流星群、その翌日。
昨日の夜は流星群だったから、たくさんのお願いごとを考えていた。それでも、願おうと思ってみても、頭の中を過ぎることは過去の後悔ばかりだった。あの時こうしていればよかった。もっと違う選択肢があったのに。そう考えていると、私の願いなんて「過去に戻りたい」それだけなんじゃないかって思えてきた。
そんな昨日のできごとを、学校に向かう途中でクラスメイトのサヤコに何気なく話してみた。
「マナさぁ、ほんと暗いよね」
返ってきた、第一声。マナとは私のことである。
「まだアキラ先輩と別れたこと引きずってるの? もう忘れなよー。なんかさ、過去のことばっかり振り返ってるとチャンス逃すらしいよ。色々と。もっといい男なんていっぱいいるって! ポジティブにいこうよー。今を生きよう!」
どこかのまとめサイトからでもそっくり抜き出してきたようなセリフで、サヤコは前向き前向き、と弾むように歩いた。
そもそもアキラ先輩と別れたのは半年も前で、お互いになんとなくすれ違いが増えたからだし、未だに未練があるわけではない。もちろん、その時もっと正しい対応があったかもしれないと思い返すこともあるし、後悔の一端ではあるのだろうけれど。そういうハッキリしないモヤモヤがうず高く積もって、人生をやり直したいと立ち止まってみるのは、そんなにも責められることなのだろうか。
無理に明るく振る舞うことで得られるチャンスは、私を本当に幸福にするのだろうか。
後悔なんてしたくない。誰だってそうだ。後悔したくないから、今を大切に生きる。それだってわかる。
だけど、大切にしたい今の先に未来があって、その未来はいつかの私の今になる。
私が今立っている場所は、過去の私から見ると「いつかの今」に当たるんだ。現在を大切にしすぎることで、未来にまた私が悩んでいたとしたら。
「また暗いって言われそう」
思わず口に出てしまったぼやきに、前を行くサヤコが不思議そうに振り向いた。
「なんでもなーい」
私は気安い調子でそう言って、サヤコの歩幅にそっと合わせた。彼女のように、いつでも明るく振る舞うことは私にはできそうにない。次の流星群では、また同じ願いを祈るかもしれない。それなら、それでいい。
私は制服のポケットから飴玉をひとつ取り出して、朝の空気に満ちた冷たい青空に放り投げた。なぜだか清々しい気持ちで見上げる雲の向こうで、キラキラといっそう強い光がこちらを覗き返していた。
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