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ぼくはピート、そしてレイじいさん 第17話

第17話 「坂の上の写真館」


坂を上ると
僕の道が見えるような気がした。

坂の上には
写真館がある。

滅多に人は来ないね
と受付の人が言う。

ここは無料開放だけれど
無料だといつでも来れる気がして
来ないのかもねと笑う。

ここは北側。

南側の美術館は、
ちょっとした名所で、
そこは必ずといっていいほど
人がいる。

でも僕は、
南側の美術館も
この北側の写真館も
同じくらい好きだ。

「私もね」
受付の人は言う。

「南の美術館は
建物も素晴らしいし、
展示されている絵もいい」

僕は
灰色のドアを押す。

ただの灰色の建物は、
少し地味で、
遠くから見ると、
ただの巨石が置いてあるように見える。

でも、僕は、
この、
ただの巨石の中身を知っている。

中は、
白と黒の世界なのだ。

最初の写真は公園。

作りかけなのか
壊されていくのか、
花壇には雑草が茂り、
滑り台とブランコが
時間が止まったように
黙りこくっている。

鉄棒は、大中小と三つ、
影になっている。

ベンチには
一匹のブチのネコが眠っている。

次の一枚はバス。

バスの外側と内側。

外側には、
星空観光とペイントされた文字が
はげかかっている。

かつて
星空を走ったバスだ。

今は、
もうない。

星空を運転する運転手さんが
いなくなったからだ。

次の一枚は、空。

雲いっぱいの空は
空自身が写っていない。

雲が
まだらに重なり合っている。

太陽の光が
その雲の間から一筋降りている。

その一筋から空と分かる。

これが空だ。

見えない空から
見える空。

それから
「光の輪」
「屈折する闇」
「道なき道」・・・

全て、
モノクロの世界だ。

最後に
小さな一枚の写真。

ポートレートだ。

白いひげをたくわえた
優しくて強そうな目の人。

彼は物語る。

自分の目に映るものを信じました。

出口のドアに向かうと
受付で、
レイじいさんが、おしゃべりしていた。

レイじいさんは、
これからだというふうに
入り口を指差した。

僕は、
うなずいて、
坂を下りていく。


To be continued. 


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