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ぼくはピート、そしてレイじいさん 第20話

第20話 「砂の調べ」


知らない誰かから
贈り物が届いた。

玄関のドアのわきに、
白いリボンの緑色の箱。

Lのサインは、
レイじいさんかと思ったら
違うと言う。

僕たちは、
迷ったけれど
開けてみた。

中には、
掌にのる程の
硝子の卵。

その卵の中に
キラキラ光る砂。

傾けると
サラサラと音がする。

ゆっくり揺らすと
誰もいない海。

大きく揺らすと
真夏の海。

細かく揺らすと
魚たちの声・・・

僕らは、
しばらく
卵の砂の音を耳に近付けて
聞き比べた。

その時、
トントントンと
戸を叩く音がした。

レイじいさんが戸を開けると、
誰もいない。

外は風がビュウビュウ、
木はザワザワと
揺れているだけだった。

「今夜は、嵐でも来そうだな」

空はどんよりで
雲の流れが早かった。

夜になってベッドに入り、
僕はまだ砂の卵を耳に押しあてていた。

レイじいさんは、
お風呂に入って鼻歌を歌っている。

僕のまぶたは、
ゆっくりと閉じていった。

トントントン。

窓を叩く音がした。

僕は目を開け
窓を開けた。

迷い鳥?

でも、
誰もいなかった。

風の音だったのかもしれない。

僕は、もう一度ベッドに入る。

卵を机の上に置いて。

そして翌朝、
僕は発見する。

卵の砂の中に埋もれた
一通の手紙を。

今まで
耳に押しあてていたので
分からなかったのだ。

手紙は、
親指の爪くらいで、
きちんと封筒に入っている。

僕は、
レイじいさんに相談した。

硝子の卵を割って、
手紙を読むべきかどうかを。

レイじいさんは、
腕を組み、
困った顔をした。

卵の砂の音を
聞けなくなるのは寂しい。

僕は、
昨夜のトントンという音を思い出した。

やっぱり
何かを伝えたいのかもしれない。

僕は卵を持つ手を振り上げた。

「待ちなさい」
とレイじいさんが止めた。

「全てを知ったところで、
全てが分かるとは思えないな。
何か、考えてみないか?」

僕は、
知らない誰かのことを考えてみる。

その時
何故か
夏の終わりに
なくした
好きだったビーチサンダルのことを
思い出していた。



To be continued. 


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