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ぼくはピート、そしてレイじいさん 第21話

第21話 「赤い蝶の伝説」


コートンさんの記録は、
フィルムの中にある。

フィルムの中に映っている
コートンさんは若い。

白黒の8ミリフィルムは、
カタカタと音をさせながら
白いスクリーンに映し出されていく。

それは、
島の歴史そのものだった。

かつて
僕らの島は無人島だった。

鳥たちと動物たちがいて、
人間は
外の世界からやってきた。

それが
コートンさんである。

コートンさんは、
蝶の研究家だった。

ある日、
ボートを漕いでいて、
海に浮かぶ赤い蝶の死骸を見付ける。

そのあまりにも赤い羽に
ひどく驚いたそうだ。

・・・

真っ赤な蝶は、
夕日に照らされて、
更に赤く燃えていた。

そして、
私は
硝子の瓶に赤い蝶を入れ、
炎の羽を眺め続けた。

夜が更け、
夜が明ける。

その時の
私の驚きといったら・・・

夜更けと共に、
蝶の羽は漆黒となり、
朝焼けと共に
明るい光となり始め、
そして青空になった。

雲まで浮かんでいる。

蝶の羽は空だった。

晴れた空、
雨の空、
夜の星の空。

・・・

これは、
コートンさんの日記である。

フィルムと共に
発見された日記。

島に
遊園地建設の計画があり、
掘り起こされた所に、
ドラム缶のようなものが埋められていた。

コートンさんの記録は、
その中に全て納まっていた。

コートンさんは、
不思議な蝶を追って、
この島に辿り着いたらしい。

無人島には、
不思議な蝶がいた。

白黒フィルムでは分かりづらいけれど、
確かに蝶の変化は見てとれた。

蝶は、
黒っぽくなったり
白っぽくなったりした。

コートンさんは、
とても幸せそうに笑っていた。

「昔はいたんだね」
と僕が言うと
「今もいるかもね」
とレイじいさんは言う。

「見たことあるの?」
と聞くと、
レイじいさんは、
ただ微笑んだ。

その時、
僕にも
不思議な蝶が
見えるかもしれないと思った。

コートンさんは、
九十八まで生きて、
この島で死んだ。

蝶の瓶は見付からなかった。

無人島には、
人々が住み始め、
青い空も
青い海も
美しく継続している。

遊園地開発は中止になった。

そうして
赤い蝶は
生き続けることになる。



To be continued. 


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