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ぼくはピート、そしてレイじいさん 第25話

第25話 「透明な意識の本」


真昼の太陽の真下で、
ある人に出会った。

名前はラブルという、
女神のような人だった。

その人から、
透明な分厚い本をもらう。

表紙は、
透明な中に
生きたままのバラの雫が光っていた。

そして、
ページをめくる度、
ぴららぴららと音がした。

「これには、何が書かれているの?」

「ピートさん。
それには、
書かれていないものが書かれているのよ」

僕は、
ピートさんと呼ばれたのは初めてで、
少し恥ずかしかった。

書かれていないものが
書かれているという意味は、
僕には分からなかった。

ページには、
文字のような
絵のような
記号のような
点のようなものが、
びっしりと
もしくは、
まばらに、
もしくは
一つぽつんと書かれている。

僕には、
読めない。

そのどれも
一つも
僕に
理解できる言葉はなかった。

「理解が全てではなく、感じることです」

僕は、
その透明な本を胸に抱えた。

「でも、なぜ、僕にくれるの?」

「それは、宇宙の愛情からです」

ラブルという女神のような人は、
白い長い細いドレスの裾を少しだけ風になびかせて、
白い白い道をゆっくりと歩いていった。

決して、
消えはしなかった。

ゆっくりとした歩きに、
僕は、
追いかけようとすれば
追いつくことができたけれど、
追いかけることはしなかった。

だけれど、
ずっと、
その後ろ姿を見続けた。

地平線に隠れてしまうまで。

レイじいさんは、
僕の透明な本を
ちらりと見たように思ったけれど、
何も言わなかった。

もしかしたら、
見えなかったのかもしれない。

僕は、
部屋で、
透明な本に向かい、
じっと、
その消えていく文字を見た。

追いかけて捕まえることのできない記号だった。

理解することなど無理だ。

僕は、
目を閉じる。

しばらくすると
暗闇に
宇宙の愛情が見えた気がした。

レイじいさんが
声をかける。

僕は、
その分厚い本を閉じる。

この先は、
分からない。

感じるだけだ。

レイじいさんが、
全て分かっているように
頷いた。



To be continued. 


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