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ぼくはピート、そしてレイじいさん 第24話

第24話 「ドアの外」


平和の風が吹き荒れていた。

レイじいさんは、
一日中、窓の外を見ている。

僕には、
何かが分かりかけていた。

レイじいさんは、
翌朝、鐘の丘に登り、
塔のてっぺんの鐘を鳴らした。

島中の人々は驚く。

鐘の鳴る時は、
百年に一度。

島は、
大きく変わる時だった。

「平和の次に来るものは何だい?」

レイじいさんの問いに、
僕は、
硝子の中にある宇宙を考えた。

僕は、
硝子を割る。

粉々に砕けたかけらは、
星のように
美しく尊い。

「平和の次に来るものは、平和の外側だ」

僕は呟く。

レイじいさんは、
双眼鏡を僕に渡す。

見えるはずのない
海の彼方が見えた。

波間に小さな塊。

それは、
こちらに向かって、
ゆっくり漂い、
進んでくる。

「氷の島だ!」

誰かが叫んだ。

みんな、
海岸へ走る。

氷は、
ゆっくりとたゆたい、
僕らの島の
ちょうど隣に並んで、
止まった。

それは、
氷ではなく、
硝子の島だった。

人々は、
躊躇した。

植物も
動物もいない島。

洞窟のような穴がぽっかり、あいているが、
誰も出てくる気配がしない。

耳を澄ますと、
小さな音が聞こえてきた。

フルートのような美しい音色。

けれど、
誰も出て来ず、
島の人々も
硝子の島へ誰一人、
行こうとしなかった。

夢だった。

全てが。

人々は、
そう思いたかった。

レイじいさんは、
硝子の洞窟に入っていく。

僕は見守る。

そして、
レイじいさんは、
小さな女の子の手を引いて、
硝子の洞窟から出てきた。

「みんな、冷たくなってしまったの」

女の子には、
何が起こったのか、
分かってはいないようだった。

硝子の島は、
砕けて壊れた。

破片は、
貝殻の雫に変わっていく。

人々は、
その貝殻を拾い集め、
海岸に
螺旋の塔を建てた。

硝子の女の子は、
フィリと名乗り、
庭先で、
花になった。

僕は、
知る。

大きくなるということは、
何かを失うことなのだと。




To be continued. 


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