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ぼくはピート、そしてレイじいさん 第23話

第23話 「命の赤い花」


「あの赤い花を最後に見たのはいつだったか・・・」

レイじいさんが
五度目のうわ言を言った時、
僕は、
赤い花を探しに行かなくてはと思った。

赤い花といっても、
どの赤い花か、
レイじいさんに聞きたくても、
熱で途切れ途切れの息をするばかり。

ドクターペルさんは
「今、島中流行りのコード風邪ですな。
こじらすと危険だ。
ピートくんも気を付けて」
と言って、
次の患者さんの家に向かった。

僕は迷った。

一時間の内に
戻ってくれば

・・・けれど、
もしも・・・

「あの赤い花を最後に見たのはいつだったか・・・」

僕は、
外へ飛び出していた。

だけど
分からない。

どこへ行けばいいのか。

夕日の力は弱く、
導いてはくれなかった。

森の中へ入ると
光は更に弱くなり、
途方に暮れる。

うっすらと月が出ているようだけれど、
何の力も持たない。

そういう時間の隙間があるのだ。

魔法の力が欲しかった。

動物たちも姿を見せず、
草花も眠っている。

一年の中で一番寒い日。

「そうか。
今日は冬見月の日だった」

ちょっぴり後悔した。

僕は、
コード風邪にかかるかもしれない。

けれど
赤い花が見付かれば・・・

湖の方へ行き
山の麓の方へ行った。

一時間は、
たっぷり過ぎている。

戻ろうと思った。

ところが、
ぐるぐると
同じ所を歩き回っている。

迷った。

目の奥から
冷たいものが流れる。

すると
空から
コトリ
コトリ
小さな氷が降り注ぎ、
僕の体を滑って、
地面に積み重なっていく。

あたりは
キラキラ輝く
氷の世界。

月は
平べったく丸い。

僕は、
氷を踏み、
前へ進む。

月の光が
一筋の道を作って。

「冬見月は
ただ一度。
叶える願いも
ただ一つ」

三日目の朝、
レイじいさんは
目を覚ました。

「生死の境目を見てきたよ。
それは、
月の光の氷の道だった。
ピートくん、
ありがとう。
君が見せてくれた赤い花。
わしは一生忘れん」

レイじいさんが
最後に見た赤い花。

僕の赤い花と
同じだったのだろうか。

けれど、
島中のコード風邪は、
どこかへ消えた。

ドクターペルさんと
赤い花によって。





To be continued. 

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