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童話「ぼくはピート、そしてレイじいさん」

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短編の連作童話です。全27話。最後に「あとがき」も。 魔法を使わない魔法使いのレイじいさんと少年ピートくんの物語。 グリーングラス島の人たちと動物たちと共に、成長していくピートく…
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#少年

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第11話

第11話 「僕の将来」 青い光に日は落ちて、 対岸の姿が 少しずつ見えなくなっていく。 「しかし、惜しかったよなぁ」 「まあ言うなよ。 みんな、がんばったんだし」 船の中で、 みんなは、 ナッツ酒を飲みながら、 おしゃべりしている。 僕は、 船の一番後ろに腰掛け、 ナッツジュースを飲む。 「やっぱり5回裏だよな。 ピッチャー、ピートくん、 大ピンチの二死満塁でさ」 「バッターは、 トラヒゲのゲイリーさん」 「カキーン! ホームラン! だもんなぁ」 「ピートく

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第13話

第13話 「すてきな種の育て方」 エングゲルグの港に、 小さなお店がオープンした。 オーナーは、 赤鼻のポーキーさんで、 世界をあちこち旅して 見付けてきた 不思議なものを たくさん売っている。 僕とレイじいさんは、 魚釣りに行く前に、 店に寄ってみた。 「うわっ」 とまず最初に驚いたのは僕。 白い山の模型を触ったら、 突然 火が吹き火山と化した。 続いて 「おおっ」 とレイじいさん。 赤い家の窓から、 僕そっくりの人形が飛び出した。 「これは、どういうこと?

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第14話

第14話 「虹現象」 僕たちの夢のような現実の一つに、 虹現象というものがある。 二重虹が架かる時、 七通りの世界がやってくるのだ。 服作りのメジャーさんは、 世界は 水色もしくは涙色だと言う。 空と涙は 微妙に絡み合って溶け合って 藤の雫になる。 空は、 小さな涙を吸い上げて、 あれだけ広くなれるのさ と水溜りを見ながら メジャーさんは笑った。 パン職人のクーキーさんは、 世界は紅、 もしくは回り続ける風車だと言う。 結局、 回り続けるしかないのさ、 でも、

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第15話

第15話 「宇宙の答え」 石ころを蹴ったら、 ハットムの木の根元に当たった。 木の窓から 詩の掟鳥が顔を出す。 「今、宇宙の小爆発を見たよ」 「宇宙の小爆発って、何?」 「石ころを蹴っ飛ばして隅っこに当たるもの」 パタンと窓は閉じる。 僕は石ころを探す。 黄色い小さな石ころは見付からず 消えてしまったのか バラバラに壊れてしまったのか。 その時、 小さな声が キュウキュウキュウ。 僕は、 木の裏側に回り込む。 木の皮と同じように、 くっついて くいこんで

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第16話

第16話 「故郷の島」 渡り鳥新聞が投函された。 僕は、 丘の上の木のてっぺんで休む パーソンさんに挨拶する。 「パーソンさん。どこに行ってたの?」 「やあ。ピートくん。 故郷だよ。 貝の島のカタリ島。 大きな波が打ち寄せる海岸がある」 「すてきだね」 「でも、 ここ数年で、随分と人が増えたみたいだ。 貝の島は、 鳥の住む島だったのにね」 「そうなんだ・・・」 「でも人々は、 私たちを歓迎してくれたよ。 だから、 やっぱり貝の島は、 私の故郷なんだ」 「・・

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第17話

第17話 「坂の上の写真館」 坂を上ると 僕の道が見えるような気がした。 坂の上には 写真館がある。 滅多に人は来ないね と受付の人が言う。 ここは無料開放だけれど 無料だといつでも来れる気がして 来ないのかもねと笑う。 ここは北側。 南側の美術館は、 ちょっとした名所で、 そこは必ずといっていいほど 人がいる。 でも僕は、 南側の美術館も この北側の写真館も 同じくらい好きだ。 「私もね」 受付の人は言う。 「南の美術館は 建物も素晴らしいし、 展示されて

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第18話

第18話 「クロスロード」 ドゥンドンドゥンドン、 バスが来る。 朝一番のバスは 幾人かの人を乗せ、 そして降ろし、 最後の一人になった僕。 「よい旅を」 運転手さんは 軽く手を上げ微笑んだ。 終点は山の麓。 そうだ。 僕は、旅に出る。 僕は、 誰もいなくなった山道を ゆっくりと歩み始めた。 リュックの中には 水筒とパン。 レイじいさんには 何も言ってこなかった。 僕は、 一週間ばかり前から 毎日 同じ夢を見続けていた。 その夢は、 ここにつながってい

