【連載】雲を掴んだ男 07/乙女の祈り
その日の夜、夕飯を終えた夏生は煮え切らない気持ちを抱えながら自宅を出た。夏生の住む団地には中庭がある。そのため7階建ての建物の中央部分が最上階まで吹き抜けとなっており、周辺に位置する部屋同士は、空間を挟んでお互いの家を認識しやすい設計になっている。
里香が暮らす部屋は、夏生の家から中庭の吹き抜けを挟んだ正面に位置する。彼女の姉は3年ほど前から一人暮らしを始め、母は今でも遅くまで仕事をしているそうだ。だから、部活を終えた里香が帰宅する19時ころに、玄関脇の小窓にようやく明