、森林等の自然に基づく解決策(NBS:Nature-based Solutions)から創出されるクレジットを自社の脱炭素戦略に活用することを検討しており、実際にすでに導入済みの企業もあります。森林、特に熱帯林の保全政策に関する研究を行ってきた私たちのような研究者にとっては、自然資源管理に必要な資金を生み出す画期的な流れに思える反面、NBSオフセットが持つ複雑な特性から、その活用の仕方によっては、それが世界全体の排出削減、ネット・ゼロの達成に貢献していないという結果をもたらしてしまうことも想定され、懸念も覚えます。新聞報道でも大きく取り上げられたこともあり、NBSオフセット活用のリスクを心配する声を企業から聞くことが多いのも事実です。

結局のところ、森林クレジットをオフセットとして活用することは歓迎されるべきか否か。仮にリスクがあったとしても、ネット・ゼロ達成に向けた行動を前進させるために、今、企業は何ができるのか。何をしなくてはならないのか。森林クレジットを活用するにあたっては、この3点をよく検討する必要があります。

昨年、米国の世界資源研究所(WRI: World Resources Institute)の研究者らが、NBSのオフセットとしての活用に関する機会とリスクをまとめたワーキングペーパーである"Consideration of Nature-based Solutions as Offsets in Corporate Climate Change Mitigation Strategies" を出版しました。著者のひとりであるFrances Seymour氏は、長年この分野の議論をリードしてきた第一人者です。私たち自身、ここまで包括的、科学的でありながら、企業の行動に直接結びつくような具体的な提言を含むペーパーを見たことがなかったため「これだ!」と思い、この度、WRIの許可を得て翻訳・公開しました。

この翻訳を通じて、NBSのオフセットの活用に関する議論の土台となる共通認識を日本のビジネス界にも共有し、本質的な議論と実際のアクションのための意思決定に貢献したいと考えています。

こちらでは、このワーキングペーパーのキーメッセージを抜粋・要約してご紹介します。

  • 責任あるオフセットを行うためには、需要側と供給側の双方が環境と社会の十全性に配慮する必要がある。

  • NBSによるオフセットは、他の分野のオフセットに比べて、本質的にリスクが高いと誤解されがちである。

  • NBSオフセットの適切な使用方法は、セクターによって、また時間の経過とともに異なってくる。

  • 企業は、NBSをオフセットとして使用することが自社の排出量削減の代替手段ではないことを示すために、さまざまな手段を講じることができる。

  • 企業は、高品質な基準を備えたプログラムによって認証されたクレジットのみを購入することで、NBSオフセットの十全性を確保することができる。

  • 企業は、積極的な削減戦略の実施に加えて、高品質なNBSクレジットを求めていることを発信するとともに、炭素市場を管理する堅固な基準や規範を提唱することができる。

NBSオフセットの活用について検討されている方は、ぜひワーキングペーパーもご一読いただければ幸いです(以下、リンク再掲)。

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「もっと知りたい世界の森林最前線」では、地球環境戦略研究機関(IGES)研究員が、森林に関わる日本の皆さんに知っていただきたい世界のニュースや論文などを紹介します。(このマガジンの詳細はこちら)。
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文責:梅宮 知佐 IGES気候変動とエネルギー/生物多様性と森林領域 リサーチマネージャー(プロフィール

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