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ぼくはピート、そしてレイじいさん 第18話

第18話 「クロスロード」


ドゥンドンドゥンドン、
バスが来る。

朝一番のバスは
幾人かの人を乗せ、
そして降ろし、
最後の一人になった僕。

「よい旅を」

運転手さんは
軽く手を上げ微笑んだ。

終点は山の麓。

そうだ。

僕は、旅に出る。

僕は、
誰もいなくなった山道を
ゆっくりと歩み始めた。

リュックの中には
水筒とパン。

レイじいさんには
何も言ってこなかった。

僕は、
一週間ばかり前から
毎日
同じ夢を見続けていた。

その夢は、
ここにつながっている。

小さな妖精マフが
落下傘で降りてきて、
僕を呼ぶ。

「おーい、ピート。
ゆっくり来てくれ」

僕は、ゆっくり山道を登る。

ぐるぐると
木の間を通り抜けても
頂上は見えてこないし、
鳥の鳴き声は遠くなるばかり。

僕は疲れて、
石の上に座り、
水筒とパンを取り出した。

れんげ水は、
僕の喉にすぅぅと通り、
穴のぽこぽこ空いたパインパンは、
僕のおなかに納まる。

「おーい、ピート。
もう少しゆっくりだ」

もう少しって、
どのくらいなんだ?

僕は、
ゆっくりゆっくり
山道を歩き続けた。

ガサガサと
黒い鳥が何羽も
頭の上を通っていく。

僕は、
かなり疲れてきた。

うっすらと頂上が見えたと思うと
木々に隠れてしまう。

足元には、
木漏れ日が点々を描く。

パインパンみたいに。

「ピート。
おいでよ、早く」

ふと顔を上げると
頂上が見えた。

頂上の木の上から
落下傘が降りてくる。

僕は
急いで頂上までかけあがり
両手を差しのべると、
マフは、
上手にふわりふわり
手の中に舞い降りた。

「これは、何なの?」

「誕生さ。僕と君の」
とマフは言った。

「それで?」
とレイじいさんが聞く。

「それで、
僕の夢の中には出てこなくなったんだ」

「また会いたいかい?」

「分からない。
でも、きっといつか会うよ」

レイじいさんは笑って、
れんげ水を指差す。

「そろそろ苦味を入れてもよい頃かな」

僕は、
ちょっと考えて、
笑って
首を振った。



To be continued. 

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