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第19話

第19話 「古い友人」 朝、目が覚めたら レイじいさんがいない。 書き置きには 「ハウバートの所へ行ってくる」 とだけ。 ハウバートさんは レイじいさんの古い友達で 島の反対側に住んでいる。 僕が一人で トーストを食べていると バールが呼んだ。 「ジェルニーの木に 丘りんごが実ったよ」 丘の上の木になるりんごは赤と青。 一つの木に 赤りんごと青りんごが いっぺんになる姿は、 クリスマスツリーのようだ。 さっそく、僕たちは丘へ行き、 最初に バールがジェルニーの

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第20話

第20話 「砂の調べ」 知らない誰かから 贈り物が届いた。 玄関のドアのわきに、 白いリボンの緑色の箱。 Lのサインは、 レイじいさんかと思ったら 違うと言う。 僕たちは、 迷ったけれど 開けてみた。 中には、 掌にのる程の 硝子の卵。 その卵の中に キラキラ光る砂。 傾けると サラサラと音がする。 ゆっくり揺らすと 誰もいない海。 大きく揺らすと 真夏の海。 細かく揺らすと 魚たちの声・・・ 僕らは、 しばらく 卵の砂の音を耳に近付けて 聞き比べた。

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第21話

第21話 「赤い蝶の伝説」 コートンさんの記録は、 フィルムの中にある。 フィルムの中に映っている コートンさんは若い。 白黒の8ミリフィルムは、 カタカタと音をさせながら 白いスクリーンに映し出されていく。 それは、 島の歴史そのものだった。 かつて 僕らの島は無人島だった。 鳥たちと動物たちがいて、 人間は 外の世界からやってきた。 それが コートンさんである。 コートンさんは、 蝶の研究家だった。 ある日、 ボートを漕いでいて、 海に浮かぶ赤い蝶の死骸

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第22話

第22話 「あてのない始まり」 レイじいさんが「旅に出よう」と言った。 「どこへ?」 と僕が聞くと 「あてのない旅さ」 と答える。 いつもと違う旅なのだ。 レイじいさんは、 魔法の笛だけを持っていくと言った。 今まで見たことのない古い笛。 本物? と聞くと、 プーと吹いてみせた。 僕は何も持たないことにした。 これと決めると、 あれもこれもとなってしまうからだ。 そうして、 僕たちは、 家のドアを閉め、 外出中の札を下げ、 出掛ける。 明日の朝には 戻って

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第23話

第23話 「命の赤い花」 「あの赤い花を最後に見たのはいつだったか・・・」 レイじいさんが 五度目のうわ言を言った時、 僕は、 赤い花を探しに行かなくてはと思った。 赤い花といっても、 どの赤い花か、 レイじいさんに聞きたくても、 熱で途切れ途切れの息をするばかり。 ドクターペルさんは 「今、島中流行りのコード風邪ですな。 こじらすと危険だ。 ピートくんも気を付けて」 と言って、 次の患者さんの家に向かった。 僕は迷った。 一時間の内に 戻ってくれば ・・・けれ

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第24話

第24話 「ドアの外」 平和の風が吹き荒れていた。 レイじいさんは、 一日中、窓の外を見ている。 僕には、 何かが分かりかけていた。 レイじいさんは、 翌朝、鐘の丘に登り、 塔のてっぺんの鐘を鳴らした。 島中の人々は驚く。 鐘の鳴る時は、 百年に一度。 島は、 大きく変わる時だった。 「平和の次に来るものは何だい?」 レイじいさんの問いに、 僕は、 硝子の中にある宇宙を考えた。 僕は、 硝子を割る。 粉々に砕けたかけらは、 星のように 美しく尊い。 「

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第25話

第25話 「透明な意識の本」 真昼の太陽の真下で、 ある人に出会った。 名前はラブルという、 女神のような人だった。 その人から、 透明な分厚い本をもらう。 表紙は、 透明な中に 生きたままのバラの雫が光っていた。 そして、 ページをめくる度、 ぴららぴららと音がした。 「これには、何が書かれているの?」 「ピートさん。 それには、 書かれていないものが書かれているのよ」 僕は、 ピートさんと呼ばれたのは初めてで、 少し恥ずかしかった。 書かれていないものが